糸と魂から生まれしアルテミサ
数時間後、目を覚ました。
見慣れた宿屋の天井はそこにあったが、身体はまるで全身に鉛を仕込まれたように重かった。まるで精神をゆっくりと吸い取られたような感覚だった。
それでも、もう慣れた。
この世界に来てから、奇妙なことなど日常茶飯事だ。
頭の中に、あの機械的な声が再び響いた。
実績解除:「生命の創造者」
報酬獲得:パッシブスキル《糸の扱い Lv.1》+《謎のサイコロ》
☑ パッシブスキル《針の扱い Lv.3》を検出 — 統合中…
新パッシブスキル《裁縫の扱い Lv.1》取得!
一瞬、思考が止まった。
ふと横を見ると……アイリーンがいた。
彼女は楽しそうに、まるで人形のような何かと遊んでいた。
いや、人形じゃない。あれは自ら動いていた。
何度か目をこすったが、変わらない。
正真正銘、自律行動している。
評価スキルを発動すると、その存在の正体が明らかになった。
【守護の人形】
レア度:SSR+
▪ 愛と友情、守る想いから生まれた小さな存在。
▪ 人工コアにより半自律行動が可能。
▪ 会話・戦闘能力を持ち、属性石によって魔法を行使。
▪ 柔らかな質感を持ち、魔力を周囲から吸収して自己充填する。
「………………なんだこれ」
まるでフランケンシュタイン博士か、神に挑んだ錬金術師か、それとも狂った科学者か。
自分がどこに向かってるのか分からなくなった。
しかも素材はあのクモの糸だ。手触りが良いどころか加工も難しいはずだった。
けれど目の前のそれは、まるでプロの造形師が作った羊毛フェルトの騎士人形のように精巧だった。
「……まぁ。戦ってくれるならそれでいいか」
溜め息混じりに呟きながら、もう一つの異物に目を向けた。
手の上に現れたのは、形を変え続けるサイコロだった。最初は六面体だったはずが、七面、八面……ついには数え切れないほどの多面体に。
評価しようとしたその瞬間、警告が表示された。
評価失敗。
「何が出るか分かるなんて、つまらないでしょ〜? フフフッ
大好きなあなたへ、愛を込めて♡
― あなたの大好きな女神より」
「……なんなんだ、ほんとに」
苦笑しながら、その奇妙なサイコロをアイテム欄にしまう。
どうせ投げたら干からびたパンか歯ブラシでも出てくるだろう。
さて、視線を戻すと──
アイリーンは人形を抱きしめていた。
—「なあ、名前はもう決めたか?」
アイリーンは少し考え込んだ。頭の中で何かを懸命に絞っているような顔だった。
その姿に思わず笑って、彼女の頬を優しく撫でる。
「“アルテミサ”っていうのはどう?
別の世界で語られる、偉大な戦士の名前だ。女神の名でもある――」
最後の言葉は、誰にも聞こえないように呟いた。
意味を理解したかは分からないが、アイリーンの瞳がぱっと輝いた。
「アルテミサ! アルテミサ!」
何度も繰り返すその声に、少し心が温かくなる。
名前というのは、不思議な魔法のような力を持っているものだ。
名前が与えられた瞬間、存在に意味が宿る。
「それじゃあ、アルテミサ」
声に出して語りかける。自然と背筋が伸びるような気がした。
「アイリーンを守ってくれ。全力でな」
人形は、何かを理解したかのように小さな身体でピシッと立った。
そして──言葉はないが、その仕草は明確にこう伝えていた。
『了解、我が主』




