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24話 試験勉強

「ユーくん、朝だよ〜♪」


聞き覚えのある声に起こされたユリスは寝ぼけた頭で声がした方に顔を向ける。

そこには別の部屋で寝泊まりしているはずのシエラが添い寝をしていた。


(またか…

 もういちいち反応するのも面倒になってきたな。

 朝だけになったし、いっそのこと眠れるようになってよかったと思うべきか)


「ん…おはよ。

 ああそっか、王城に泊まってるんだった」


シエラがいる方とは逆側からベットを降りると大きく伸びをして目を覚ます。


「おはよ、ユーくん。

 ご飯はいつでも用意できるけどすぐに食べる?」

「うん、ちょっと顔を洗ってくるけどすぐに食べるよ」

「はーい、じゃあ用意して待ってるね」


風呂場で顔を洗って頭をすっきりさせてからテーブルにつき、朝ご飯を食べながら今日の予定を立てていく。


「今日は特に予定は入ってないけどどうするの?

 一応もう本は借りて来られるから早速勉強する?」

「そうだね、歴史系は全く知らないし勉強は早い方がいいかな。歴史をメインで持ってきてもらえる?」

「はーい、じゃあ食べ終わったら片付けてから図書室に行ってくるね」



試験勉強初日という事もありやる気は充分。早速とばかりにシエラが持ってきた本の中からまずは王国の歴史がわかるものを読んでいく。


―――

『セラーティ王国建国記』

セラーティ王国は現代において世界に1つしかない国となっている。

しかし、大昔はいくつもの国がこの世界に点在していたらしく、その中にはセラーティ王国という国は存在していなかった。

ではセラーティ王国はどのように誕生したのか。それは全ての国々が互いに争った戦乱の時代まで遡る。

ある時、1つの国がスタンピードにより崩壊を迎えると、その領地を巡って周辺国の人間同士が争い始めた。そしてそれはいつしか全世界に波及し、戦争をしていない国がないというほどにまで発展してしまった。

そんな国同士が争う戦乱の時代に入りおよそ300年。世界は荒廃し人間たちもその数を半分以下に減らしてしま中、2人の若者が急に表舞台に登場する。

1人は神職の女性、もう1人はフォートと呼ばれる男性、のちの初代国王である。

ちなみに、女性の名前については一切の記録が残っておらず、世界神の神託をフォートに伝え導いていたことから使徒もしくは御使と呼ばれている事が多い。

2人はステータスという世界神の加護をその身に受けており、その力でもってとある国に戦いを挑んだ。

その国はゲイル王国といい、強力な軍隊を背景に国民に対し非人道的な扱いを強いていたことが広く知られている国だった。

だが、ステータスを手に入れた2人は一般人とは比べ物にならない力を有しており、軍隊などものともせずにゲイル王国の中枢を破壊することで国の掌握を瞬く間に完了してしまったのだ。

歴史家の間ではさまざまな意見があるが、多くはセラーティ王国の興国はのちの建国宣言からだとしている。しかし、私はここが王国の始まりだと思っている。

まず、使徒は掌握したゲイル王国の国民たちをまとめ上げ、1つの神殿を作り上げたのだ。

これはセラーティ王国(正確にはまだ王国ではない)における最初の国家プロジェクトであると言えよう。

そして神殿が完成した頃から世界神を信仰する国民たちに次々とステータスが発現し始めたのだ。

これを機にフォートはセラーティ王国の建国を周辺国へ宣言、同時に戦争を続ける周辺国全てに宣戦布告をしたのだ。

結果は語るまでもなくセラーティ王国の圧勝に終わり、建国から20年で世界統一を果たしたのだった。

その年を記念とし、王国暦1年と制定。現在に至るまで新たな国が興る事なく………

―――


―――

『王国の事変から見る人物史』

世界統一から現在に至るまでの間、大きな事変が度々起こるがどこからともなく強大な力を持ったものが現れ、それらを解決へと導いていく。

その者達は皆、いずれかの神の祝福を持っていたことから、祝福を得たものが現れると時代の節目となる大きな出来事が起きると語り継がれている。

ここ最近で最も大きな事変とされる出来事は王国暦439年の『大災害』であろう。

王都周辺では11ヶ所、中間領地で15ヶ所とかなり広い地域で一斉に天然ダンジョンが生成され、対応が間に合わなかった王都8ヶ所と中間領地2ヶ所でスタンピードが起きてしまった事変である。

ここまで事態が大きくなってしまったのは、先に中間領地のダンジョンでスタンピードが起きたために中間領地2つに騎士団を1団ずつ送ってしまい、王都周辺の対応が後手になってしまってた事が大きな原因の1つだろう。

だがここで、王都に魔物の大群が迫ってくるという危機を前にたまたま居合わせたという1人の女性がその一角を吹き飛ばしてしまう。

その女性はそのまま他の場所でも大群を吹き飛ばし、ついでとばかりに南側のダンジョンコアの破壊までしてしまったのだ。

思いがけない援軍により北側の対応に集中できた騎士団は、多くの犠牲者を出しながらも王都の民には被害を出さずに事態を収拾することができたのだ。

これにより女性は平民でありながら家名を持つ唯一の存在へとなり、続けて残した功績も相まって王国史において最も有名な人物のひとりとして君臨する事になる。

その女性の名前はサラ・フローウェン。数多くの画期的な生活魔道具を世に送りづつけてきた世界最高の魔道具職人である。

そんな彼女がスタンピード中の王都の外という魔物の大群が押し寄せる場所にたまたま居合わせるということ自体に疑問を感じる人も多いだろう。特殊な魔道具によりスタンピードを誘発したのではという彼女に対して批判的な説を提唱する歴史家も少なくはない。だが私は彼女が祝福持ちであり神託によって事態を解決に導く手伝いをしにきてくれていたのではと………

―――


(ひとつしかないのに何故国って名称があるのか気になっていたが、ただ単に昔にいくつも国が存在していた名残か。にしても勝利した理由がステータスって…しかも当時の最高レベルが8とか。

 この使徒っていうのもヴェルかサラな気がするし、何か国を1つに絞りたい理由でもあったのか?ってステータス普及の為だよな…でもなんで世界生成の段階で付けなかったのか…

 …ん?ステータスがない頃から天然ダンジョンはあったのか。もしかしてステータスってその為に広めた?

 というか、比較的新しめの人物史ってサラのことばっかだな)


「次は少し古めの時代の人物史がいいな。

 えーと…これかな?」


―――

『獣人の始祖』

この世の人間が初めて進化したのは狼獣人だった。

それが王国暦30年のことであり、進化したのは初代国王フォートである。

しかし、その頃の獣人は紋章を条件として進化するものであり、子に遺伝するものではなかった。

ある時、フォートの第3王妃となった狐獣人のソラリスは自身の子に種族を遺伝させることを世界神に祈る。

すると敬虔な信徒であったソラリスに神託がおり、試練が課されたのであった。

その試練の内容は同族を1000人集め、1つの集落を形成すること。

自身の願いを叶える道筋が明確になったソラリスはそこから進化の情報を公開し、希望者には紋章取得のサポートまで行い次々と同族を増やしていった。

その情熱は凄まじくたった5年で試練を突破してしまったのだ。

その3年後、作った村で初の子供が生まれるとその子供には狐獣人特有の耳と尻尾がついていた。

その事実に大いに喜んだソラリスは村にフォーグランドの名をつけ、その村の人々を重用していくこととなる。

これを機に、他の獣人でも1000人が集まった集落で遺伝し始めたため、国家事業としてさまざまな種族が集う街ミクスペルが作られていく。

この街はセラーティ王国では初めて作り上げた規模の街であり、王国の象徴であるとして完成すると同時に遷都されることとなったのだ。

そこから何度か拡張が行われて現在の王都が完成する。

この街に全ての獣人が集うことで現存する獣人のほとんどにおいて母親の種族が遺伝するようになり、人間と並ぶ1つの種族として認められるようになったのであった。

そして、いつからか進化難度が高く総数が1000人に満たない、つまりは遺伝しない紋章進化種族の総称を魔人種と呼ぶようになった。

そうして世界は人間種、獣人種、魔人種の3種族で形成されるようになったのである。

ちなみに、現在はソラリスの作った村は存在しないが村人達はミクスペルに移住し、自分達を導いたソラリスや王家に絶対の忠誠を誓うことを家訓とし今でも暮らし続けているそうだ。

その中から功績を上げた狐獣人の男がソラリスの娘のひとりであるラヴェリアと婚約し、現在まで続く名門貴族フォーグランド家としてその血を受け継いでいる………

―――


「そうか、種族ってそういう分類だったのか。

 にしてもフォーグランド家ね…同じ狐獣人だし覚えておこう」


その後もユリスは本を読み漁っていくが昼食の時間になったところで一旦中断する。


「ユーくん随分と読むの早いよね。あんなスピードで読んで理解できてるの?もう残り1冊だよ」

「え?もうそれしか残ってないの?

 なら次の範囲をお願いね」

「いや、試験範囲なんてもう終わってるよ。図書館にあった歴史の本が残り1冊だってば。まあ別の著者の似たような内容の本なら沢山あるけども。

 とにかく14歳の子供にそんな広範囲の勉強出来るわけないじゃない。もうちょっと成長して学者を目指す子が読む内容だよこれ」

「…え?」


(このレベルで終わりとかまじか…

 そういえば14歳だったな。中学レベルと考えたら簡単過ぎるが、異世界だし…妥当な範囲か?)


歴史だけとは言えあまりに呆気なく終わってしまった入試範囲に拍子抜けといった表情のユリスだが、範囲が前世での小学生レベルなのだから仕方ないと言えよう。


「そっか、試験範囲ってこんなものなんだ。

 なら歴史はもういいとして他の科目にしようかな」

「分かったわ。それじゃあ残りは全部持ってきちゃうね。

 でもユーくんならすぐ終わりそうだなぁ」


(……ん?

 小学生レベルってことはもしかして他も楽勝か?

 これ2ヶ月どころか1週間も要らないんじゃ…

 王城の図書室だし探せば面白そうな本はあるだろうから、自分で行けるように殿下に頼むか?)


そんなことを考えながら残りの1冊を読んでいる間にシエラが次々と本を運び入れていく。

それらのうちの1冊を手に取り、中を開く。


「これは数学?」


(いや、小学生レベルの計算ってことは…)


「やっぱりか」


そこに載っていたのは四則演算(正負の少数、分数まであった)の仕方、各図形におけるの角度や辺の長さ、面積、体積の求め方などであった。

一部は小学生にしては難しいかもしれないが、ユリスにとっては楽勝とも言える内容である。


(元々数学は得意だったし、このレベルなら復習の必要もなさそうだな。

 だがそうなると、ここにある内4分の1くらいは必要なくなりそうか…

 図鑑も試験範囲だけでなく全部読み切るか)


今日中に終わってしまいそうな気配を感じたユリスは、試験範囲外の魔物や素材についても見ていくことにしたようだ。


(これは…ほうほう!

 このまとめ方は攻略本みたいで面白いな。他の図鑑は索引すら無かったからな。

 素材はリスト作成を担当しなかったし、これは読んでて結構楽しいぞ)


ユリスが見ているのは各ダンジョンで採取できる素材一覧と各素材の入手階層や効能などの説明が載っている本である。

一覧から索引できるようになっており他の本に比べてかなり読みやすい作りだった。


(惜しむらくはこの形式で書かれているのがこれだけで、本自体も結構古そうなことだな。

 おそらくは著者が亡くなっている上、あまり有名ではないんだろう。索引も作るのって結構大変だし普及しなかったんだろうな。

 グラハム・リンドバルか…貴族なんだろうけどいつぐらいの人なんだろうな)


ユリスはこういったデータ集を作るのがとても好きで、幾つものマイナーゲームで某攻略まとめサイトの各一覧データをほぼ1人で編集しまくっていたほどである。


(ふむ、他のダンジョンは行ったことないから分からんが、鋼樹の森ならデータ集…いや、いっその事攻略本を作れるか?

 よし、暇になったら作ってみよう)


のちにユリスが作った攻略本の書式が王国の図鑑において正式な書式として採用され、そのきっかけとなったこの本の著者であるグラハム・リンドバルは後世の研究者達から大いに評価されることとなるのであった。


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