えっ?普通じゃないの?
朝の日差しが建物の隙間から差し込んでいた。
モンスターの死体はすべて回収した。
レベルも上がった。
身体も少し軽くなった気がする。
でも、それよりも今大事なことは……
「報酬だ。金だ! そして、飯だ!」
隣を歩いていたイレーネが、俺の袖を掴んでついてくる。
何のことかは分かってないようだが、笑顔を浮かべている。
中環の賑わう通りを抜けて、冒険者ギルドの建物へと到着した。
中には冒険者たちが集まり、飲んだり、任務の話をしたりしていた。
一息ついて、俺はカウンターに向かう。
受付にいたのは、いつもの無表情な女性スタッフ。
髪をきっちりまとめ、整った制服を着ている。
俺とイレーネを見ると、眉をひそめた。
「……また君?」
「すみません。遅くなりました。ちょっといろいろありまして。
でも、ゴブリン討伐の任務の報告に来ました」
俺は任務板からもらった木札を差し出す。
「……Fランクの任務、ですね。提出期限は2日前ですが……証拠さえあれば受け取れます。
では、死体を見せてください」
「あ、その前に一つ聞きたいことが。
……オークの死体も買い取ってくれるんですか?」
受付嬢は一瞬、きょとんとした顔になった。
「ええ。オークの種類によりますが、状態が良ければ買い取りますよ。
ですが、まずはゴブリンの討伐証明を見せてください」
俺は小さく呟いた。
「編み込みインベントリ」
目の前に半透明のウィンドウが浮かび上がる。
俺は空中に手を差し伸べて、イメージを送った。
ポフッ。
血の滴らないゴブリンの死体がカウンターの上に現れる。
次にもう一体。さらにもう一体。
全部で4体のゴブリンを取り出した。
周囲の空気が、ピタリと止まる。
飲んでいた冒険者たちも、ジョッキを中断してこちらを見た。
「今の……インベントリか?」
「あのガキ、もしかして空間魔法系のスキルを持ってるのか?」
「おい、パーティーに誘ってみるか?」
囁き声が広がる。
好奇心、驚き、そして一部には警戒の目。
受付嬢も沈黙していた。
俺のボロボロな服、背中の巨大な針。
そして、隣に立つ小さな女の子。
(登録時には、戦闘に向かない“裁縫”なんてスキルしかなかったはず……
いつの間に、こんな能力を……?)
彼女は黙って何かを書き留めた。
俺は、何事もなかったかのように微笑む。
「……で、これも」
そう言って、空中からもう一度手を伸ばした。
今度は、重い音を立てて地面に現れた。
——灰色の巨大な死体。
オークだった。
だが、ただのオークではない。
「灰……? あれ、グレイ・オークじゃないか?」
「嘘だろ……こんなところで?」
「Cランクの変異種……!」
ざわつきが一気に爆発する。
「そ、そんな……この地域には出現報告なんてなかったはず……」
受付嬢が立ち上がる。
俺は頭を掻きながら、言った。
「えーっと……これ、いくらで売れますか?
たまたま洞窟にいたんですけど……」
もちろん、それだけじゃない。
でも、本当のことを話しても、面倒になるだけだ。
俺はただ……
温かい食事とベッドが欲しかった。
だが——
一度始まった嵐は、もう止められない




