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32話 それぞれの思惑

―――sideディラン


セルフィが王城に要請を出してから数日後、学園長室には総責任者であるディラン本人の姿があった。


「わざわざお越しくださりありがとうございます。

 ただいま準備しておりますので少々お待ちくださいませ」

「急に来てしまって悪いね。

 ただ、私にとっても急ぎとなる案件だから性急かなとは思ったけど直接来させてもらったよ」


(鑑定の練習もあるから早めに確認しておかないとね)


本来の流れでは学園からの会談要請に対して日程調整の連絡を何度かやりとりしてから会談となるのだ。

しかし、ユリスの件だと分かりきっているディランはさっさと内容を知りたいがために日程調整の段階をすっ飛ばしてしまったのだ。

お陰でセルフィたち学園側は突然の訪問に慌てふためきながら急いで準備をする羽目になっている。


「先ず、この度は我が学園から不届き者を出してしまい誠に申し訳ありません」

「ああ、報告は受けたけど今後の体制を見直してくれればそれで良いよ。

 それにしても、まさかこうも見事に釣り上げてくれるとはね。事前に話を通しておいて良かったよ。

 流石の彼でも味方がいるか分からない状況で指摘することは出来なかっただろうからね」

「ええ、本当に彼には感謝しております。

 それと、こちらが2人から押収した魔道具になります」

 

セルフィは押収した増幅の腕輪(負)をディランに提出する。

鑑定で効果を確認したディランは顔を少し顰めてから収納する。


「この内容なら報告されていた苦情もこれがらみだと考えて良さそうだね。

 恐喝や煽りで負の感情を抱かせてからそれを増幅する…か」

「このような物を自由に使用させていたと思うと…これまで気づけなかったことが悔やまれます。

 まだ報告には上げていないのですが、この腕輪について前にバグンが懇意にしている人から貰ったと言って急につけ始めたそうです」

「ふむ…貰った、か。

 分かった、こちらでも背後関係を調べておこう」


そうこうしている間に準備が出来たらしく、ユリスの試験成績をまとめた書類が届けられる。


「お待たせ致しました。

 先ず、こちらが第1種案件の論述内容になります」

「ありがとう。

 ………!?…そうか、そういう事か。

 リンドバル学園長、これはひとまず国家機密として扱う事にする。検証もこちらでしよう。

 それまでは自分で試すのも禁止だ」

「…分かりました」


(今の間…試す気だったな?

 気持ちは分かるけどこればっかりは我慢してもらわないとね)


「まあ、そう不満そうにしないでくれ。

 今起きている問題が解決すると分かれば発表の準備に入るだろう。その段階になれば君なら発表前でも実践していいからさ。そちらも教育内容を見直す必要があるだろうしね」

「!…申し訳ありません。

 ご配慮ありがとうございます」

「それで他の試験結果についてはどうだったかな?」


ユリスの実技試験の結果を聞いてディランが思わず笑ってしまうという場面もあったが、これといって問題もなく穏やかに会談は終わったのであった。



ところ変わって王城の一室にて、そこでは学園から帰宅したディランが興奮冷めやらぬといった様相でジルバへ報告をしていた。


「父上!鑑定の技能習得方法が判明しました!早速検証に入りたいのですが、しばらくそちらに集中して宜しいですか?それと空のスキル石を2つほど使用したいのですがまだ在庫がありますか?もし無ければ今後の展開も鑑みて市場にてある程度の量を確保しておきたいので許可をいただきたいのですが…」

「ええい、落ち着け!

 ディラン、早く試したい気持ちは分かるがまずは報告をしろ。鑑定ということはユリスの試験結果が出たのだな?」


どうやらディランは王族という立場もあってか学園では感情を抑えていたようだ。

捲し立てるディランに対しジルバは軽く威圧することで強引に正気へと戻す。


「!?……申し訳ありません。

 では報告を…筆記に関しては論述以外で満点。実技に関しては他の受験生と差があり過ぎて厳密に点を付けると合格者が他にいなくなるそうなので、データは参考記録として処理されて全て満点という扱いとなっているようです。

 面接も問題はなしですね。逆に犯罪者を見つけ出したくらいですし、思想にも減点項目は無かったそうです」

「そうか、なら論述次第では久方ぶりの第1種特待生となるな。その論述の内容はどうだったのだ?」

「ベースレベルが過去の記録に比べて停滞しているのは心得系紋章によって発動する紋章効果『初心への誘い』が原因とされていますね。

 初心への誘いはレベル30までは上がりやすくなる一方でそれ以降では成長が遅くなるとあります。

 他の紋章効果を発動させるか、そもそも心得系を複数宿さないかで初心への誘いを発動させないようにしなくてはいけません。

 しかも紋章スキルの効果を低下させる効果もあるそうですね。どの程度かは不明ですが鑑定にも影響はしているようです。こちらは空のスキル石でパーソナルスキルの方に移すだけで大丈夫なようですが」

「なるほど、初心への誘いにそんな効果があったのか。

 にしても空のスキル石か…この前の収納で結構使ったから2個程度なら大丈夫だろうが、在庫自体は心許ない筈だ。補充は許可するから手配しておいてくれ」

「分かりました。

 鑑定についてはまず自分でやってみます。項目が増えれば認定しても大丈夫でしょうから検証はそちらが先ですね。

 問題はレベル停滞の方です。こちらの検証は私だけでは流石にやりようが有りません。詳細鑑定で見れるようなので期間内にそのレベルまで習得できれば大丈夫なのでしょうが、最悪は未検証で第1種認定していただく事になります」

「それは…まあ、鑑定だけでも確定すれば問題なかろう。

 にしても初心への誘いか…公表すべきか否か」


どうやらジルバは最も手軽な紋章効果として多くの人に活用されているために、公表する事で混乱が起きないか懸念を抱いているようだ。


「父上、今後は中級、上級のダンジョンなどの探索も多くなるでしょう。もしそのレベルの攻略を多くの人が目指すのであれば大きな足枷にもなりますし、未発動の者との差が如実に現れます。おそらくはそのタイミングで誰かが気付き広まる可能性が高いのです。

 であれば、レベル格差の少ない今の内から広く認識させておいた方がよろしいのではないでしょうか?

 幸いな事に心得系でも他の紋章効果を発動出来るようですし、その組み合わせも同時に公表すればそれなりの騒ぎにはなるでしょうが反発自体は少ないと思います」

「…それもそうだな。

 では、検証が終わり次第その内容で正式な発表という事にしよう。そうだな…ユリスを協力者としてディランの名で研究成果を発表とするのが良いだろうな。他にも検証の協力者として何名か見繕っておけ。

 それと他にも必要な物が有れば宝物庫から取り出して使用しても良いぞ。後で理由と共に報告してもらうがな」

「分かりました。

 では、私は早速検証に入ることとします」


そう言ってディランは足早に去っていくのであった。



―――sideレイラ


貴族街の西側の一角にあるフォーグランド邸、入学試験が終わったレイラは父であるダレン・フォーグランドに今日の出来事を報告していた。


「お父様、ただいま帰りました」

「レイラか、お帰りなさい。

 それで試験はどうだった?お前の実力なら問題ないとは思うが」


父親からの問いかけに、少し悩むそぶりを見せる。

実技試験でのユリスの力を思い出しているのだろう。


「それが……実技の同じ班に私では到底敵わない力を持つ方が居たのです。私もこれまでしっかりと腕を磨いてきましたし、同年代では負けることはないと自負していたので少しショックでした。

 もしあの方が特待生の基準であるならば私の試験内容では無理でしょうね」


全然ショックを受けている様子でもなく、むしろ楽しそうというか嬉しそうな感じで報告をする。


「ほう、お前がそこまで言うとは相当な腕前だったのだろうな。だが安心しなさい。お前の力量はしっかりと伸びている。同年代では変わらずにトップクラスのままだ。

 おそらくはその者が特別なだけだろうな」

「そうですね。

 同種族だったので余計に意識してしまっていたのかもしれません」

「なんだ、狐獣人だったのか?

 そこまでの腕前の者がどこに……」


途中まで疑問を口に出したところでダレンの頭にはとある狐獣人の姿が思い浮かんでいた。


「レイラ、その者について他に知っていることはあるか?気になった程度でも構わん」

「そうですね…

 気になった事と言えば一見は平民のように見えるのですが、服装はしっかりと高級な物を身につけていたのです。しかも、本人は平民と言っていましたが試験の間はずっと控室が同じでした」


通常、トラブル防止のために実技試験の班分けは貴族と平民で分かれる事になっているのだ。

ユリスは家名持ちだが身分としては平民のため、ディランが手を回した結果なのだろう。


「後は…帰りのことなのですが、シエラという女性が迎えにきていましたね。御者が本物だと言っていたのであのシエラ様なのでしょう。

 彼が過保護な推薦者だと言っていたので、おそらくシエラ様が保護者のような立ち位置にいるのでしょうか」

「ふむ…やはりあの者か?

 ああ、そう言えば名前を聞いていなかったな」


ダレンは娘から色々と情報を引き出そうとしていたが、そもそも名前を聞き出せば良い事にようやく気づく。


「あれ、言ってませんでしたか?名前はユリスと言うようですよ。

 見た目は赤茶色の2尾でした」

「やはりか…

 レイラ、これは一部の上位貴族にしか知らされていない事なのだが、つい最近ユリスという狐獣人が王城へとあるアイテムを献上しにきたのだ。

 詳しくは言えんが、それは生半可な腕では手に入れることの出来ん代物でな。欲に目が眩んだ貴族どもが彼を取り込もうと水面下で動いているようなのだよ。

 もっとも、既に王族が囲っているようだから無意味なことではあるがな」

「王族が…そんなに凄い方だったのですね」

「ああ、一部しか知らんがそれでも色々と規格外だったよ。

 それと、先程無意味と言ったが家に取り込む方法が無いわけではない。自身と関わりのある家の娘と婚約させれば良いのだからな。

 我が家としてはお前の意志を聞いてから動くかどうか決めようと思っていたが、どうする?」

「………」


(あの方なら…)


「まあ、すぐに決めなくても良い。

 彼なら学園には合格しているだろうし、じっくりと見極めてからで構わんからな」

「…分かりました」


“ユリスとの婚約”

その言葉にレイラの心は揺れ動かされながらも、決心することまではできなかった。貴族の風習として学園卒業までには婚約者を見つけるというものがあるが、卒業までは6年だ。考える時間はまだたっぷりあると己に言い聞かせてレイラはひとまずの平穏を得るのであった。


ユリスについての報告も一通り終わり、話は家の抱える問題へと移っていく。


「ベルクトからまた書状が届いていた。

 鉱石の値上げか供給量の削減のどちらかを選べという内容だったな」

「またですか…」

「これ以上供給量を減らされるわけにはいかんから値上げの方で対応した。王族の方々には特別に目をかけていただいているが、それでも保って1年といったところだろう」

「1年…それまでにベルクト家をなんとかするか、鉱石に頼らない商品を考案する必要があるのですね」

「ああそうだ。

 だが、実はつい最近にディラン殿下の方から面白い商品の提案があってな」

「面白い…ですか?

 この流れでということは鉱石を使わない商品でしょうか?」

「ああ、魔導パズルというそうだ。サンプルをいただいてあるぞ。

 1番手前にある円に合わせて盤を設置し、即興で魔導陣を描いて奥に浮かび上がる立体パズルを解くという物らしい。

 殆どが魔力紙だからコストがかなり低い。盤の分の鉱石は必要だが現状は銅製1枚で良いし、陣を刻み込んで定着させる必要もないために何回でも再利用できる。初期費用は多少かかるがその後は魔力紙分のみだ」

「なるほど…それなら少しずつではありますが、利益も出していけそうな商品ですね。

 やってみても良いでしょうか?」


許可をとり、ルールを確認するとレイラは早速魔導パズルに挑戦する。

少し時間はかかったが、なんとかクリアするとすぐに量産を進言する。


「お父様!これはすぐにでも製造を開始しましょう!

 そうでなくても、こういった問題を作ることが得意な人物を確保しておくべきです。

 それと魔導陣の初歩的な教本なんかも一緒に売場に置いておくといいかもしれません」

「はは、そんなに気に入ったか。確かにそうだな。

 殿下からに提案でもあるし断るわけにもいかんから今のうちから担当を従業員の中から探しておくか」


こうしてフォーグランド家は新たな道を拓き往く小さな狐を追いかけることで、明るい未来へと少しずつ歩みを進めていくのであった。


度々の予定変更申し訳ありません。

もうしばらく毎日投稿でいきます。

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