鋼鉄と愚かさの代償
昼食を終えたばかりだった。まだ舌の上に残るミノタウロスステーキのジューシーな味を思い出しながら、イレーネの夢見がちな笑顔が頭から離れなかった。とてもいい一日だった…だが、まだ果たすべき目的があった。
――まともな武器を手に入れること。
宿を出ると、イレーネを自然と腕に抱えていた。もう彼女も慣れてしまったのか、特に反応もせず、胸元に身を預けて目を閉じていた。
通りの喧騒は続いていたが、空気を満たしていたのは人々の声ではなく、金属と金属が打ち合う音だった。一定のリズムで響くその音は、まるで都市全体が鍛冶の鼓動で動いているかのようだった。
一歩ごとに鍛冶屋が現れた。看板には金床とハンマーが描かれており、隣には宝石が刻まれたものもあった。たぶん、これが鍛冶屋と工芸職人の違いなのだろう。
何気なく見渡しながら歩き続けると、エルフの血が騒ぐように――いや、ゲーマーの本能が騒ぐように、心臓が高鳴っていた。ここには、きっとダンジョンや未知の鉱山がある。
(……あぁ、興奮する)
――「んぅ~」
頬をぐいっと引っ張られた。イレーネだ。
「痛たたっ! ごめんごめん。ちゃんと現実に戻るよ」
交通は驚くほど整っていた。都市全体が効率的に動いているのが分かる。
ふと、ある光景に目を奪われた。
髭をたくわえ、筋骨隆々で顔に煤をつけたドワーフの男が――少女のような背丈のドワーフ女性から指示を受けていた。
彼女はレザーのエプロンを身に着け、片手に資材リスト。豊かな胸、しっかりした腰、ふくよかなヒップ――だが、それよりも鋭い視線と自信に満ちた態度が印象的だった。
男が不満げに唸ると、彼女は鋭い一瞥を投げて彼を黙らせ、仕事へ戻らせた。
(……怖っ。でも、なんかカッコいいな)
と、次の瞬間、調子に乗った冒険者が彼女に手を伸ばし、鉄拳制裁。男は吹っ飛び、樽に激突して沈黙した。
(…やっぱりね)
笑いを堪えながら歩いていると、今度は巨大な樽を抱えて酒を飲んでいるドワーフの男が目に入った。まるでお気に入りの水筒を抱く子どものように。
気がつけば、その鍛冶屋の中に足を踏み入れていた。
「おい、坊主。ここはガキが来るとこじゃねぇぞ」
酒樽片手に、男がハンマーを構えた。
「いや… この鉱石を見てほしくて」
トレンドバッグからミスリルの塊を取り出してカウンターに置いた。
――沈黙。
ハンマーが落とされ、ドワーフはまるで火に引き寄せられる蛾のように目を輝かせ、ミスリルを手にした。
「ぐぅぅっ!? なんだこれは!? どこで手に入れた!? これは普通じゃねぇ! 重さも、輝きも、噛みごたえも――完璧だ!」
光にかざし、舐め、かじり、匂いを嗅ぐ。完全に職人モード。
「こいつぁ……純度がやべぇ……坊主、何を作りたいんだ?」
「武器を…作ってほしい」
「剣か? 槍か? ハンマーか? オーラをまとった斧か!?」
「……大きなハサミを。片方だけでいいです」
再び、沈黙。
ドワーフの顔が段階的に変わっていく。困惑→怒り→諦め。
「……ハサミだとぉ!? お前、バカなのか!? クソッ、最近の若ぇ奴らはよぉ!」
そして叫んだ。
「おい、娘! 変な注文が来たぞ!!」
奥から現れたのは、小柄なドワーフ娘。オーバーオールにツールベルトをつけ、顔は煤で真っ黒。まるで戦場帰りの鍛冶屋。
「何だよ、親父」
「この若造がな、ミスリルでハサミ作れってよ。見てやれ」
彼女はこちらを一瞥し、無言で近寄り、いきなり手を掴んできた。
「……この手、冒険者のもんじゃないな。柔らかすぎる。お前、貴族か商人か?」
「褒め言葉として受け取るよ」
「……で、こんなアホな図面で作れってか?」
彼女は差し出されたメモを見て、頭を抱えた。
「これ…本気? …はぁ、やってやるよ。75銀貨。後で文句言うなよ」
「もちろん、払います」
支払いを済ませ、頭を下げて店を出た。
……くくくっ。ハサミ。ミスリル製の巨大なハサミ。誰がそんな注文するってんだ? 俺しかいないな。そう思うと、心が軽くなった。
イレーネは俺の腕の中で、ラウタンをしゃぶりながらうとうとしていた。
そのまま、街の中心にある広場へ向かった。職人たちの即興舞台が始まり、ハンマーの音に代わって笛や太鼓が響き始めた。
久しぶりに、ただ……楽しめる気がした。




