外伝:その頃、ギルドでは
冒険者ギルド側
書類の山は日に日に積み上がっていく。
退屈だが、文句は言えない。
かつて、自由に世界を旅していた頃が懐かしい。
毎日が冒険で、刺激に満ちていた――
あの致命傷を負うまでは。
あの任務は、強敵との戦いだった。
今思えば、生きて帰れたのが奇跡だ。
残されたのは、思い出と…
飾られた二振りの剣。
そして、あの赤く燃えるような鱗――
かつて火竜と戦った時に剥がれたものだ。
「はぁ……」
ため息が漏れる。
そんな時、受付嬢の一人が報告書を手にやってきた。
内容は――新人冒険者が“グレイ・オーク”を討伐したというもの。
…信じられなかった。
ギルドに登録して間もない者が、変異体を倒すなんて。
普通のオークとは違い、変異体は格段に強い。
中級冒険者でも全滅することがある相手だ。
しかも、そのグレイ・オークが倒された場所は――
スライムやゴブリンしか出ないとされる浅い森。
(……何かの予兆か?)
その遺体を確認したとき、さらに驚いた。
切り傷ではなく、穴のように貫通していた傷。
それに、何かと戦った痕跡すらあまり残っていない。
一体、どんな戦いだったのか?
だが一番不可解だったのは――
その“少年”の存在だった。
戦士でもなく、魔法使いでもない。
力を感じない、だが…育ちの良さを感じさせる所作。
茶を飲む姿、言葉遣い。
あれは…貴族階級に近い人間の所作だ。
さらに奇妙な報告もあった。
彼は“収納魔法”のようなスキルを使った、と。
“空間魔法”を扱える者は極めて稀だ。
それが本当なら――
(この少年、一体何者なんだ…?)
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商人ギルド側
私はこの支部の支部長。
…だが、時折カウンターに立つのが趣味だ。
なぜって?
そこに面白い“原石”が転がってくるからよ。
貴族、冒険者、異種族、貧乏人から貴族まで――
私は数えきれないほどの人物と交渉してきた。
大切な家宝を売りにくる者。
偽物を押しつけようとする者。
はたまた、呪われた品を持ち込む馬鹿もいた。
歳を取るごとに体は衰えるけれど、経験は武器になる。
“鑑定”のスキルがなくても、触ればわかる。
「さて、今日はどんな面白い話が聞けるかしら?」
そうしていたある日、
二人の汚れた子供のような者が現れた。
少年と少女――まるで奴隷のような身なり。
しかし、私は見逃さなかった。
少女の着ていた服。まるで葉で編まれたような不思議な服だった。
…いや、見間違いではない。
その衣服には微かだが、魔力の流れがあった。
私は彼らから数点のアクセサリーと衣服を受け取った。
初めはただの布に見えた。
だが、触って確信した。
(これは、ただの布じゃない)
評価用の魔道具――モノクルを使ってみると、
その効果がはっきりと表示された。
防御を補助する装備、運を高めるもの、衝撃を肩代わりする装飾品。
どれも低級とは思えぬ効果を持っていた。
(彼…まさか、魔法職か? 錬金術師?)
いや、その素振りはまったくない。
見た目は無知で素朴。育ちも良さそうだが、知識が足りない。
(まさか、無自覚のまま創っている…?)
そう思った瞬間、私は行動を決めていた。
「ふふっ…面白い」
密かにギルドの部下に指示を出す。
「“エステル”――この子の情報を調べなさい。衣服も。スキルも。」
(これは…金の卵。放っておけない)
「私の勘が言っている。
この子は――この世界を揺るがす存在になる」




