8月(5)夏休みの終わり、夜空には花火
8月最後のお話です。
【Episode:ジュリ】
夏休みも終わりに近づいたある日、僕のスマートフォンが小さく震えた。
画面に表示されたのは、ソウシからのメッセージ。
『パーティーの皆で、先輩たちの応援に行こうぜ』
そのメッセージに、僕の胸がわずかに熱くなる。
何の応援かは簡単に予想がついた。
まったく、いつも強引なんだからと思いつつ、断る選択は最初からない。
すぐに「行く」と短く返信する。
夏休みの初めに経験した、里山での魔獣狩り。
ゴブリンの群れに囲まれ、初めて死の恐怖を体験した。
あの時、僕たちは何も出来ず、無力さに打ちひしがれた けれど、一緒に生き延びた経験からか、僕は『第07班』のみんなに『絆』のような物を感じていた。
——僕は、みんなに会いたかったのだ……と気付かされる。
待ち合わせの駅で合流し、みんなで電車に揺られる。
車内やホームを移動する際、すれ違う人々からチラチラと視線が向けられるのが分かった。
かつての僕なら、自意識過剰になって不快に身構えていただろう。
けれど今は、(どうせソウシかトウワの無駄に綺麗で可愛い顔を見ているのだろう)と、都合よく結論づけることで、驚くほど平気でいられた。
電車が県境を越え、目的地である隣の県の高校へと到着する。
そこは、かつてイッセイが喜多川魔法学園とどちらに入るか本気で迷っていたと話してくれた、全寮制のトップレベルの進学校『HBL魔法学園』だった。
そびえ立つ立派な校舎と、監獄のような物々しい高い塀を眺めながら、僕はふと思い出す。
僕も祖母に『後3年は一緒に暮らして欲しい』と泣いて頼まれ喜多川を選んだのだ。
もしあの時、祖母の願いを無視して『HBL』を選んでいたら……僕は『第07班』のみんなに出会っていなかった。
そう思うと、運命を感じずにはいられない。
『全国高校魔法競技大会』の会場。
円形競技場に足を踏み入れると、すでに凄まじい熱気で観客席は沸き立っていた。
全国から応援に訪れた高校生の色とりどりの制服、魔法で掲げれた横断幕。鳴り響く太鼓や吹奏楽の音色。
圧倒されながら喜多川のブースに向かうと、空席の隣には同じ特進科クラスのサネツグが『第03班』のメンバーと一緒に座っていた。
「やあ、07班のみんな! 久しぶりだな!」
「早かったな、サネツグ。」とイッセイ。
「サネツグ達も電車で来たのか?」と僕が聞くと
「親がこっちに用があって、みんなも乗せて貰って車で来たんだ。」
「どうりで早い訳だ。」
イッセイが笑いかけながらサネツグの後ろに座る。僕はソウシを促してイッセイの隣に座らせ、僕はソウシの隣に陣取り、トウワ、そしてマナブの順に横一列に腰掛けた。
『第03班』全員に会うのは新入生トーナメントの決勝戦以来の再会だ。『第03班』に一歩及ばず敗れたあの時の試合はいまだに悔しいが、一学期も過ぎた今となっては同じ喜多川。
普通に会話はする。気付けば席のあちこちで「よっ!」「元気だった?」とワチャワチャとした同級生の軽いノリが始まっていた。
「……なぁ? ジュリ、なんか雰囲気変わったな」
不意に、第03班のメンバー(確か体育科だった)から指摘される。
「ん?何が?」
「いや、なんかさ。前より柔らかくなったっていうか。トゲが抜けた感じ?」
「そうかな?別に。前からトゲなんて生えてないけど?」
口を尖らせてみたけれど、胸の奥がじんわりと温かい。
そんな風に言われて、自分が嬉しいと思っていることに驚く。
——ブザーが鳴り響き、競技が始まった。
全ての種目で、昨日までの予選トーナメントを勝ち抜いた学校の上位8校が総合優勝を狙っての試合が始まる。
最初に行われるのは、ドローンを操作し障害物を乗り越えゴールまでのタイムを競う『ドローンアタック』
いかに魔力制御に長けているかが重要で、魔導具の性能、コース上にある様々な仕掛けを乗り越える技術はもちろん、外からは見えない長いトンネルをどう潜り抜けるかの工夫も重要な点だ。
1チーム5人のチーム戦で、ドローンの制作風景なども大型ビジョンに映し出された。
緻密な計算とスピードが火花を散らす。
トウワは身を乗り出して目を輝かせて応援していた。珍しく興奮しているのが面白い。
結果—— 喜多川は惜しくもHBLに負けて準優勝。
聞くと5年連続でHBLに負けているそうで、トウワもドローンの整備に少し関わっていたらしく本気で悔しそうだった。
続いて始まったのは、『ドッジマジック』。
ドッジボールのボールが魔法に変わったような物で、違うのはコート内にいる防御3人はひたすら防壁を作って攻撃を防ぎ、外にいる攻撃3人から身を守るのだ。
少しでも魔法が当たると、今度は相手のコートの外側に周り相手の防御者を攻撃する。
試合が進むにつれて攻撃者が増える。四方八方から放たれる攻撃をかわし、防壁を維持し続ける魔力量と、体力が試される試合で、最後の一人までコートの内側で防壁を維持し続けたチームが勝利となる。
魔法特化のこの試合は女子校が優勝した。サネツグが言うには最後まで残ったあの女子は3年間この『ドッジマジック』に出場して優勝に導いているらしい。
その他にも次々と様々な試合が進み——
今日一番の盛り上がり。
最終種目――あの新入生トーナメントでも戦った、サッカーのゴールポストあたる場所にある相手の水晶を割ったチームが勝ちの、通称『クリスタル・ブレイク』だった。
フィールドに喜多川の代表メンバー『2年 第11班』が姿を現した瞬間、割れんばかりの歓声と鳴り物が響く。
生徒会長であるワタル先輩を筆頭に、副会長のケイシ先輩。普通科のアレク先輩。工学科のシンシン先輩。そして――。
「リュウケイ先輩、頑張れー!!」
隣でソウシが、目を輝かせて身を乗り出し、歓声を上げた。
高校生とは思えないほど鍛え上げられた体躯を誇る体育科のリュウケイ先輩が、フィールドに張られた相手チームの防壁をかわし、薙ぎ倒し突進していく姿は雄々しく、同じ男から見ても惚れ惚れするほどの迫力だ。
けれど、チラッと僕が目撃したのは、別の面白い光景だった。
「…………ッ」
僕の隣に座るソウシの向こう。イッセイの苦虫を噛み潰したような顔だった。
前にトウワに、内緒で聞いた話によると(トウワはシンシン先輩から聞いたらしいが)ワタル会長の策略で、イッセイを生徒会に引き込むためにリュウケイ先輩がソウシを気に入っていると吹き込み……嫉妬心とプライドを刺激させ生徒会に入れたとか……
とにかく。
フィールドのリュウケイ先輩を睨みつけているイッセイを見ると、いまだにイッセイにとって、リュウケイ先輩は『恋敵認定』のままなのだと推測できる。
彼の炎魔法が漏れ出て、周囲の気温が少しばかり上がっている気がするので、
僕は肩をすくめながら、氷魔法で僅かに周りを冷やしておいた。
(それなのに……ソウシに自分の気持ちを隠しているとか、傍から見てるとコントみたいだ。)
まぁ。
ソウシ本人は、そんなイッセイの嫉妬に1ミリも気づかず、
「すげえ!リュウケイ先輩かっけ~」と拳を握りしめているのだから面白い。
僕は可笑しくて口元が緩んでしまい、声を出して笑った。
僕も柔らかくなったかもしれないけれど、
あの入学したての頃の、理路整然としたイッセイが、こんなにも感情を剥き出しにして、ずいぶん人間らしくなったな……と思う。
——ブーーーーーーーーッ——
試合終了のブザーが鳴り響く。
相手校の猛攻に何度も何度も肝を冷やしたが、最後はリュウケイ先輩の凄まじいパワーが全ての防壁を打ち破り、水晶を叩き割った。
試合は、喜多川魔法学園が勝ったが、
総合優勝は『HBL』がかっさらい、僕たちは来年度の優勝を誓った。
熱い試合を見せられて、興奮がなかなか冷めない。
HBL学園を後にし、駅に向かう頃、空は青色から茜色へと移り変わろうとしていた。
「ねぇねぇみんな、見てこれ!」
マナブが弾んだ声で、自分のスマートフォンの画面を僕たちの真ん中に突き出してきた。
「近くの川で夏まつりと花火大会やるって!行こうよ!」
と、言いながらローカルの案内ニュースの画面をみせてくる。
「花火!!みんなで見に行こうぜ!」
ソウシの満面の笑みに、誰も異論なんてなかった。
一駅先の駅まで電車に乗り、駅の周辺には浴衣を着た人達も見えた。
初めての場所だけど、花火見学の会場まで長い露店が並び、ワクワクとした高揚感と、マナブに次々と出店での買い食いをすすめられ、お腹もいっぱいになった頃、辺りはすっかり日が暮れていた。
大勢の人で賑わう会場に、制服姿の僕たちは浮いて見えただろうけど、みんなと一緒なら不思議とまったく気にならなかった。
僕たちが、川辺に並んで腰掛けたその時。
——ドーーン ドーーン
と大きな音が鳴り響き
夜空に、大輪の花が咲き誇る。
色とりどりの光が、僕たちの顔を鮮やかに照らし出す。
「綺麗だな……」
ソウシの呟きが聞こえてきて、
ふと、胸が締め付けられるような気持ちが込み上げてくる。
夏休みの初め。
ゴブリンに囲まれ、死への恐怖に直面した僕たち。
だけど、夏休みの最後。
こうして誰一人欠ける事なく、こんなにも綺麗な花火を見上げている。
「凄い迫力だね~」
隣でマナブが無邪気に笑う。
ソウシも、トウワも、イッセイも、みんなが夜空を見つめて目を輝かせている。
「……そうだね」
僕も小さく頷いて、夜空に弾ける光を見上げた。
「今度皆でバーベキューしない?」
「何ですか?急に。」
マナブの唐突な提案に、トウワが返す。
「良いなぁ!皆でバーベキュー、楽しそう!」
「ソウシは料理上手だからね。」
ソウシが食いついた話に、何故かイッセイがどや顔をして乗っかるのが可笑しい。
「良いね。いつにする?」
僕も何だか楽しくなってきた。
今年の夏休みが、最高の思い出になって夜空に溶けていく。
この騒がしい仲間たちと一緒に迎える新学期。
楽しい予感が、僕の心を優しく、強く満たしていった。
読んで下さってありがとうございます。
次は9月のお話です。




