ハサミの半分と、命の半分
金槌の音で目を覚ました。まるで脳内で打楽器のコンサートが始まったようだった。体はしっかり休めたはずなのに、枕は夜の途中でどこかに逃げたらしい。隣では、イレーネも目を覚まし、鼻をくしゅくしゅさせながら手足を伸ばしていた。寝ぐせのせいか、まるでヒヨコが眠そうにしてるようで、思わず笑みがこぼれた。
「おはよう、小さな眠り姫」
そう言って、頭をぽんぽんと撫でてやる。
僕たちは旅人なりの“まともな服”に着替えて、外に出た。アルテミサはいつも通り、イレーネの肩にちょこんと乗っていた。まるで警備兵のように、静かにあたりを見渡している。その目は兜で隠れているはずなのに、見つめられている感覚があった。不思議な存在だ。
街の空気にも慣れてきた。鉄と油と火の匂いは、なぜかもう心地よくすらある。
「さて、小さなイレーネ。さあ、俺の武器が出来上がったか見に行こうか!うふふふ」
親からおもちゃを買ってもらう子供のように、笑いながら歩き出した。
鍛冶場へ向かう途中、いつもの風景が広がる。自分の体より大きな鉱石の箱を軽々と持ち上げるドワーフたち。湯気を上げながら冷却される武器。地面を震わすようなハンマーの音。まさに日常であり、詩的でもある。
扉は開いていた。中に入ると、まず目に飛び込んできたのは床に倒れ、酒樽を抱きしめたまま爆睡する親父ドワーフだった。
……こいつ、樽と結婚したんじゃないか?
中は熱気と煙でむせかえるようだった。イレーネは利口に入口で涼んでいたけれど、僕はすでに汗が流れていた。
「誰かー、生きてるー?」
金槌の音が止まり、しばらくして奥からあの娘ドワーフが現れた。額に汗止めの布を巻き、手袋をつけたまま、ススにまみれた作業服姿。服が汗で肌に張りついていて……いや、見るな。男の本能、見るな!
「で…できたの?」
平静を装いながら聞いてみる。
「ええ。あんたのアホみたいな武器のために、徹夜して叩き続けたわよ。だけど、こんな高品質のミスリルを触れるなんていい経験だったわ」
そして、テーブルの上に置かれたそれ。
巨大なハサミの半分。
目が輝いた。まさにイメージ通り。というか、前世の某アニメの武器にそっくりだったけど…言わないでおこう。
「うわ……めっちゃキレイ」
「……」
彼女はこちらをじっと見ていた。あ、たぶん視線バレてた。無言で汗を拭きながら言った。
「もっとレアな鉱石と高品質の素材を持ってきたら……もしかしたら、好きに見てもいいかもよ」
……脳が処理できず、ただ「すみません」と呟くしかなかった。
スキルを起動して評価を見てみる。
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[月光の刃(ハサミの片方)]
レア度:SR+
説明:奇妙な発想と高純度のミスリルから鍛え上げられた武器。月光の下で鍛錬され、魔力の伝導性に優れる。非常に軽く、刃こぼれしにくい。変則的な戦闘スタイルに最適。
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「……なんて綺麗な武器なんだ」
思わず独り言を呟きながら、インベントリにしまった。
そこで終わるはずだった。
だが、次の瞬間、首元を思いっきり掴まれた。
「空間インベントリ!?空間スキルを持ってるの!? あんた、鉱山まで付き合いなさい! 代金? 私の身体でもいいわよ!」
「ちょ、ちょっと待っ……!?」
反論する前に、彼女は奥に戻って作業着を脱ぎ捨て、新しい衣装とミスリル製のピッケルを持って再登場。
そのまま手首をつかまれ、ぐいぐいと引きずられる僕。いや、痛い! これ骨、折れてないよね!?
イレーネは何が起きてるか分からないまま付いてきた。アルテミサは肩の上でくるくると周囲を観察していた。
「ちょ、待ってってば! どこ連れてくの!? ママァァァァァ!」
というわけで、僕は母親に手を引かれる子供のように、半泣きで道を引きずられていった。
……いや、こんなの夢に見た理想の手つなぎデートじゃない。完全に圧死の危機だよ。




