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未来へ向かって

何時かは分からなかったけど、木の隙間から朝の光が静かに差し込んでいた。

風が柔らかく吹き込み、葉の屋根がさわさわと揺れる。


土と木の上で寝たはずなのに…

まるで柔らかいベッドに横たわっていたかのような感覚だった。


あの夜、自分の手で作った家は、まるで生きているかのように温もりをくれた。


そして、すぐ隣には――彼女がいた。


イレーネ。


静かで穏やかな寝息。

何もかもから解放されたかのように、安らかな表情を浮かべていた。


その瞬間だけは、すべてを忘れられた。


追放されたことも、孤独だったことも――

何もかもが、遠い昔のことのように感じた。


そんな時だった。

頭の中に、例の機械的な声が響く。


【実績解除:「シェルタークラフト」】

ユニークスキルを使用して住居を作成しました。

報酬:ユニークスキル【裁縫式インベントリ(UR)】獲得!


—インベントリ…?


そう呟いた瞬間だった。


目の前に透明なウィンドウが表示された。

そこには、魔術と工芸を合わせたような裁縫箱のアイコンが浮かんでいた。


その箱の画像をタッチすると、新しいウィンドウが開いた。

複数のスロットで構成された収納画面が広がる。


ウィンドウの下には、いくつかのメッセージが表示されていた。


どんな物でも収納可能。


収納された物は時間経過の影響を受けません。


名前順やレア度順に整理可能。


生物の収納には制限あり(感情的な絆または契約が必要)。


「まさか…こんなものが…」


俺は足元に転がっていた小さな石を拾い、試しにウィンドウの裁縫箱に近づけてみた。

すると、何の音もせず――石が手の中から消えた。


すぐにインベントリ画面を確認すると、そこに…石があった。

スロットのひとつに、ちゃんと収まっている。


—これ、本物…!


笑みがこぼれた。


これは、ただのスキルじゃない。

生き抜くための道具だ。


「もう、空間も時間も怖くない――!」


俺は跳ねるようにして外へ出た。


「イレーネ、起きて! 食べ物を集めに行くぞ!」


彼女は眠そうな目をこすりながら起きた。

でも、俺の笑顔につられて、自然と表情が柔らかくなった。


「これでもう、腐る心配はない。何でも保存できる!」


そうして、森の中へ二人で出かけた。


採取したのは、酸味のある野生果実、赤みがかった太い根っこ、硬いナッツ、そしてほんのり甘い香りのするバブルミントの葉。

さらに、日光に反応して淡く光る花まで見つけた。


イレーネにも役割を持たせたくて、俺は彼女のために葉と枝で作った小さなバックパックを縫い上げた。

それを背負って、彼女は満足そうに歩きながら、自分で選んだ果物やナッツを詰め込んでいった。


その間、俺はインベントリにどんどん物を収納していった。


太い枝


小石


果実と根菜


ハーブ類


バブルミントの葉


散らばった種子


木の皮


すべてがスロットに整然と収まり、自由に並び替えることもできた。


“準備している”という実感が、ようやく湧いてきた。


…と、その時だった。


バキッ、と枝を踏みしめる音が聞こえた。


俺はすぐに足を止めた。


遠くの木々の間から、数人の影が見える。


――冒険者のパーティだ。


前衛のタンクは革のリベットアーマーを着て、大きな盾を背負っている。

横には、軽装の剣士。

その後ろには、長い耳のダガー使い――多分、亜人族のローグ。

そして、最後に小柄なアーチャー。背中の矢筒から矢が覗いていた。


彼らの中心にあるのは、数体のツノウサギの死体。

額に一本角を持つ、猫ほどの大きさの魔獣だ。

何体かは矢が刺さったまま、血に濡れていた。


俺とイレーネは咄嗟に茂みに隠れた。


彼らを観察する。


—(バランスは悪くない。初心者にしてはまともな編成か。

タンクは場慣れしているが……装備は明らかに中古品だな。)


俺はふと、自分の手にあるものに目を落とす。


ミスリルの欠片。

陽の光を受けて、淡く青白く輝いていた。


—(もしかして…あいつらなら、これを扱えるかも…)


そう思いながら、何も言わずにじっと見つめていた。


イレーネがそっと俺の隣に座る。

言葉はない。ただ、視線だけが交差した。


俺は彼女の頭に手を置き、優しく撫でた。

彼女は俺の腕に寄りかかり、目を閉じる。


この異世界に来てから、初めてのことだった。


――孤独じゃないと、心から思えたのは。


「…ありがとう、イレーネ。俺の小さな天使。」

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