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魔王に転生したけど私、解釈違いです!~完璧な従者と最強の魔王の関係性を拗らせたオタク、自らの存在が解釈違いすぎる~  作者: 片吟堂
第2章:推しと対話

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2-12:このダンジョン、暑すぎ……

 ナチュリア王国の「火の精霊の聖域」。通常ルートではナチュリアの第一王子ルビーと暁光(ぎょうこう)の巫女が一緒に攻略するダンジョン。

 今その入り口に並び立つのは暁光の巫女と、隣国マテリアの魔王セブリオン・マテリア。と、その中に居候してる私。王子じゃなくて魔王がここにいるのは、巫女がそう望んだから。


 これから私たちは火の精霊の試練を乗り越え、この世界から黒雲を払うために必要な「祝福」を授かることになる。

 そしてもう一つ。推し主従を守るための鍵となる「慈雨(じう)の巫女」について、精霊から情報を引き出すこと。私とセブ、そしてマテリアでお留守番してくれてるモルにとってはこっちがメインの目的だ。


「セブ様、準備はいい?」

「……ああ」


 巫女がセブに声をかけ、聖域の扉を開いた。いよいよ追加ルートと同じ、セブと巫女によるダンジョン攻略が始まる。

 無いとは思うけど、主従の魂の契り解消に繋がるきっかけが出てこないか、ちゃんと見張っておかないと。私も改めて気合いを入れ直す。


 聖域に一歩足を踏み入れた途端、容赦ない熱気がセブと巫女を襲った。

 むせ返るような灼熱。表に出ていない私は特に暑さを感じない、はずなんだけど……マグマ煮えたぎる聖域の風景は、見てるだけで……暑い……。


(お前がバテそうになってどうするんだよ)

(だ……だって……)


 セブにからかうみたいに笑って言われて、反論したいんだけどその元気もわいてこない。私、一年で一番夏が苦手なぐらい暑さに弱いんだよね。

 セブ自身は暑そうではあるけど別に平気っぽい。隣に立つ巫女も涼しげな顔をしてる。けど巫女の顔は玉のような汗をかきまくってる。


「大丈夫か?」


 中のオタクでさえこのザマなのだから同じオタクの巫女もさぞ辛かろうと思ったのか、セブが気を利かせて声をかけたみたい。

 巫女は一瞬何が起きたのかわからないといった顔でセブの方を見た。ほんの少し遅れて言葉の意味を理解したらしく、少し困ったような微笑みを浮かべた。


「心配かけてごめんね。あたしなら大丈夫。気にかけてくれてありがとう」


 健気に笑って見せる巫女。でも私はオタクだからわかる。あの笑顔、推しの前でニチャアってなりそうな顔を全力で噛み潰してる笑顔だ。さすがにこれをセブに教えるのは可哀想だから黙っとくけど。


 聖域のギミックは巫女が完璧に把握してる。私も通常ルートで何周もしたからわかるけど、王子じゃなくてセブを連れた状態で攻略したのは一度きりだから新鮮な気持ち。


(四精霊の試練っていうからどんなもんかと思ったが、大したことなさそうだな)


 聖域の攻略に若干飽き始めたのか、セブが心の中で話しかけてきた。


(初見だと結構大変なんだけどね。今回は巫女が完璧にさばいちゃってるから)


 でもこの巫女、抜かりない。自分と攻略対象のどっちが突破しても構わない仕掛けは全部セブにお任せして華を持たせるようにしてる。さすが百戦錬磨の効率厨。


 あと、何がすごいって攻略中に確率で発生する短い会話イベントもほとんど全部再現してる。実際には魂の契り解消後のみ発生する会話もあるから全部ではないんだけど、それ以外は完璧再現。


 確かに、ここで会話が起きるって知ってさえいれば、確率なんか待たなくても自分で話しかけたりきっかけ作ればいいだけだもんね。好感度上げに余念がない。この巫女、やっぱり本気すぎる。


「着いたよ、セブ様」


 私たちは聖域の最奥部、火の精霊の座に辿り着いた。


(あとは火の精霊とやらを叩っ斬って慈雨の巫女のこと吐かせて終わりだな)

(合ってるけど野蛮!)


 セブは地から呼び出した魔剣ダモクレスを手にし、構えた。


「来い。我がダモクレスの贄としてくれよう」


 わぁ~推しの魔王感がカンストしてる~! まあ本物の魔王なんですけどね!


 セブの言葉に反応したのか、火の精霊が姿を現した。全身が炎でできた巨大な鳥。セブに煽られたからか原作の登場シーンよりちょっと怒ってる気がする。


「我が魔剣の贄と消えよ」


 セブが躊躇なく踏み込んで、斬った。一応相手は偉い精霊さんなんだけどこれ大丈夫かな!?

 火の精霊の腹に走った一筋の傷が開く。斬撃とともに注ぎ込まれた闇の魔力が傷口を押し開き、迸る紫黒色の炎が精霊の全身を侵し、支配する。

 推し、つよ。私今すぐかっこいい推しを横から見たいんですけど、そこにいる巫女と交代ってできませんかね?


「精霊よ、慈雨の巫女について貴様の知る情報を全て吐け」


 いくらなんでも偉そうすぎない? 相手、精霊ですよ?


「随分と威勢のいい(わらべ)どもよ」


 精霊の方も偉そう!


「暁光の巫女とマテリアの王とは、何とも珍妙な組み合わせよのう」


 これは原作の追加ルートと同じ台詞だと思う。一回しか聞いてないから自信はない。


(ぬし)らは(わらわ)の祝福を受けに参ったのではないのか?」


 精霊を縛る闇の力が強まった。ぐ、と苦しげなくぐもった声が精霊の喉から漏れる。


「問いに答えよ、精霊。慈雨の巫女について、貴様の知ることを吐け」


 セブ、質問をスルーされてイラついたのかな。


「……そう急くでない、童よ。妾は巫女に話がある」

「あたしに?」


 巫女のことだからセブ様を無視するなんてこの鳥あとで水底に沈めるとか思ってそう。でもそれは絶対表に出さない。

 巫女の外面の良さにちょっとだけ感心しながら、私は話の続きを待った。


「主はなにゆえマテリアの者と妾のもとへ参った?」

「あたしはこの世界も、魔王様も、救いたいです。誰かを犠牲にするのはいや。この世界のために、一人も死んでほしくないの」


 いやあんた私を思いっきり殺そうとしてましたよね? あれれ?

 私のツッコミにセブが笑いをこらえてるのがわかった。


(おい笑わせるな)

(ごめん……?)


 これ私謝る必要ある?


「巫女よ、その者だけでは黒雲を払うに敵う力は揃わぬぞ?」

「だからこそ、慈雨の巫女について教えてほしいんです」


 精霊がちらりとこっちを見た……待って、セブじゃなくて、その中にいる私を見てる? こわっ。心臓が飛び跳ねたような気がする。今ないけど。


「左様か。ほうほう。面白いことを考えるものよ」


 精霊がいかにも思わせ振りな言い回しでじろじろこっちを見てくる。何なのこの焼き鳥。せっかく今巫女は私が起きてるって知らないんだから、余計な事口走らないでほしいんだけど。


「無礼なやつじゃ」


 マァッ!? 思考読まれてる!? オタクの脳内覗いてもいいことなんにもないですけど!? っていうかさっきから言いたいんだけど、あんたがあんまり迂闊なこと言うと巫女が気づいちゃうから! 私の存在は見なかったことに! スルーで! スルーでお願いします!


「……まあ良い。主の思惑は理解した。慈雨の巫女のことは水龍に尋ねると良かろう。彼奴(きゃつ)はいっとう慈雨の巫女を好いておった」

「水龍……水の精霊様ですね」

「妾はじめじめしたのは苦手じゃ。祝福を授けるゆえ、あとのことは水龍に尋ねよ。ほれ、マテリアの者よ、拘束を解くがよい」


 精霊に言われてセブは魔剣による支配を解く。闇の炎は立ち消え、傷口は跡形もなく消え去った。


「ふう。近頃の童は加減というものを知らぬゆえ、困ったものよ」


 魔王相手に思いっきりナメた態度をとる精霊に、セブ本人よりも巫女がキレかけてる。愛され笑顔は保ったままだけど、巫女の固有装備である両手持ちの杖を握る手は力を込めすぎて震えてる。


(おい、こいつ大丈夫か……?)

(大丈夫。巫女は原作再現に命かけてるから、滅多なことはしないと思う)


 セブは心配してたけど、巫女は私の予想通り決して怒りをあらわにすることなく精霊の祝福を受けた。


「ありがとうございます、火の精霊様」


 これで火の精霊の聖域はクリア。

 セブの好感度上げ会話はだいぶ進められちゃったけど、効果のほどは本人に聞いてみないとわかんないし、何より魂の契り解消フラグは立ってない。慈雨の巫女の情報も、まあ一応は聞けた。

 水龍――水の精霊のところで、今度こそ手がかりが掴めるといいんだけど。


 ダンジョンの帰りは精霊が送ってくれることになってる。ありがたくそのお力をお借りして、私とセブはモルの待つマテリア王城に帰還した。


「帰ってきたね、セブ様」


 ……んん? ちょっと待って? 何か隣にいますね!?


「お前……何故……!?」


 さすがに動揺が隠せずにいるセブの視界に、しれっと映ってこっちを笑顔で見上げてる、暁光の巫女。

 ヤバい。何がヤバいって、主の帰還を魂で察したモルが今、こっちに向かってる。

 このままだと相性最悪の巫女とモルがご対面しちゃう……命がいくつあっても足りませんけど……!?



巫女さん本日も絶好調


次回更新は火曜!

引き続きよろしくお願いします~!

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