ゴブリンロードの咆哮
勝利だった。
俺たちはゴブリンたちに勝った。
簡単ではなかった。
奴らは手強かった。
それでも──奇跡的に死者は出なかった。
負傷者たちは後方に下がり、木に寄りかかって座っている。
矢を抜き、布で応急処置を施し、血を止める。
治癒ポーションを使う者もいたが、それは貴重品。
一滴たりとも無駄にしない。
俺はイレーネを抱き寄せ、辺りを警戒しながら前へ進む。
森は生きているはずなのに、今はまるで息をひそめているようだった。
――そして、足音。
金属が擦れる規則的な音。
何人かの冒険者が本能的に武器を抜いた。
だが、木々の間から現れたのは──
騎士たちだった。
その甲冑には傷が刻まれ、擦り切れていた。
だが、誰一人として倒れてはいない。
隊列の先頭には隊長がいた。
マントを翻し、口を開かずとも存在感は圧倒的だった。
彼は静かに命令を出し、兵士たちは一糸乱れず従う。
前衛、後衛、防御陣形の構築。
冒険者たちも再び隊列を整える。
剣士やタンクは前方に、
弓兵や魔術師は後衛に配置された。
そして──そのときだった。
地面が微かに揺れる。
空気が変わった。
重く、濁り、黒く。
俺たちの前に、岩に隠された裂け目が現れる。
それは明らかに洞窟の入口だった。
闇の中から──奴らは現れた。
まずは、変異したゴブリンたち。
骨や石の武器を持ち、ある者は素手で。
その瞳には、ただの飢えではない、憎悪が宿っていた。
「……ゴブリン・バーサーカーだ!」
誰かが呟いた。
異常な筋肉量、泡を吹く口。
奴らは既に戦いの渦中にあるかのように、地面を叩き、跳ね回った。
そして次に、重い金属音が響く。
ゴブリン・ナイト(変異種)。
4体。
彼らは冒険者から奪ったであろう鎧や武器を身に纏っていた。
歪だが、しっかりと装着している。
剣の錆びついた刃先には、いくつもの命が沈んだ痕がある。
──まだ終わらない。
次に現れたのは、奇妙な文様を顔に刻んだ2体。
歪んだ杖を握り、黒いマナをまとっていた。
ゴブリン・シャーマン(変異種)だ。
空気はさらに重くなり、何かが囁く声が聞こえたような錯覚。
そして……
現れた。
ゴブリン・ロード(変異種)。
その存在が現れた瞬間、
時が止まったようだった。
灰緑色の皮膚に、黒い血管が浮き出ている。
ひび割れた骨の仮面を顔にかぶり、
赤く染まった眼光が俺たちを睨みつける。
手にするは、深淵のように黒く染まった大剣。
その剣は振るわれていなかった。
ただ、引きずっていた。
だが、それだけで十分すぎた。
その隣には、奇妙な布をまとった
ゴブリン・ヒーラー(変異種)がいた。
人間の皮のようなローブ。
口からは呪詛のような詠唱が聞こえる。
緊張が走る。
誰もが息を呑み、武器を握り直す。
俺はイレーネを背中に隠し、
震える手で針を握りしめた。
(……壊れるなよ)
後方では魔術師たちが杖に魔力を込めている。
前衛は防御陣形を整える。
誰かが低く叫んだ。
「崩れるな……!」
「ラインを維持しろ……!」
それでも──俺たちは準備するしかなかった。
あれは、ただのモンスターじゃない。
それは「宣戦布告」だった。
そのゴブリン・ロードは、大剣を空へ掲げ──
咆哮した。
「GYAAAAAAAAAAAAAAA!!!」
その声は、魂を揺さぶった。
木々は揺れ、鳥は飛び立ち、
俺たちは──戦いの覚悟を決めた




