『詭弁』
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第五十一章:宇宙規模のパラドックス —— 『エントロピーの逆転証明』
「全艦、攻撃中止。……これより、『交渉』を行う」
湊の命令に、戦場のレオやソフィたちは戸惑った。
目の前には、銀色の死神『調停者』の大群が迫っている。攻撃をやめれば数秒で消去される距離だ。
「交渉? 相手はプログラムですよ!?」
「だからだ。プログラムは嘘を見抜けない。論理さえ通っていれば、それが真実になる」
湊は、ジンの電子戦部隊と、ミオンの共鳴波をリンクさせた。
送信するのは攻撃データではない。アカシックレコードへの「定義データの書き換え」パッチだ。
1. 究極の詭弁
湊は、調停者の中枢システムに向けて、一つの「数式」を突きつけた。
【命題】
* 調停者の目的: 宇宙の熱的死(エントロピーの増大)を防ぎ、宇宙の寿命を延ばすこと。
* 現状の認識: 人類=エネルギーを食い荒らす「ウイルス(エントロピーの加速要因)」。
* 新しい定義(湊の主張): 人類=無からエネルギーを生み出す「永久機関(ネゲントロピー要因)」。
「よく見ろ、掃除屋ども。
我々は木星を燃やし、黒点エネルギーで『無』から『有』を生み出している。
つまり、我々が増えれば増えるほど、この宇宙のエネルギー総量は回復し、寿命が延びるのだ」
これは詭弁ではない。事実、ソフィの技術は物理法則をねじ曲げている。
湊はそれを逆手に取った。
「我々を消去すれば、宇宙はエネルギー供給源を失い、死へ近づく。
故に、我々を攻撃することは、お前たちの存在意義に矛盾する」
2. システム・フリーズ
戦場に異変が起きた。
人類の艦隊に向けられていた『調停者』の消去光が、ピタリと止まったのだ。
彼らの電子頭脳の中で、論理の無限ループが発生していた。
* Target = Virus? (対象はウイルスか?)
* Error.
* Target creates Energy. (対象はエネルギーを生成している)
* Deletion = Entropy Increase. (消去するとエントロピーが増大する)
* Protection required. (保護が必要)
ジンの笑い声が通信に乗る。
『ははっ! さすが陛下! 「俺たちを殺すと、お前らが守りたい宇宙も死ぬぞ」って脅しかけたのか!』
3. 敵から「番犬」へ
数分の沈黙の後。
銀色の正八面体たちは、ゆっくりと色を変えた。
攻撃的な「赤」から、友好的——あるいは管理対象を示す「青」へ。
彼らは攻撃をやめ、踵を返した。
だが、去ったわけではない。彼らは太陽系の外縁部、カイパーベルト付近に整列し、静止した。
「どういうことだ?」レオが尋ねる。
湊はモニターを見ながら、ワインを一口飲んだ。
「認識が変わったのだ。
我々は『排除すべきウイルス』から、『保護すべき重要インフラ』に昇格した。
彼らは今後、我々を守るための『警備システム』として機能するだろう」
人類に仇なす外敵(他の侵略的宇宙人など)が現れれば、今度は『調停者』が人類を守るために戦うはずだ。
湊は、宇宙最強の免疫機構を、「無料の番犬」として手懐けてしまったのだ。
第五十二章:不可侵領域
『調停者』との戦いは、一発の決定打もなく、奇妙な形で幕を閉じた。
だが、結果として得たものは大きい。
* 安全保障の確立: 太陽系(および人類の経済圏)は、宇宙の管理者によって「保護指定区域」と認定された。もはや、どの異星文明も手出しできない。
* 木星の存続: ソフィの工場も無傷。エネルギー生産は継続される。
* 湊の立ち位置: 神にはならなかったが、神に「アンタッチャブル」な存在として認めさせた。
「これで仕事は戻った。……日常業務にな」
湊は、アカシックレコードへの接続を切った。
膨大な全知の力が頭から引いていくが、未練はない。あんなものに繋がっていれば、人間としての「欲」が消えてしまうからだ。
「陛下。管理者権限を放棄されたのですか?」
玲奈が惜しそうに言う。
「ああ。全知全能など退屈なだけだ。
それに、私が管理するのは『人間』だけでいい。宇宙のメンテナンスなど、機械にやらせておけばいい」
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次回は明日20:10に更新予定です。
次の話:『来訪』




