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25話 シエラ先生

図鑑関連も試験範囲は見終わり、範囲外の素材のページを眺めていると第2王子であるディランが部屋を訪ねてきた。


「やあ、昨日の最後の方はバタバタしてすまなかったね。

 もう勉強を始めているみたいだけど今の進捗はどんな感じだい?」

「それがですね…実は試験範囲の分は全て終わってしまいまして。

 今は関係のない範囲の図鑑を眺めていたところです」


(それももう終わりそうなんだけど)


「うん?

 ……あー、たしかにユリスくんの場合は正しい知識が無かっただけで頭が良くない訳ではなかったね。

 にしても歴史なんかは読むのにももっと時間がかかると思うんだけど…?」

「ユーくんの読むスピードは異常でしたね。

 1冊30分もかかっていませんでした」


(おいおい、異常って…いや異常か。500ページくらいの本10冊を午前中だけで読み切ったし)


「そうか…どうしようかな?

 正直に話すと例のカレンの件があるからユリスくんには出来るだけ離宮にいて欲しいんだよね」

「それでしたら、なんとかして図書室に行くことは出来ませんか?

 自分で探すことができたら興味を引く本なども見つかると思うのですが」

「うーん…父上からも他の貴族にバレないことが条件とされてしまったからね。

 陽が落ちてからなら問題ないとは思うが万が一があるとなるとちょっと…」

「殿下、それでしたらユーくんに隠密スキルを使って貰えば問題ないかと。

 発動中は横にいた私でも声を聞くか接触しなければ存在を感じることができませんでしたし、私も同行すれば音などの誤魔化しもきくと思います」

「ふむ…ユリスくん、悪いが使って見てもらえるかい?」

「わかりました」


ユリスは座ったまま隠密を発動し、ディランの反応を見る。


「!!

 目の前にいたはずなのに少し目を逸らしただけで全く分からなくなったね。

 場所は動いていないんだよね?」

「はい、目の前の席に座ったままですよ」

「なるほど…声が聞こえている間は気付けるみたいだけど、道中は黙っていて貰えば問題ないね。扉なんかもシエラに頼めばいいし、これなら大丈夫かな?」


(おっ、これならいけそうか?後でシエラには感謝しないとな。とりあえず隠密は解除しておこう)


「!!…これはいきなりだとびっくりするね」

「あ…声をかけておけばよかったですね、すみません」

「いや、構わないよ。

 とりあえず私は母様に許可をとってこよう」


ディランは独断では許可できないと判断したのかシャルティアの元へ向かう。


「ユーくんごめんね。勝手にスキルのこと言っちゃった」

「いや問題ないよ。

 むしろあのままだと断られそうだったし助かったよ。ありがとう」


個人情報を勝手に話したことを謝ってくるシエラに対してユリスは援護をしたことに礼を言う。

そもそもユリスは王族に対してステータスをあまり隠す気がないため、勝手に話されようが構わないのだ。


「ただいま。母様に聞いてきたけど他の貴族に見つかる心配がないなら構わないってさ。

 だから陽が落ちてから、そうだな…8時以降なら離宮から出て図書室に行ってもいいよ」

「わかりました。ありがとうございます」

「それじゃあ、様子もわかったことだしそろそろ戻るとしよう。

 今後も定期的に様子を見にくるから何かあったらその時に伝えてくれるかな。もし緊急なら母様に伝えてくれればいいよ。

 ただ、あの人もなんだかんだで結構忙しい人だからね。できれば私で頼むよ」

「はい、お手数をおかけします」


そう言ってディランが部屋を出て行ったので、図書室に行く許可は出ても陽が落ちるまでは暇になってしまった。


「さて、待ち時間が暇になっちゃったね。何をするか…

 そういえばシエラのことをあまり知らないような。

 シエラって普段何をしてるの?」

「え?私の話?まあいいけどね。

 普段ってことは仕事についてかな?前に家の話は少ししたし」

「うん、それで構わないよ。

 ああそれと、後でシエラの家も含めて貴族について教えてもらえると助かるな」


(シエラの家族については聞いたが家については聞いてなかったからな)

 

「おっけー

 まず、私が就いているのはシャルティア様の近衛騎士なんだけど、主な仕事は警護と身の回りのお世話だね。

 離宮にいてわかったと思うんだけど、ここにはメイドが居ないんだ。王城内に居ないわけじゃないんだけど、ただのメイドだと警護はできないし有事の際に足を引っ張ることになるからね」

「つまり離宮に何かが侵入することがあれば、ここにいる人全員が対応できるということ?」

「もちろん。そんな訳で私達みたいに離宮に所属している近衛騎士は、戦闘力だけじゃなくて身の回りのお世話もできないとダメなの。

 まあそのせいもあってか王族とは距離がかなり近いんだけどね。シャルティア様にも娘扱いされてるし」

「そっか、シエラの家事能力が高いのはそのせいもあるんだね。にしてもシエラも娘扱いなんだ」


(あの人は基本的なスタンスがそれなのか?)


「うん。まあ、1人娘のカレン様があの状態だったからその反動もあると思うよ?フィリスもマリーもみんな娘だからね。

 暇な時はシャルティア様も一緒にみんなでよくおしゃべりしてたよ」


(ああ、初めて会った時はそんな感じだったな)


「まあ、シャルティア様の近衛騎士についてはそんな感じかな?他の王族の場合はよくわからないや。

 それで次は貴族についてだっけ?」

「うん、シエラの家族については聞いたけど家については聞いてなかったなと思って。

 他の貴族についても知らないから歴史の本を読んでた時もいまいちピンとこない記述もあったし」

「貴族については関わって来なかったなら知らないのも無理はないわね。まずは一般的なことから教えるね」

「うん、お願い」

「セラーティ王国の貴族には基本的に3種類あるの。

 辺境伯と中間領地を治める貴族、王都に滞在している貴族の3つね。

 まず辺境伯は王国の1番外側を治めている貴族で、東西南北に1人ずついるの。

 主な仕事は王国の周囲にいる魔物の監視と防衛、そして開拓だね。

 今のところは問題になってないけど、王国の維持を盤石なものにするためには、常に魔物が徘徊している辺境をどうにかして治めないといけないからね」

「王国の周りは魔物の棲家になっているんだ…

 そういえば鋼樹の森付近で1番近い町がタルミみたいだったけど遠かったし、あそこって辺境じゃないの?」


(あそこも結構西の方にあったと思うが)


「あそこはまだ開拓の対象にはされていないけど、立派な辺境地帯だよ?

 辺境としては近い方だけど、場所が王都から丁度北西に位置している上に森だらけで大変だから後回しになっているだけだね。森から魔物も出てこなかったし。

 多分今回のことで周辺の森を国が開拓するか、今後中間領地として治める新貴族が開拓する事になるんじゃないかな」

「そっか、そんな大事になるんだ」


(ただ新ダンジョン発見!って感じだと思ってたけど、そこまでのレベルに発展するとは…)


「そうなの。ユーくんが持ってきた情報って結構大事なんだよ?

 次は中間領地持ちの貴族ね。

 中間領地っていうのは名前の通りで王都と辺境の間にある領地のことで、基本的に1つの領地で1つの神造ダンジョンを管理するの。

 私の家のヴェルモット伯爵家はこれで、特殊鉱石が取れるダンジョン『変性鉱脈洞』を管理しているわ。

 管理って言っても、まだ2階層分しか調査できてないし、中で採取した鉱石の把握とか他領地への輸出がメインね。

 家としては最低限の採取と需要に合わせた輸出をするだけで、管理自体は入場料さえ払ってくれれば一般の人でもご自由にどうぞっていうスタンスだから結構楽よ。

 後は、鉱石が取れるだけあって鍛治が盛んね。ただ取れるのは特殊なものばかりだからみんな鍛治以外にも何かしらの技能は有しているわ。

 テイラーの店なんかはうちの領地から王都に出店したのよ。あそこの服って金属糸とか金属布を使ってるのが特徴だからね」

「え!?この服って金属なの?」


(知らない素材が多いと思っていたけど金属だったとは…)


「礼服はね。とても金属とは思えないんだけどね〜

 普段着の方は普通の布だったはずだよ。

 最後に王都勤めの貴族ね。

 まあ、これもそのままよ。領地を持たずに王都で働いていたり遊び呆けている貴族ね。

 大体は王城の文官として何かしらの役職についているわ。中には国内の重要な事業運営を担っている貴族もいるけどね。

 ちなみにセラーティ王国は貴族の継承が3代目…つまり孫までしかできないことになっているの。

 それまでに功績を上げれば更新されていくから大体の貴族は頑張るんだけど、2代目だとたまに遊び呆ける奴が出ることがあるのよ。

 シャルティア様たちが言っている厄介な貴族たちっていうのは基本的にはこいつらのことね。

 まあ、もっと厄介なのが中間領地持ちに1人いるし、最近だと王都勤めの馬鹿貴族は遊んでるだけで害は少ないから、そいつがメインになりつつあるけど…」


(シエラもこれだけ口が悪くなる相手って…

 そいつどれだけ多方面から嫌われてるんだよ)


「それで本に出てきた貴族って何かしら?」

「ああ、うん。

 確か、フォーグランドとリンドバルだったはず。

 リンドバルの方はグラハムって著者のことだけど」

「ん、わかったわ。

 まずフォーグランド伯爵家ね。歴史本を読んだならわかっていると思うけど、全員が狐獣人で構成されている貴族家で王家に絶対の忠誠を誓っているとされているわ。事実、今の王家とも結構近い距離にいるみたいね。

 王都勤めではあるけれど、さっき言ったような事業運営をしているところよ。している事業は生活魔道具の製造と販売だから、湯沸かし器が商品化される時にお世話になるかもね」

「ふーん、僕も狐獣人だし何かと関わることになりそうかな」

「リンドバルは学問における貢献で貴族になった男爵家ね。今の学園長もリンドバルよ。セルフィ・リンドバルっていって種族はエルフね。

 にしてもグラハムね…あまりリンドバルの人にはその名前を出さないほうがいいかもしれないわ」


(エルフ!やっぱ定番種族はいるよな。

 まあでも、あまり偏見は持たないようにしないと)


「グラハムが何か問題でも起こしたの?」

「問題というか…何もできなかったというのが正しいわね。

 リンドバル家は初代から1人を除いて全ての当主が学問において何かしらの功績をあげているのよ。

 グラハムは2代目で唯一功績が認められなかった当主なの。だから、リンドバル家では一族の恥とされているらしいわ」

「そうなんだ…あんないい本を書いていたのに功績にはならなかったのか」

「多分ユーくんが言っているのは『ダンジョン採取図鑑』のことだと思うんだけど、あれって未完成で出版してるのよ。

 しかも各領主からしたら自分の管理しているダンジョンについては既に自領でまとめてあるから、当時は何の価値も見出せなかったとされているわ。ただの素材図鑑なら既にあったしね」


(そういうことか。

 書式にばかり目がいっていたけど、内容はおそらく各領主からもらったデータをまとめただけだったんだろうな。しかも未完成ときた。

 そりゃ評価されないのも仕方ないか)


「それは仕方ないかな。説明ありがとう」

「ううん、私の説明で分かったならよかったよ。

 そうだ。最後に念のため途中でいった1番厄介な貴族についても教えておくね」


(ああ、確かにそれは気になっていた)


「その貴族の名前はヨシュア・ベルクトって言って、ベルクト侯爵家の当主に当たる人物よ」

「侯爵?また随分と上の人間が問題視されているんだね」

「まあ、凄かったのは歴代の当主達だからね。

 中でも先代のクリフ・ベルクトは歴代一と言われていて、王家への絶対の忠誠と多大な貢献をしたらしいわ。

 今代のはただの馬鹿どころか害悪と言ってもいいぐらいね。王都というか王国全土で起きている鉱石の高騰はこいつが原因とされているのよ。

 だってベルクト侯爵領は鉱石の最大産出地である鉱石ダンジョン『枯れない廃坑』を管理しているところだからね」


(ああ…そりゃ問題だわ。

 明らかにやばい高騰の仕方をしているからな。

 でも人海戦術でもすれば簡単に供給量を増やせるのになんで王都も後手に回っているんだ?)


「ユーくん、腑に落ちないって顔をしてるよ?

 まあ、私もティア様に聞いてみたことがあるんだけどね。

 なんでもベルクト侯爵は隠蔽だとか根回しだとの裏工作に関してはかなり長けているらしくてね。領主主導で価格を高騰させている証拠が掴めないのよ。

 人海戦術をさせようにも予算を要求してくるのは間違いないし、渡したら他の貴族が黙ってないのよね。自分のとこも増やせーって。

 しかも管理しているのが鉄とか銅とかの基礎的な鉱石のダンジョンだから、ダンジョンの入場に制限を設けていて人海戦術は取りづらいのよね」

「制限があるんだ?」

「初めは価格の乱高下を防ぐためっていう理由だったんだけどね。王家も昔にそれを認める書状を出してしまっているから今産出量が減っていても無理に手が出せないみたいなの。

 なんだけど、今のベルクト一族は黒い噂ばっかりで、態度もあからさまというかこいつ隠す気あるのかってレベルでね。何かしらきっかけがあればどうとでもなりそうなんだけど、どいつもこいつも証拠だけは掴ませないからなかなか踏み込めないっていうのが現状ね。

 噂だけを根拠に下手に踏み込んで中途半端なところで止まったら、その報復として何を要求してくるか分かったものじゃないし。最悪は他の貴族を金で味方につけて現体制への反乱にまで発展しちゃう可能性まであるらしいわ。私としては反乱分子も含めて一掃しちゃえばいいのにって思わないでもないんだけどね」


(それは…なんというか…うん)


あまりの内容の酷さと予想外に過激派だったシエラに対して思わず頭を抱えてしまうユリスであった。


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