表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

42/89

血の始まり

空気が重く、濃かった。


天気のせいじゃない。緊張のせいだ。


イレーネは小さな手で僕の手をぎゅっと握っていた。その鼓動は早く、僕と同じだった。周囲の冒険者たちは、茂みに隠れるように進んでいく。すでに死を見たことのある者のように、静かに。ある者は、恐怖を忘れるために冗談を小声で囁いた。


(これが彼らの戦い方か…)


そして、それは起きた。


パキッ。


乾いた枝が折れた。


最悪のタイミングで、新米の一人が踏んだのだ。


その音は、神殿に響く銃声のようだった。


ゴブリンたちが積み重ねた粗末な監視塔から、鋭い叫び声が響いた。


「ギィィィィィ——!」


だが、その声は途中で止まった。冒険者の矢が飛び、ゴブリンの頭蓋を貫いたのだ。糸の切れた人形のように崩れ落ちた。


だが、遅すぎた。


もう、警戒はされていた。


「くそっ! 構えろ、この野郎ども!」


茂みが揺れた。


奴らが現れた。


ゴブリン。大量のゴブリン。


穴から這い出たネズミのように、石、骨のナイフ、棒切れ、そして割れた木の盾を手に、こちらに向かってきた。叫び声を上げながら、それは嘲笑か、あるいは僕たちをズタズタにしてやるという宣言か。


僕は両手で針を握りしめた。イレーネは僕の背後にいた。迷う余地はない。


(ここまで来た。今さら後悔なんてできない…)


前に一緒に旅をした仲間たちの姿はなかった。だが、他にもいた。


一際目立つ男がいた。


筋肉の塊。背が高く、頭は剃られ、大きな傷が顔を横切っている。獣のような男で、戦斧を杖のように振るっていた。


「ヒャハハハ! 混沌の斧団よ、見せてやれ! このクズどもに俺たちの力をよぉ!」


彼の周囲にいたのは似たような男たち。戦鎚、剣を手にし、魔法使いの気配はない。だが、圧倒的な暴力がそこにあった。


ゴブリンたちは一撃で裂かれ、盾ごと手が吹き飛ばされる。悲鳴。血の匂い。


だが、全員が愚かなわけではない。


何体かのゴブリンは、茂みをすり抜けてこちらに回り込もうとしていた。


一体が骨のナイフを持って僕に突進してきた。


「ギィィィッ!」


針の先端を喉元へ突き立てた。


(近づくな…)


もう一体が脇から飛びかかってきたが、肘で押し返し、目に一撃を加えた。


(イレーネ…)


振り返るわけにはいかなかった。ただ、彼女を守るために前だけを見る。


遠くでは、ゴブリンの監視塔から矢が飛んでいた。仲間をも巻き込む無差別攻撃。だが、僕たちにも被害は出た。腕、脚、背中に矢が刺さり、悲鳴が上がる。


わずかだが、反撃の矢も飛び始めた。弓と短剣を巧みに操る者たちが、茂みの中から応戦していた。


これは小競り合いだ。でも、僕たちにとっては戦争そのものだった。


最初の火花。


最初の警鐘。


死者はいなかった。だが、血は流れ、最後の悲鳴が消えるまで静寂は戻らなかった。


そしてようやく、僕は息を吐いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ