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31話 試験直後の学園

―――sideセルフィ


「はぁ…まさかこんな事になるとはね」


(でも、まだ私がいる部屋で起きてよかったわ。

 これが別の部屋で起きていたらと考えると…)


担当していた面接が終わり、学園長のセルフィは試験結果の集計場所としている広めの部屋で先ほどの事件について考えながら待機していた。


「失礼します。11班の試験が終了しましたのでご報告致します」

「セオドア副学園長、お疲れ様。あなたで最後よ。

 随分時間が掛かってたみたいだけど何かあったの?」

「お疲れ様です。

 ええ、まあ…例の貴族の息子さんですよ。

 聞いてもいない自慢話を延々とされました。遮ると嫌味ったらしく煽ってくるし…!」

「あなたの方も大変だったのね…」

「も…ということは、そちらでも?

 確か学園長の担当はあのお方から頼まれた子だったはずですよね」

「ええ、そうよ。

 ただ…あなたなら聞く権利はあるけど、聞いた場合は守秘義務が発生するわ。

 それでも聞く?」

「そんなもの今更ですよ。

 私はあなたの補佐なのですから遠慮なく巻き込んでください」

「分かったわ…ありがとう。

 といっても私の方で問題だったのは教師の方だったんだけどね…」


(いや、ある意味ではあの子も問題児だったけども)


「教師ですか…?」

「ええ。

 2人の教師が犯罪を犯していたことが判明したの。

 その2人はすでに騎士団に引き渡してあるわ」

「なっ!!犯罪な上に2人もですか…!?

 一体誰が…?」

「ザギーとバグンよ」

「バグンはともかくザギーですか…」

「あら、バグンは納得なのね」


(私もザギーの方はよく知らないのよね)


「そうですね。

 バグンは自身より下の者を見下す傾向にありましたから。それでも業務自体はちゃんとやっていましたし、貴族相手なら態度も問題なくなるので配置を工夫して何とかやっていました。

 ザギーはなんというか自己主張しないタイプで指示された仕事を無難にこなす感じでしたね。

 今思えば意図的に印象に残らないように動いていた可能性はありますね」

「なるほどね…

 やっぱり教師の採用基準を考え直した方がいいかしら…?

 ああ、そうだわ。他の子にやってあなたにやらないのも不公平だし、質問に答えて頂戴」


そう言ってセルフィは水晶の付いた石像を取り出す。

謁見の間にあった虚実判定の魔道具と同様のもののようだ。


「おや、それは…分かりました」

「それじゃあ質問ね。

 このブレスレットに見覚えはある?」


セルフィはバグンたちが付けていたブレスレットを机の上に置く。


「ええ、見覚えはありますね。

 いつからかはちょっと覚えていませんが、バグンが付けていたやつに似ていますね」

「知ってたの?」

「教師の装備が個人に委ねられているとはいえ前兆もなく急に付け始めましたからね。

 どうしたのかと聞いたら懇意にしている人から貰ったと言っていましたよ」

「懇意にしている人ね。やっぱり誰か後ろにいるのか…

 ありがと、参考になったわ」

「いえいえ。

 ですが、2人いないとなると明日からの採点が大変そうですね…」

「そうね、私は論述担当だし他は見れないから監督はよろし…いや、やっぱり論述は題名だけ見て、めぼしいのが無かったら先にそっちを手伝うわ」

「分かりました。

 それでは今日のところはこれで失礼します」



翌日…


「みなさんおはようございます。

 さて、今日は毎年恒例の試験結果の採点の日ですね。

 筆記については論述を学園長が、それ以外を各科目の担当教師が採点します。

 実技については残りの教師で先ずランキングの作成ですね。各自で手持ちのデータからランキングを作ってもらって、後で統合します。

 面接結果については私がメインで、学園長は題名から第1種案件がないと判断したらこちらの手伝いをお願いします。

 ああ、今いない人については後日相応の報いを受けてもらう予定ですので、気にせずに担当となった作業を開始してください」


セオドアの説明を聞き、多くの教師から「あいつら終わったな…」といった声は聞こえたが、誰も2人がいない理由については疑問を抱かなかったようだ。


(…どうやら大丈夫そうね。

 さて、私も確認を始めますか!

 やっぱり気になるのはあの子よね…初めから探すか上から順番に行くか……順番でいいか)


セルフィはユリスの論述が気にはなっているものの、先ずは題名のみの確認をするため、とりあえず片っ端から見ていく事にしたようだ。


(…なし、なし、なし、これもないわね。

 やっぱりそうそう目を惹く題材はないわね…あら?

 へえ…『各アビリティが及ぼす効果』ね。

 題材は面白そうだし、内容次第だからキープしておきましょう。

 他は……やっぱり、そうそうないわよねー)


全員が黙々と採点していると突然1人の教師が大声をあげる。


「はあ!?なんだこのデータ!?」


(ん?何かしら?)


その声に全員が手を止めて発声元へ目を向ける。


「そんな大声をあげてどうしたのですか?」

「あ…いえ、すみません。

 あまりにデータの数値が大きすぎて信じられなかったもので…作業を中断させてしまって申し訳ありません」

「大きすぎる…ですか?

 ふむ、少し見せてください…これは!!学園長!」


(ああ、なんか嫌な予感)


セオドアが確認に行き、渡されたデータを見ると慌てて学園長の元へ駆け寄り小声で相談を始める。


「学園長、確かこの名前って例の子じゃありませんでしたか?武器術実技の成績が異常です」

「ちょっと見せてね。

 ……!!え、ええそうねこの名前はそうだわ。

 私は試験官の評価用紙を探しておくから、悪いけどそれ以外の実技を優先して探して。筆記も先に採点しておいて頂戴」

「分かりました。

 全員悪いが手持ちに『ユリス』という名前のやつがあったらこっちに渡してくれ!

 筆記は先に採点を済ませてからこっちに頼む」


(他の受験者とダメージの桁が違うってどういうことよ!?あの子は10班だから…あった!

 ……何よこれ、どういうこと…?)

 

セルフィが見つけた評価用紙には

―――

試験官:ルシード・カルナック

受験者:ユリス

【武器術】

開始の合図とほぼ同時に木人の後ろに瞬間移動し、直後に両肩と両腿の関節に対してダメージ判定が同時に入ったと思ったら心臓の位置にナイフが刺さっていた。

その後、まるで竜巻が急に発生したかのような現象が起きたが、物理攻撃にしか反応しない設定なのにダメージの数値がどんどん上がっていったため、おそらくは木人の周囲を移動しながら連続で切り付けていたのだと思われる。なお、この竜巻は約20秒間続き、総ダメージの更新が途絶える事はなかった。

正確な動きについてはほとんど見えなかったため、これらは全て結果からの推測である。


【魔法】

開始と同時にステージの石畳が6本の杭の形に剥がれ、受験者の周囲に漂う。

数秒後に急に杭が消えたかと思ったら轟音と同時に両端の的6つが粉々に吹き飛んだ。

かと思ったら、残りの中央4つの的を全て範囲に入れるほど大きい火柱が地面から勢いよく立ち昇り、消えた時には全ての的が支柱ごとなくなっていた。

ダメージ(別紙参照)も他の受験者より文字通り桁違いであった。魔法でこの威力は考えづらいため、おそらく使用されたのは魔術だと思われる。


【総合】

騎士カムス(レベル24)が対戦相手となる。

開始前にカムスが受験者に暴言を吐き、脅すように棄権を勧める。受験者はそのまま礼をし、カムスが激怒。

その状態のまま戦闘に入り、カムスが規定を無視して初手から振りかぶって攻めようとする。

が、受験者の姿がかき消えると同時にカムスが装備(軽鎧)ごと四散。受験者の立ち位置がいつの間にかステージ反対側の端に移動していた為、突進系スキル等で超スピードの攻撃をしたのだろうと推測される。

一撃で騎士を葬り去る威力もさることながら、私でも攻撃の瞬間を捉える事が出来ないほどのスピードで攻撃しながらも無傷で場外になる手前で急停止した事から相当な身体性能を有していると思われる。また、騎士カムスが四散した事からも使用したと思われるアーツには破壊特性が備わっていると考えられる。

そして逃げ出す騎士カムスに対し、私の合図に合わせて礼をして退場。無礼な扱いを受けながらも最後まで礼をかかさなかったことから、本人の人間性についても問題なしと判断。

ただし、四散した人間を前にしながらも眉ひとつ動かさない様子から、常識的な感性を持ち合わせているかは一抹の不安が残る。

―――

とあった。


(ルシード・カルナック…第4騎士団副団長でも攻撃が見えなかったっていうの…?

 一体どれだけのアビリティと技術を持っているのよ…

 …この感じだと他も規格外なんでしょうね)


セルフィの予想通り、セオドアが持ってきたデータは他の受験生と比べて文字通り桁違いであった。筆記も満点である。


「とりあえずこの子抜きで作業を続けて頂戴。

 おそらくぶっちぎりでトップになるでしょうけど、これを合格点数の基準に入れてしまうと合格者が他にいなくなるわ」

「分かりました。ではそのように進めます」


(順番とか言ってる場合じゃないわね。

 さっさとこの子の論述を探しましょうか)


とりあえずユリスの扱いを棚上げしたセルフィは彼の論述を探し始める。


(………あった!

 なになに…『鑑定項目の増やし方及びベースレベル停滞問題の原因とその解決法』…ですって!?

 まさか育成方法でも書いてあるの?)


セルフィは逸る気を落ち着かせながらユリスの論述を確認していく。

そこにはとても14歳の子供が書いたとは思えないような内容が記されていた。


先ず主題としてベースレベル停滞という問題提起から入り、次に想定される原因として紋章[〜の心得]を2種類宿すことで発生する紋章効果[初心への誘い]が挙げられている。

初心への誘いはベースレベルを30まで上がりやすくする一方で、それ以降のレベルアップをしづらくさせる効果を持つ。故に皆がこの紋章効果をずっと発生させているとベースレベルの停滞が起こるのだ。

その解決方法は非常に簡単で、心得系紋章を1つに制限すればいい。ただし心得系以外の紋章はレアで有る為、なかなか実現はしづらいだろうからともう1つ方法が書かれていた。それは初心への誘い以外の紋章効果を発動させる事。あまり知られてはいないが心得系紋章だけでも他の紋章効果は発動できる。その上、初心への誘いよりも優先的に発動するのだ。同じ組み合わせでの紋章効果は片方しか発動しない事を逆手に取ったアイデアである。

しかもユリスの論述には例として幾つかの紋章効果が挙げられており、更には補足として初心への誘いには紋章スキルの効果低下という致命的なデメリットもある事が明かされていた。

これだけでもお腹いっぱいになる内容なのだが、題名にもある通り鑑定項目の増やし方についても書かれていた。鑑定する時に発せられている魔力を対象に収束させるだけという内容ではあるが、重要度に関しては言わずもがなである。それと地味に初心への誘いの効果低下デメリットはここにも影響を及ぼすとの文言もさらっと書かれている。

最後に今後の展望として、鑑定の各段階で閲覧できるようになる項目の詳細と具体的な利用法まで記されていた。


(は、はは……何よこれ。

 書き方も読みやすく順序立てて書いてあるし、何より内容が衝撃的すぎるわ。

 これが本当なら初心への誘いはデメリットが大きすぎる。

 レベル停滞があるが故に簡単に発生させられる紋章効果で全アビリティが1ランクアップする紋章効果はとても重要。今の王国ではこの効果を超えられる紋章を個人で持っていない限りは発生させておくのが基本とされている…学園でもそう推奨しているわ。

 それが足枷になっていただなんて…例として書いてある紋章効果も知らないものしか無いし、まだまだ他にもありそうね。

 そしてこの詳細鑑定!あの子が精神干渉だと断定していたのはこれで確認できたからなのね。

 ただ、犯罪者が詳細鑑定を使えると結構まずい事になるわね。魔道具の改造に違法薬と同じ効果の別のアイテムを見つけて量産…パッと思いつくだけでも他にもあるわね。

 この内容は確実に国家機密になる…となると第1種案件でしょうね)


「セオドア副学園長、第1種案件よ。

 まだ全部は見切れていないけど、最低でも1つはあるから王城に連絡をしておいて頂戴」

「!!…分かりました」


一通り内容を確認し、第1種特待生の条件を満たす内容であることを確信したところで王城に使いを出しておく。

これで後日誰かが確認にやってくるのだろう。


(それにしても、今年はいろんな方向での問題児がいるけど、全体的に優秀な子が多いわね。

 他に気になる論述もいくつかあったし、今年の学園は一体どうなるかしらね…?)


セルフィは残りの論述の確認をしながら今年の入学生への期待と不安を募らせていくであった。


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