10月(スピンオフ) 放課後の喜多川女子
※BL表現がありますので、ほのぼのしか受け付けない方は閉じてね。ご注意下さい。
学園のシンボル白亜の塔が、夕陽のオレンジに染まる時間。
全寮制男子校・聖ルイス魔法学園の敷地奥深く、生い茂る雑草とつたに埋もれた旧講堂は、昼間でも光が届かない気味悪さと埃が積もる、広い学園の中でその存在を知る学生は数少ない場所の一つだ。
「最高の眺めだよ。ソウシくん。」
「くくっ……エロっ」
「良いねぇ……」
下品な三人の男たちの笑い声が、冷えた石造りの室内に低く響く。
かつて何かに使われていたのだろう冷たい木製の作業台の上、ソウシは魔力を根こそぎ封じる『呪縛の縄』で四肢を大きく広げられた状態で固定されていた。
荒い吐息が、桃色の唇からこぼれ落ちる。
「やめ……ろ……っ」
拒絶の言葉とは裏腹に、熱を帯びた大きな瞳は涙に濡れ、白い頬は艶やかな朱に染まっていた。
学園の姫として、この男子校の中でも特別綺麗だと言われるソウシの霰もない姿に、周りを囲む三人の学生は興奮状態にあった。
ソウシの頭の中には何故?と疑問しかない。
入学して以来、学園の生徒は皆親切でこんな裏切りに近い形で捕われる事など、全く想像していなかったのだ。
だけど、自分の声が情けなく震え、どこか甘さを孕んでしまっていることに絶望していた。
体が、言うことをきかない。
指先ひとつ動かすこともままならず、皮膚の表面をたどる男たちの指先さえ、過敏になった神経を焼き尽くすような刺激となって脳を痺れさせる。
「我が家秘伝の媚薬は良く効くだろ? いくら元気が良くてもすぐにこんなだ」
「マジで最高!イッセイの奴、こんなエロい子を独り占めにしてたなんて許せねえよな」
「早くやろうぜ。俺我慢できねぇ」
ソウシを囲む三人の男たちが、卑屈な欲望を剥き出しにして下唇を舐めた。
彼らは制服のバッジは三年生。
口々に、同じ一年生で最近恋人同士となったイッセイの悪口を口にしている事から、イッセイの関係者だとは思うが、ソウシには普段は全く関わりのない年上の生徒たち。
欲望に目を血走らせた獣と化したその姿にゾワリと肌に鳥肌が立つ。
男たちの手が、抗う術を持たないソウシの制服に伸びた。
無造作に引っ張られ、ボタンが弾け飛んだ。
鎖骨から胸元にかけて、白いきめ細かい肌が夕日に晒される。
引き抜かれた革ベルトが床に落ち、ガチャリ……重々しい音を立てた。
無防備に暴かれる下半身の感触に、ソウシは青くなる。
「やめろ……触るな……っ! イッセイ!……イッセイ!!」
「ははっ、呼んでも無駄!そのイッセイ様は今ごろ、俺たちの手紙に騙されて西棟の地下資料室だよ!」
「くはっ『イッセイがソウシくんを呼んでる』って嘘に、まんまと引っかかるなんて。」
「君も嘘一つ見抜けないおめでたい頭してるねぇ!ダメだよ、常に危機感を持って行動しないと。入学前に家で教えて貰わなかった?」
(……そうだ。俺の迂闊さのせいだ……イッセイに気をつけるように言われていたのに……)
悔しさに目頭が熱くなる。
常日頃から過保護なイッセイには、よく知らない人にはついて行くなと言われていた。
——だけど
『イッセイが大変だ』と息を切らして駆け寄ってきたこの男たちの言葉に、ソウシは冷静さを失ってしまったのだ。いつもなら一目で判別できるような浅はかな罠に、イッセイの身を案じるあまり、自ら飛び込んでしまったのだ。
「ウッ……やめ、ろっ……!」
下品な指が、ソウシの露出した胸元を擦り、桃色の突起を容赦なく抓り上げる。
脳裏に浮かぶのは、つい先日、放課後の屋上で不器用に想いを通わせ合ったばかりの恋人の顔だ。
普段は完璧な優等生として振る舞うイッセイが、ソウシの前でだけ見せる、子供のように愛おしそうな笑顔。
(イッセイ……助けて……っ。ううん、来ないで……こんな情けない姿、お前に見られたくない……幻滅されたくない……)
入学式で一目惚れしたイッセイ。
優しくて、頭が良くて、イケメンで……同級生とは思えないほどしっかりしているイッセイに告白されたのはつい先日……。お互いに顔を真っ赤にして、その場で付き合い始めたばかりの俺達。
葛藤と後悔の中で、ソウシの固く閉じた瞳から一筋の涙が溢れ、耳元へと伝い落ちた。
「あっ!涙!くぅ~ 最高にそそる!」
「指が入んねえ、ソウシくんもしかして処女?イッセイとやり慣れてんじゃねえの……っ!?」
男の不躾な指が、ソウシの最も奥深い秘処を強引に押し込もうとした——その瞬間。
ドォォォォンッ!!!!
重厚な旧講堂の扉が、凄まじい衝撃波とともに粉々に吹き飛んだ。
木屑と硝煙が猛烈な勢いで巻き起こり、講堂内の空気が一瞬で凍りつく。男たちの動きが完全に止まる。
「……僕のソウシに、何をしている!」
立ち込める煙の向こう側から歩み出てきたのは、魔力を全身に纏わせた、次期生徒会長と言われるソウシの恋人イッセイだった。
普段の温厚な面影は微塵もない。
その瞳は冷酷な氷のように冷たく澄み渡り、全身から解き放たれる圧迫感が講堂全体を支配していた。
「イ、イッセイ……!? なぜここに……っ、西棟にいたはずじゃ……」
「やっぱり先輩たちの仕業でしたか。もう容赦しませんよ」
イッセイが静かに右手を掲げると、瞬時に炎の刃が形成された。
「ひっ……! 待て、俺たちは——」
言い終える猶予すら与えられなかった。
爆炎のような風が三人の男たちを容赦なく吹き飛ばし、分厚い石壁へと激しく叩きつける。
骨の砕ける鈍い音が響き、呻き声すら上げる間もなく、男たちは意識を失って床に崩れ落ちた。
返り血を一滴も浴びることなく男たちを片付けたイッセイは、足早にソウシの元へと駆け寄った。
「ソウシ……!」
「イッセイ……っ」
イッセイの指先から立ち上った炎が、ソウシの四肢を縛り付けていた呪縛の縄を一瞬で焼き切る。
自由になった体に急激な痺れと熱が押し寄せ、ソウシは机から崩れ落ちそうになったが、間一髪でイッセイの強い腕がその体を抱き留めた。
「ソウシ、大丈夫か!? どこか怪我は……っ」
「イッセイ……ごめん、俺……お前が怪我をしてるって言われて、混乱して……っ」
「謝らないで! 謝るのは僕の方だ……君が狙われていることに気づけず、到着が遅れた……っ」
イッセイの腕が、痛いほどの力でソウシを強く引き寄せる。その体が微かに震えていることに、ソウシは気づいた。完璧に見えるイッセイが、自分を失う恐怖に怯えていたのだ。
「……はぁ、はぁっ……見ないでくれ、イッセイ。俺、変なんだ……奴らに薬を使われて……体が、熱くて……」
媚薬の効果で息を乱し、胸元をはだけさせたまま顔を背けるソウシ。
その視線の泳ぎ、紅潮した肌、湿り気を帯びた瞳——そのすべてが、イッセイの理性をも鋭く狂わせていく。
イッセイはソウシの顎を細い指先で引き寄せ、逃がさないように固定した。
「……僕のソウシ」
「……あっ……」
低い声が耳腔を揺らした次の瞬間、容赦のない口づけが落とされた。
ソウシの唇を割り、侵入してくる熱い舌。ソウシの呼吸も、体温も、残された理性さえもすべて奪い去るような、激しくもどこか飢えたキスだった。
「ん……っ、ぁ……イッ、セイ……っ」
「ソウシ……嫌なら俺を拒んでいい。だけど……僕はもう、君を誰にも渡したくない」
優しく服の隙間から滑り込んできたイッセイの手が、ソウシの火照った肌を撫で上げていく。
その指先の心地よさに、ソウシの体は歓喜の声を上げるように震えた。
「拒む……わけ、ないだろ……。イッセイになら……何をされたって、いい……っ」
力が入らない腕を必死に伸ばし、ソウシはイッセイの広い背中に回した。
イッセイの瞳に、深い愛おしさと、狂おしいほどの独占欲が交錯する。イッセイはソウシを静かに木台の上へと押し倒し、覆いかぶさった。
「遅くなってごめん。好きだ、ソウシ……本当は、もっと特別な場所で君を抱きたかった」
「イッセイと一緒なら……ここが、俺たちの特別な場所だ……」
夕陽が破れた窓から差し込み、二人の影を長く深く重ね合わせていく。
荒い吐息と甘い声が静まり返った講堂に響き渡る中、二人はお互いの存在と深い愛を確かめ合うように、ひとつになっていった——。
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【現実世界】
「…………ふぅ」
重々しい溜息とともに、パタンとノートが閉じられた。
放課後の私立喜多川女子高等学校・生徒会室。
西日が入る小さな室内に、静寂が満ちていた。
机に突っ伏したままピクリとも動かない後輩・望月セリナの様子を、作者である先輩・カナは生きた心地がしない表情で見つめている。
「ど、どうかなセリナちゃん……? 新作のプロットなんだけど……ちょっと展開がベタすぎたかしら? それに、性的描写も少しやりすぎちゃったかも……」
カナは自嘲気味に笑いながら、優雅にハンカチで首筋の汗を拭う。
セリナの沈黙は続く。
あまりの静かさに、遠く離れた音楽室から響くピアノの音色まで聞こえてくるほどだ。
その時——。
ガタタァンッ!!
「お姉様ーーーっ!!!!」
セリナが凄まじい勢いで顔を跳ね上げ、立ち上がると同時に勢い余ってパイプ椅子を倒した。
その両目は血走り、瞳からは涙がボロボロと溢れ出している。
彼女は机を乗り出し、カナの両手を握り潰さんばかりの力でガシッと掴んだ。
「尊いですわぁぁぁぁ! 尊すぎてわたくし、いま魂が身体から一瞬離れましたわ!!」
「えっ!?幽体離脱 !?」
「何ですかこの黄金比率は!? 可憐で凛々しいソウシ様が、下等な上級生たちの卑劣な媚薬によって屈服させられかける受難の美しさ! 溢れ出る色香! そして何より、普段は優等生で温厚なイッセイ様が、嫉妬と独占欲で魔力を暴走させるあのギャップ!! これぞ王道! これぞ至高の美学! 萌えの過剰摂取で脳がパンクしそうですわ!!」
机をバンバンと拳で叩きながら熱弁を振るうセリナの鼻息は荒い。
「実際のソウシくんは、前回のお話みたいに、不良を一蹴するくらい男前でカッコいいですけれど! だからこそ! 愛するイッセイくんの前でだけ見せる『媚薬に狂わされる顔』というギャップが刺さるのです! 妄想の極み! 天の領域へと至るシチュエーションですわ!!」
「よ、よかったぁ……。セリナちゃんが気に入ってくれて安心したわ……」
カナは脱力して胸を撫でおろした。
モデルにされた近くの男子校の二人が知ったら即座に訴訟問題になりかねない妄想小説だが、この目の前の熱烈な第一読者がいる限り、カナの執筆意欲が衰えることはない。
「セリナちゃん、実はね……この後の『旧講堂での濃密な本番シーン』の展開も、もう頭の中には出来上がっているの」
「なんですと……!?」
セリナの瞳が、カッと見開かれた。
「お姉様! 今から執筆しませんか?何ならわたくしが今からお姉様の口述筆記をタブレットに打ち込みいたします! さあ、一言一句漏らさずお聞かせくださいまし!!」
夕闇に包まれつつある喜多川女子高校の生徒会室で、二人の腐女子による熱い妄想と情熱は、完全下校のチャイムが鳴っても冷める事はなかった。
喜多川女子の話。書いてて楽しいO(≧∇≦)o
別枠で書くの有りかなぁ




