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魔王に転生したけど私、解釈違いです!~完璧な従者と最強の魔王の関係性を拗らせたオタク、自らの存在が解釈違いすぎる~  作者: 片吟堂
第1章:推しに転生

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6/11

1-6:おいやめろHNで呼ぶな

 皆さん、ごきげんよう。由紀(ゆき)です。現代日本を飛び出して推しの体に転生しちゃった私ですが、えー、現在、控えめに言って、大ピンチでございます。


 私の目の前で満面の笑みを浮かべたまま微動だにしない女の子。彼女はこのゲーム世界における主人公「暁光(ぎょうこう)巫女(みこ)」ですね。私と同じ転生者だと思います。間違いなく。


 私と巫女はさっきからずっと無言でにらめっこを続けている状態なんですね。

 たぶん、お湯入れたカップ麺がおいしく出来上がるぐらい。


「……」

「……」


 沈黙が! 怖い! どうしようこっちから声かけるべき?

 いやいや無理無理! ここは敵国ナチュリアのど真ん中。そして私はナチュリアにとって倒すべき巨悪の魔王。しかも今はふわふわボディのぬいぐるみに変化中。何をどう言い訳しても絶対いい結果にはならないでしょ。


 てかなんで何も言ってこないのこの人!? 私が魔王だってもうバレてるよね!?

 無言の笑顔の圧が強すぎる。泣きそう。このままじゃらちが明かないし、もし今ここに他の人が来たら、きっともっとまずいことになる。

 それに、私が魔王セブリオン・マテリアってことはバレてても、さすがに「私」の正体まではバレてないはず。今のうちに先手を打って、せめて「私」の正体がバレる前に逃げ出さなきゃ。


 とはいったものの、原作にこんなイベントは存在しない。だから、私は今から完全アドリブで暁光(ぎょうこう)巫女(みこ)とお話ししなくちゃならない。

 ……大丈夫。オタクが喜ぶ「セブっぽさ」さえあれば、バレないはず。なりきりで鍛えた己の手腕を信じろ、私。


変化(へんげ)の秘術を見破るとは、見事なものだ。褒めてやろう。して、何用か」


 とりあえずこんなもんかな……? まだ訪問一回だけだし、この時点でのセブは巫女に心を許してないから魔王感全振りでいっていいはず。


「……」


 あれっ? 巫女が返事してくれませんね? おかしいな。もうちょっと話しかけてみるか。


「マテリアの魔王であるこの俺を()の者に黙って連れ込んだからには、何か要望があるのだろう?」

「……」


 どうしよう。全然反応ないんですけど。ぬいぐるみの姿だからいつもの魔王声じゃなくてちょっと調子出てないかもだけど、さすがにそろそろ何か言ってくれてもよくない?


「何か言ったらどうだ?」


 ストレートに聞いちゃった。まあ私が本当にセブ本人だったとしてもこう言ってたと思う。

 すると、ようやく暁光の巫女が口を開いた。


「『(しろがね)胡蝶(こちょう)紫水晶(アメジスト)()まる』主宰のはんぺんさんですよね?」


 ブッフォッゥウ!? ま、えっ、は??


 それ、私が前世で主宰したセブモルの合同アンソロジーのタイトルと、私のHN(ハンドルネーム)ですよね? なんで? なんでバレてるの?

 衝撃すぎて震えが止まらない。知らないふりして誤魔化さなきゃなのに、言葉が喉につかえて出てこない。

 そんな私を見て、巫女はすっかり私の正体を確信したっぽい。さっきまでの笑顔が、完全に消滅している。


「……最っ悪」


 うん。本当に申し訳ない。私だって暁光の巫女に転生して推しの中身がオタクになってたら嫌すぎるもん。

 と、とりあえず謝っておこうかな。


「あの……何かすみません……」

「おかしいと思ってたんですよね。一回目の訪問イベのとき妙に優しすぎたっていうか、いつものセブ様と違いましたよね、やっぱり。あのとき既にこうなってたってことですよね。セブ様のフリして騙してたってことですよね」


 きっつい……でも何も言い返せない……。

 しばらく巫女に平謝りをし続けると、やっと少し落ち着いて話せそうな雰囲気になってきた。この際だからこっちから気になることも聞いておこう。


「あの、なんで私がはんぺんってわかったんですか……?」

「訪問イベのとき、原作にない台詞以外は違和感なかったので。ここまで再現できる人って限られますから」


 おや? 私、褒められてます? ちょっと嬉しいかも。


「あと、モルを見る目つきがいやらしかったので」


 前言撤回。ちっとも褒められてない。というかこれ私反省会しなきゃだな? セブはモルたんをそんなふうに見たりしません。

 ついでといってはなんだけど、もう一つ気になることを聞いちゃおう。


「あの、私だけ名前知られてるのもあれなので、もしよかったら、あなたのお名前も……ほら、今後会話イベントでお呼びすることもありますし……」

「セブ様に呼ばれるための名前しか用意してないので。あなたに名乗るものなんてないです」


 ぐうの音も出ないな……。心折れそう。早くこの部屋から解放されたい。助けてモルたん。


「で、いつになったらセブ様の体から出て行ってくれるんですか」


 はい来た一番聞かれたくないやつ! そんなの私が知りたいわ!

 ってなわけで、私はこれまでのかくかくしかじかを暁光の巫女に説明した。

 巫女はひと通り聞き終えると、突然椅子から立ち上がった。その勢いで椅子が倒れ、大きな音を立てる。びっくりするからやめてほしい。


「自分の力では出られないって言いたいんですか」


 まさにおっしゃる通りでございます。私はぬいぐるみの頭でゆっくり大きく頷いた。


 巫女の口からクソデカ溜息としか言いようのないほどのクソデカ溜息が排出された。机に両手をついて、思いっきりうなだれてる。


 それだけじゃない。聞こえるか聞こえないかぐらいの微かな声で、何かぶつぶつ呟いてる。私はぬいぐるみの耳をそばだてて何とか聞き取ろうとした。その耳を、巫女の指が掴み、持ち上げた。


「いだだだだだだっ」


 私のふわふわボディが宙に浮く。全体重が耳に乗ってとにかく痛い。

 逃げたくて手足をバタつかせてるけど、動けば動くほど余計に痛む。


 暁光の巫女は暴れる私を冷ややかに見降ろすと、何を思ったか全力で床に投げつけた。


「へぶぅっ」


 例によって顔面から着地しちゃったけど、ふわふわボディのおかげで大丈夫だった。

 床に落ちた私の体を、なんと巫女が足で踏んづけてきた。重い……ぐるじい……。


「力ずくで追い出すしかないってことですね」


 足の下で呻く私に見向きもせず、巫女は机の引き出しを開けて何か探してる。


「この姿になっていてくれてよかったです。やむを得ないとはいえセブ様の体を傷つけたくはないので」


 発言が不穏すぎる。このままじゃ何をされるかわかったもんじゃない。

 私は全力で首を捻り、踏まれた状態から何とか巫女を見上げることに成功した。

 ちょうどそのタイミングで、巫女が引き出しから何かを取り出した。ナイフだ。まあまあゴツめの。


「無理無理無理無理無理無理!」


 命の危機確定演出ぅ~! なんでこんな物騒な物持ってんのこの人!?

 まだ転生したばかりなのに、しかも原作にないタイミングで殺されるなんて、そんなの絶対嫌ですけど~!?



次回更新は土曜日です!

引き続きよろしくお願いします~!

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