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外伝:その頃、ギルドでは

戦場に出られたらどんなによかったかと思うこともある。

だが――ギルドマスターとなった今、俺の戦場はこの机の上。

剣ではなく、ペンで戦う日々だ。


森の異変は単なる噂話では済まなかった。

冒険者たちの顔が変わり、報告が次々と寄せられる。

空気が重く、何かが歪んでいる。

瘴気が蓄積され、何者かが自然の法則を弄っているかのようだ。


数日前、グレーオークの目撃情報を上層部に報告していた。

その情報はすでに皇帝の耳にも届いたはずだ。


結果として、第二級貴族の推薦で、一人の隊長とその部隊が派遣された。

もちろん、それは政治的な駆け引きだ。

だが、我々にとっては有益な支援でもある。


俺はその出発の様子をギルドの上階から見ていた。

規律正しく、揃った足音。

そして――


あの奇妙な少年がいた。

細身で、大きな……針を武器にしている。

針だぞ? まるで冗談のような装備だ。


さらに彼の傍らには小さな少女。

髪の色も違う。血縁には見えない。

だが、あの二人の間には確かな絆があった。

それは一目でわかった。


だが――何より目を引いたのは、その少年の容姿。


手入れされていない髪は、顔を隠すように垂れ下がっていた。

だが、その色は……


深紅。


生きた血のように鮮やかで、それでいて暗い赤。

どこか高貴な血筋を思わせる色だった。


(……まさかな)


彼に与えられた役割は支援と死体の回収。

前衛での活躍は求められていなかった。


目立ったのは、歴戦の冒険者たち――

ロラン、戦斧の男、そして兵士たちだ。


……そう思っていた。


しかし、彼らが持ち帰った遺体を見たとき、俺は息を飲んだ。


変異体。

今までに見たことのない種族。

中にはミュータントのゴブリンロードまでいた。

瘴気に染まった異形だった。


「……冗談じゃないだろうな」


信じたくなかった。

だが、証拠はそこにあった。


そして、信じられない報告が入ってきた。


エステル――

あの少年は一度死んだ。

あるいは、そう見えた。


致命傷を負い、動かなくなった。

だが、彼は……立ち上がった。

何の助けもなく。


治癒魔法も、回復ポーションも使わず。


それだけではなかった。


彼は誰かと話しているようだった。

直後、ゴブリンロードの四肢が次々と分離された。


魔法ではなかった。

結界のようなものでもない。


切断面はあまりにも正確だった。

まるで見えない糸で縫い付けられ、切り取られたように。


俺は理解できなかった。


頭を抱え、眉間を押さえながら、報告書を書き続けた。


(……一体、何をした?)


そして、もう一つの違和感。


あの髪の色。

あの仕草、言葉遣い、立ち居振る舞い。


「エステル」――その名に聞き覚えはない。

姓もない。


だが、彼の所作は貴族の教育を受けた者のそれだった。


(……スパイか? 追放された貴族か?)


いや、それ以上に――

得体の知れない何かだ。


全てを記録として残した。

彼の能力、行動、そして不審な点を。


それが、

善かれ悪しかれ――


この情報が、

絶対に知られてはならない者たちの耳に届く未来を、

俺は知る由もなかった。


あの“聖剣”の持ち主。

あの少年を追放した貴族の家。

そして、皇帝までもが――



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