生き残りを賭けた戦い!(1)
Orz
背中の針は軽い。
だが、その重さは……命の責任だった。
剣ではない。斬れもしない。けれど――刺せる。
刺せるなら、守れる。
「よし……やり残した仕事を終わらせよう」
俺の懐には、あと銅貨が一枚だけ残っていた。
あのゴブリン討伐の依頼――成功すれば、少しでも稼げるかもしれない。
せめてイレーネのために、服か、もう少しまともな食事を。
「布も糸もない。でも、素材さえあれば……何か作れるかもしれない」
ふぅ、と息を吐くと、イレーネが横目で俺を見た。
その髪をくしゃりと撫でてやる。まだ汚れていたが、暖かさは本物だった。
「行こう」
森へ戻るのは、まるで棲家に帰るような気分だった。
ただし、いつ誰かに火を放たれるかわからない場所へ、だ。
ここ、リリアの森は不気味なほど静かだった。
風が木々を揺らしても、鳥の声ひとつ聞こえない。
俺たちは物音を立てぬよう、慎重に歩く。
以前作った葉の家は、まだそこにあった。
壊されず、燃やされもせず……静かに息づいていた。
(……思った以上に使えるな)
しゃがんでイレーネに話しかけた。
「そこの平たい石、拾えるだけ拾って」
「……なんで?」
「もし何かあったら、それを投げるんだ」
「敵に?」
「いや、別の方向へ。音で注意を引くために」
「ああ……」
イレーネは小さな手で、石を三つ選んで袋にしまった。
さらに進んでいくと――聞こえた。
声というより、下卑た甲高い鳴き声。
枝の陰から覗くと、十五メートルほど先の開けた場所に……ゴブリンが四匹いた。
予想より……多い。
そのうち一匹は、一本角のウサギを縄で縛って持っていた。
もう一匹は、骨を削ったような手槍を持ち、残りはけたたましく笑っていた。
(……あれは捧げ物か? それとも食料?)
しばらく様子を見ていると、
三匹が細い洞窟のような入口へと消えていった。
そして――ひとり残る。
見張りか。もしくは……囮か。
(一体だけなら、やれる)
俺はイレーネの方を向いた。
「ゲームみたいにやろう。あいつの向こうに石を投げて」
「……ここ?」
「そう。俺が動く合図になる」
彼女は真剣な表情で小さく頷いた。
手がわずかに震えている。
「石を投げたら、この木の後ろに隠れてろ。絶対に出るなよ」
「……うん」
小さな手で石を持ち、軽く振りかぶる。
ヒュッ――
コツン、カララッ。
音は森に響いた。
ゴブリンは「グルルッ」と唸り、音の方へと警戒しながら歩き出す。
見張りから数歩、洞窟から離れたその瞬間――
俺は、立ち上がった。




