戦の咆哮(2)
部分的な勝利は長くは続かなかった。
多くのゴブリンとその亜種がすでに倒れていたが、戦場は依然として混沌と汗と血に染まっていた。負傷者たちは後退して包帯を巻き、矢を歯で引き抜いていた。ポーションは限られており、大半は基本的な応急処置でしのいでいた。
俺はかろうじて立っていられる状態だった。隣ではアイリーンが沈黙のまま、俺のジャケットを強く握りしめていた。脚の傷は焼けるように痛み、俺の針の半分は…まだ倒れたゴブリンの胸に突き刺さったままだった。
その時――感じた。
地面が揺れた。
大地を揺るがす轟音。そして骨の髄まで冷えるような咆哮。
ゴブリン・ロードが動き始めたのだ。
彼の剣は大人の体ほどもあり、錆びつき、黒い染みが浮かんでいた。それを振るたびに地面が悲鳴を上げた。剣が大地を叩きつけた瞬間、土埃が舞い上がり、振動が全身を貫いた。
「……来たぞ……」誰かが恐怖の声を漏らした。
まだ生き残っていたゴブリン変異体たち――ヒーラーと2体の魔術師。そのうちの一体は、片目に矢を受けて苦悶していた。それでももう一体は、黒いエネルギーのバリアを展開し、飛んでくる矢や石を難なく弾いていた。
ゴブリン・ロードが一歩、また一歩と迫ってくる。空気が重くなるのを感じた。
その時――
「どけえええぇぇぇ!」
聞き覚えのある声が響く。
ヒュンッ――空を切る音。二本の短剣が正確無比に飛んだ。
一本目はバリアに当たり、金属音を響かせた。二本目はそのバリアを突き破り、生き残っていた魔術師の頭に突き刺さった。
「カエル……」俺は思わず安堵の声を漏らした。
右側の前線から、希望のように光り輝く影が現れた。俺たちと共に旅立ったリーダー、ローランドだった。彼の盾はまるで太陽のように輝いていた。
「防御陣形!俺の指示に従え!」
その後ろにはリシアがいた。杖を掲げ、緑と金の光が波のように全体へと広がった。体が軽くなるのを感じた。息が整い、疲労が薄れ、痛みが遠のいた。
これは…バフだ。
カエルは動きを止めない。地面をほとんど踏むことなく、影のように動き、短剣は死神のように正確に敵を刈り取っていった。
反対側では騎士団の隊長がローランドの左側に並び立ち、太陽を浴びた剣を振り上げた。
「不浄なる獣よ、退け! さもなくば斬り伏せる!」
二人の剣とゴブリン・ロードの大剣が激しく衝突した。空気が震え、地面が揺れる。ロードは後退しなかったが、それでも押し込めなかった。
そして――現れた。
「ギャハハハハッ! これぞ戦だああああ!」
“混沌の斧”のリーダーが、まるで炎の中の悪魔のように突進した。彼の戦斧は一撃でゴブリン・ナイトを真っ二つにした。その狂ったような笑い声とは裏腹に、動きは鋭く、正確だった。彼の一撃一撃が死を運ぶ。
……俺は、ただ見ているだけだった。
何か…しなければ。
脚の痛みは火のように燃えていた。アイリーンは後ろで、まだ俺を信じて見つめていた。
「……行くぞ……」俺は呟きながら、脚を引きずった。
一歩ごとに痛みが襲った。意識が霞む。でも止まれない。
そのとき思い出した――俺のスキル。
頭の中でメニューを開いた。
《コスチュア(EX)》
【裁断】/【縫合】/【測定】
「縫合」を選択。
そして……自分の脚を選んだ。
エラー。2回目。10回目。
「条件不適合」「素材不足」「致命的エラー」――
でも、諦めなかった。
しつこく続けると、エラーメッセージが消えた。
その瞬間、感じた。
これは魔法じゃない。奇跡でもない。
これは――俺の意志だ。
微かな感覚が脚を伝う。傷が閉じていく。完璧じゃない。でも十分だった。傷口は目に見えない糸で“縫われて”いくようだった。
ふらつきながら、深く息を吸った。
武器は折れていた。体力も限界に近かった。
けれど――まだ、戦える。
「行こう、アイリーン。そばにいて、でも隠れて」
彼女は小さく頷いた。その瞳には、年齢を超えた決意が宿っていた。
そして俺は――
折れた針の半分を手に、戦場へと戻った。




