↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

38/89

刃と秩序の行進

イレーネを抱えながら、私たちの後ろで冒険者たちのざわめきが徐々に遠のいていった。彼女はまだ眠っており、胸元に顔を埋めて私の首に腕を回していた。その穏やかな呼吸は、まるでこの世界に危険など存在しないかのような錯覚を与えた。


「エステル」


背後から低く重い声が響いた。


振り返ると、ギルド長が立っていた。その堂々たる姿勢は変わらなかったが、その声には…切迫感がにじんでいた。


「今夜はここに泊まってくれ。頼みたいことがある…他の誰にも任せられん」


彼を疑うように見つめた。


「明日出発だ。我々は王国に報告するための証拠が必要だ…遺体、素材、何でもいい。これがただのゴブリンの集落ではないと示すためにな。お前の収納能力があれば、大きな助けになる」


断る理由もなかった。私はうなずき、その夜はギルドの部屋で眠ることにした。イレーネは私の上で眠りながら、まるで枕のように体を預けていた。


朝、目覚めたとき感じたのは、柔らかく、温かい感触だった。イレーネの寝癖のついた髪が顔にかかり、小さな頬が胸に押し当てられていた。その腕が私を抱きしめている。少しの間だけ、現実を忘れていた。


静かに身支度を整え、眠そうなイレーネを抱いて部屋を出ると、外はまるで戦場の準備のような雰囲気に包まれていた。


広場は満員だった。


冒険者たちは荷物を確認し、ベルトを締め直し、武器を研ぎ、仲間と冗談を交わしていた。しかし、彼らだけではなかった。


兵士たちもいた。


整然と並ぶ彼らの鎧は朝日を反射し、輝いていた。多くは若く、張り詰めた表情と鋭い眼差しを持っていた。そして中央に立つ一人の男。白と金のマントを翻すその姿は、まさに隊長と呼ぶにふさわしかった。


戦わずとも分かる――この男は強い。言葉少なくして人を従わせる「本物」だ。


そこには明確な違いがあった。冒険者たちは自由そのもの。感情に従って動く野性の魂。兵士たちは秩序だった規律と忠誠の象徴。


間もなく、ギルド長が現れ、数人の役員を伴って前に出た。その声は、雷鳴のように広場を包んだ。


「よく聞け」


一瞬で静寂が広がった。


「今回の件は、もはや単なるゴブリン掃討ではない。複数の報告により、異常な行動が確認されている。群れの行動、戦術、行動範囲の逸脱…」


ざわめきが広がる中、彼は続けた。


「ゴブリン・ロードの出現が…推測されている」


あくまで「推測」だ。だが、それでもその言葉の重みは凄まじかった。


「まだ確証はない。だが、もしそれが本当であれば、巣がある可能性がある。あるいは…もっと恐ろしいものが」


「今回の任務は偵察と封じ込めだ。無茶をするな。英雄ごっこで死んでも誰も賞賛はしない」


沈黙の中、彼の言葉は静かに広がった。


やがて、出発の合図が鳴らされる。


イレーネはすでに目を覚ましており、私の手をしっかり握っていた。私はその手を握り返し、ギルドで出会ったパーティーの後をついて行った。


ローランドは先頭を歩き、背中の盾と腰の剣が無言の威圧感を放っていた。カエルは草むらを軽やかに進み、リティアは小声で何かを呟きながら精霊たちと会話していた。


しばらくは静かだった。森が深くなり、陽光がほとんど届かなくなるにつれて、足音も慎重になっていく。


突然、カエルが片手を上げ、耳をぴくりと動かした。


「ふふん~、お客さんだ」


ゴブリンの斥候部隊だった。


四体、いや五体か。そのうち一体は角うさぎを肩に担いでいた。原始的な石の槍、骨の剣、粗末な斧を手にしていたが、ただの雑魚ではなかった。


一体だけ、明らかに異質な存在――ゴブリンアーチャー(変異体)。


骨の弓を持ち、より暗い肌と深い眼光。まるで狙撃手のような姿勢。


兵士たちは即座に右へ展開し、音を立てずに包囲を始める。一方で、冒険者たちは木陰へと消え去り、獲物を狙う獣のように動いた。


私は立ち止まった。


左には秩序。正確な戦術と模範的な動き。


右には自由。本能のままに戦う熟練の戦士たち。


(どちらの道が、俺に必要な「力」を教えてくれるだろう?)


呼吸を整え、背中の針に手を伸ばす。そして決めた。


どちらへ進むか――俺の道を。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。