『重み』
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第十九章:重力の枷からの解放
国境線が消滅した地球では、かつて軍事機密として隠匿されていた各国の技術が、全て日本の管理する『世界統一科学局』に集約されていた。
NASAの航空宇宙工学、ロシアのロケット技術、中国の資源採掘技術、そして日本の「黒点エネルギー」と「影」の物理学。
これらが融合し、化学反応を起こした時、人類は神の領域に触れた。
1. プロジェクト『ニュートン殺し』
南太平洋上の巨大な人工浮島研究施設。
そこでは、月面ステーション『アルテミス・ジャパン』の居住区開発が行われていた。
最大の課題は「重力」だ。月の低重力(地球の約1/6)は、人体に深刻な悪影響を及ぼす。長期滞在には、人工的に1G(地球と同じ重力)を作り出す必要があった。
世界中から集められた天才科学者たちは、湊の能力である《影》が「物理法則を無視して質量を支える」現象を解析。
そこから、重力子を電気的に制御する理論を確立した。
実験室を訪れた湊の前で、主任科学者がスイッチを入れる。
すると、空中に浮かんでいた巨大な鉄塊が、音もなく床に「落ちた」。いや、正確には「床に向かって引き寄せられた」のではない。
空間そのものが歪み、重力のベクトルが書き換えられたのだ。
「陛下。成功です。我々は、重力を『発生』させるだけでなく、『相殺』し、『偏向』させることも可能です」
2. 航空力学の終焉
湊は、その技術が月面以外にもたらす意味を瞬時に理解した。
彼は窓の外、広大な空を見上げて冷ややかに笑った。
「翼は、もういらないな」
これまでの航空機は、空気を翼で切り裂き、揚力を得ることで飛んでいた。そのためには長い滑走路、莫大な燃料、そして騒音が不可欠だった。
だが、重力を制御できるならば、空を飛ぶのに空気抵抗など関係ない。
『反重力推進機関』の誕生。
それは、航空の常識を一夜にして過去のものにした。
* 滑走路の撤廃: どんな巨大な機体も、その場で垂直に浮上できる。空港という広大な土地は不要になった。
* 無限の速度: 空気抵抗を重力制御で無効化(機体周囲の空間を曲げる)することで、衝撃波を発生させずに、マッハ10以上の極超音速巡航が可能になった。
* 完全な静寂: ジェットエンジンの爆音はない。あるのは、空気が凪ぐような微かな振動だけ。
「東京からニューヨークまで、40分。これが新しい通勤時間だ」
湊の宣言通り、世界は「距離」という概念から解放された。
人々は、朝にアフリカでコーヒーを飲み、昼に東京で働き、夜はパリで食事をして、自宅(南米)に帰る。そんな生活が当たり前になったのだ。
3. 浮遊する帝都
重力制御の恩恵は、空だけではなかった。
建築革命である。
「なぜ、建物は地面に建っていなければならない?」
湊の号令により、帝都東京の風景は一変した。
過密化していた地上のビル群の上に、さらに巨大な建造物が「浮遊」し始めたのだ。
重力制御装置を組み込んだ空中都市。
そこには、選ばれた市民や重要な行政機関が移設された。地震の影響を受けず、洪水も関係ない、完全なる天空の城。
地上の一般市民が見上げると、そこには常に、神々の住処のように輝く空中都市と、その間を音もなく飛び交う流線型の反重力船があった。
「重力さえも、私の支配下にある」
湊は、空中都市の最上階、地上3000メートルの執務室から下界を見下ろす。
物理法則の枷を外された人類は、かつてない繁栄と自由(移動の自由)を手に入れた。
しかし同時に、その「空を飛ぶ権利」さえも、湊が管理する重力制御グリッド一つでいつでも剥奪できるという、絶対的な支配の証でもあった。
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