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異世界徒然行脚 『Isekai Walking~nothing else to do~』  作者: 雨男
ネクロマンサーと城塞都市カーレ 6
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小さな幽霊屋敷 5


 『魂の残滓』の危険性を知った幸太郎。



ただ、貴重な情報だったとは思っている。



やはり幽霊屋敷などは



安易に近寄らないほうがいいのだ。





(・・・アステラ様の御用『成仏行脚』ってのは、


大切なことなんだな・・・。


幽霊屋敷を見つけたら、自分から率先して


除霊するようにしよう。俺がもらった能力は


そのためのものなんだから・・・)





そう考えた幸太郎は、改めて2階への階段を見る。



相変わらずチラチラと綿埃みたいなものが



降ってきている。





「トドメを刺してやるよ、クリストフ。


大サービスだ。


お前の魂が崩れ切る前に霊界へ送ってやろう。


もしかしたら人間としてやり直せるかも


しれないぞ?」





幸太郎は階段の『魂の残滓』を除霊しながら



2階へと進んだ。








倉庫の2階はクリストフのアトリエの中心部。



クリストフはここで絵を描いていたようだ。



そして、ベッドが1つある。



寝室でもあり・・・メッサリーナとの情事も



ここで行われていたらしい。



もっともクリストフはメッサリーナを



利用していただけで、



『情』など一切なかった。



『愛していた』のはメッサリーナだけで、



クリストフは『大年増の色ボケばあさん』としか



思っていなかった。クリストフは



『若くなければ女じゃない』という考えだ。





完成した絵が、部屋中にある。



飾ってあるもの、壁に立てかけられてるもの、



パッと見ただけでもキャンバス30枚以上は



あるだろう。





水彩ではなく、油絵だったようで、溶剤の香りが



まだ色濃く残っていた。



幸太郎は、なんとなく



高校の美術室を思いだす。



部屋の中はキャンバスや



絵の具、筆がたくさんある。



でも、もう、誰も使うことはない。



この世界では、絵の具は高価だが・・・



こうなってしまっては



ゴミになるだけだ。





入口から正面の壁側、その部屋の角あたりに、



『描きかけ』の絵が



イーゼルに乗ったまま放置されていた。



もう続きを描き加える者はいない。



永遠に未完成で終わる絵だ。





『永遠に未完成』・・・クリストフはもう死んでいる。



そして、その絵のそばに立っている



クリストフの幽霊は・・・両手が無かった。



グリーン辺境伯が報復として



両手を切り落とさせたのだ。



クリストフがエメラルド嬢にしたことを考えれば、



生ぬるいと言える。



グリーン辺境伯は



拷問などが好きではないのだろう。





クリストフの幽霊は足が溶けて崩れ去り、



両腕もひじの辺りまで溶けて崩れかかっている。



粘液のような糸、綿埃みたいな魂の残滓は



ここから発生しているようだ。



傾向を見ると、額から遠い順番に



崩れていくらしい。どうやら



『幽霊に足が無い』のは、



これに端を発しているのだろう。





「やあ、クリストフ。『下手の横好き』な


創作活動も今日で終わりだよ。


トドメを刺してやるから、


さっさとあの世に行け。


メッサリーナ様がお待ちのはずだ。


たっぷり愛を確かめ合うんだな」





幸太郎が冷たく言い放つ。同情はカケラもない。





「オ・・・マ・エノ・・・セ、イ、デ・・・」





クリストフはさっきから、



そればかりを繰り返している。



有名な画家になって、大勢の人々から賞賛を



受けるはずの人生を夢見てきた男は、



幽霊になっても『誰かのせい』が直らないようだ。





自分の絵が大したことないのも他人のせい。



絵が世間に認められないのも他人のせい。



自分が有名になれないのも他人のせい。



貧乏なのも他人のせい。



エメラルド嬢を呪い殺そうとしたのも他人のせい。



失敗したのも他人のせい。



処刑されたのも他人のせい。



世界が自分の思い通りにならないのも他人のせい。



あれも他人のせい。これも他人のせい。





そして、今、ここに幽霊となって



無様な恥を晒している。



まだ恥がかきたりないらしい。



いや、このままなら間もなく『恥』という概念が



理解できなくなる。





「その描きかけの絵に未練があるのか。


・・・それ、お前自身の肖像画か?


まあ、確かにお前は美男子だったから、


モデルにはいいんだろうけど・・・。


なにそのキラキラの絵は?


美化しすぎだろ。


そんな、しょーもない絵に


未練があって迷い出てきたってのか?」





もちろんクリストフの答えは



『お前のせいで』だけだ。もう正気は失っている。





「もしかして、お前が急に迷って出現したのってさ、


俺が孤児院でイベントをやって、人が大勢来たから、


『俺の絵も拍手して褒めてほしかった』ってことか?


そして、その描きかけの自画像も完成させて


『かっこいいー』って言ってほしかったわけか?」





「あ”・・・あ”あ”・・・う”う”・・・。


オ、マ、エ、ノ、セ、イ、デ・・・」





初めてクリストフの幽霊が



今までと違う反応を見せた。



どうやら、本当に正解だったらしい。





「そうか・・・お前は、そんなにも、


その描きかけの絵に未練があったのか・・・」





幸太郎はため息をついた。そして、部屋の中を



『成仏』で除霊し始めた。



クリストフは粘液のような糸を震わせ、



様々なものを倒したり、飛ばしたり、



音を出したりした。



だが、幸太郎の前では無駄な抵抗。



粘液のような糸も、綿埃みたいな魂の残滓も、



全部、光の粉となって消えていった。





そして最後に部屋の隅で『あーうー』叫んでる



クリストフの幽霊を『じゃあな』と言って



光の粉に変えた。





これで小さな幽霊屋敷の除霊は完了。



急に空気が清浄になったような気がする。



もう魂の残滓はどこにもない。



クリストフは完全にこの世から消えた。





幸太郎は窓を開けて、門の前に待機している



モコとエンリイに手を振った。





「終わったよ。今、降りる」








幸太郎は、絵の具や筆はそのままにして、



全ての絵を『マジックボックス』に吸い込んだ。



そして『描きかけの絵』を



小脇に抱えて門へむかう。





「ご無事ですか、ご主人様」





「大丈夫? なんか、かなり騒がしかったけど・・・」





「ああ、心配いらないよ。


何があったのかの説明は後だ。


これが、この絵が


クリストフの未練の原因だった」





そう言って、幸太郎は『描きかけの絵』を



モコとエンリイに見せた。





「これを・・・完成させたいという未練が、


クリストフを動かしていたのですね・・・?」





「自画像・・・? なんかやたらキラキラしてるけど、


まあ、本人には大事な絵だったみたいだね」





「ああ、クリストフはこの絵の横に立って、


この絵を守ろうとしていたみたいだった・・・。


あいつにも守りたいもの、


大事なものがあったんだな」





幸太郎は優しい目で、この絵をじっと見つめた。



そして・・・








容赦なく絵を全部燃やした。








「まったく迷惑なやつだ。


なにを、いっちょまえに『未練』とか


人並みなことをいってるんだ。


そーゆーのは、まじめに生きてきた人が


思うことで、


自分のしょーもない欲望のために


エメラルド様を苦しい目にあわせて、


呪い殺そうとしたヤツには


1000年早いっつーの。


最後の最後まで自己中心的な


つまらん男だったな・・・」





幸太郎はクリストフに同情するような男ではない。



中身はおっさんでサイコ野郎なのだ。








幸太郎が商人ギルドと



冒険者ギルドへの報告のために



絵を燃やしていると、1人のおっさんが



汗をかきながら走ってきた。





「き、きみぃ! ここの、幽霊は、私が成仏させるんだ!


何を勝手なことをしてるんだね!!」





この男はオーガス教の司祭だ。



名前は・・・憶えていない。



幸太郎は元々人の名前を憶えるのが苦手なのだ。



前世の頃から



『相手は自分をよく憶えているのに、



自分は相手の顔も名前も思い出せない』



なんてことは多かった。





特にこの司祭は孤児院建て直しのために、



何度か顔を合わせて会話もしているが、



『毒にも薬にもならない』



『箸にも棒にも掛からない』



そんな印象のため、名前が全然でてこない。





しかし、そこは営業スキルで誤魔化すのが幸太郎。





「これは、司祭様、お疲れ様です。


教会の建て直しは順調ですか?」





「ああ、おかげで立派な教会に


生まれ変わりそう・・・。


いや、そうじゃなくて、この幽霊屋敷は


私が除霊しなくてはならないのだよ!


やりかけで、まだ途中なのだ。


今、除霊のために色々準備していたところ


だったんだよ。


・・・何? 商人ギルドから依頼が?


イーナバース自由国連合で、そんな前例が・・・」





幸太郎は、司祭の事情が透けて見えた。



現在『ナイトメアハンター』が立て続けに



手柄を立てているため、



オーガス教の枢機卿たちから



『目に見える結果を出せ』と指示が出ている。



どうやら、この司祭は



『幽霊屋敷を除霊しました!』という



功績を上に報告したいのだ。





(ああ・・・それで必死なんだな・・・)





幸太郎は手柄を分けてやることにした。



別に報酬の『銀貨5枚』など気にならない。



幸太郎は一生かかっても



使いきれない金を持っている。



そして、この世に留まり迷っている亡者を



『成仏』させるのは、



アステラからの『御用』であり、



自分の本業だ。



手柄だの、世間の名声だの、



そんなものは果てしなく『どうでもいい』。



アルカ大森林でモコとエンリイを



置いて行こうとしたように、



幸太郎は必要だと思えば、



自ら孤独を選んでしまう男なのだ。





「では、司祭様、お力を貸してください。


今、クリストフの未練を燃やしていますから、


この炎に『お経』を唱えて


除霊の力を授けてください」





もう絵は半分以上灰になっている。



幽霊屋敷の除霊に関与するなら、



もうここしかない。





「うむ、よかろう、任せておきたまえ!


我が法力でクリストフの未練を祓ってくれよう」





渡りに船とばかりに、名前を憶えていない司祭は



経文を唱えだした。



アドニス語ではない、何か古い言葉のようだ。



モコとエンリイには意味がわからなかったが、



『翻訳こんにゃく』を食べた幸太郎には



意味がわかった。





『むかし~むかし~い、あるところ~に


おじいさんと、おばあさんが~。


そこへ大神オーガスが光とともに~~~いぃ・・・』





(なんじゃこれ? こんなんで人が成仏するわけ


ないじゃんか・・・。これなら


『まんが日本昔話』のほうが100倍効くぞ)





が、口にも顔にも出さない幸太郎。営業のスキルだ。








絵がほぼ灰になると、



幸太郎は倉庫の方を見てうなずき、



司祭に微笑んだ。





「どうやら効果てきめんだったようですね。


すっかり静かになりましたよ。


さすが司祭様です。商人ギルドにも、


司祭様のお力があったと報告しておきましょう」





「おお、そうか、そうか、そうだろうとも!


我が法力に恐れをなしたか!


いや、全ては大神オーガスのお導きによるもの。


あー、うん、その、商人ギルドへの報告は


しっかり頼むよ?」





「承知いたしました。私だけでは無理だったと、


伝えておきますよ」





幸太郎は『飲料水』で火を消すと、司祭に挨拶して



商人ギルドへ報告に向かった。



幸太郎は最後まで司祭の名前を思い出せなかったが、



しれっとのりきった。








これで『小さな幽霊屋敷』の依頼は終わった。



幸太郎は非常に貴重な情報を得ることができたと、



内心喜んでいる。



本当に貴重な、そして恐ろしい情報だった。






えー、しばらく休載します。

年度末で仕事が忙しく、なかなか話の続きを書いてる時間がとれません。


現在『坑道の魔物 9』を書いてますが、説明不足、誤字脱字があまりにもひどい!

話数も123話先行まで落ちてますので、140話先行くらいまで戻したいです。


毎回読んでくださる方々には、大変申し訳ありません。

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― 新着の感想 ―
休載ですね、お仕事大変ですが体調に気を付けてください。 さてさてまさかここでクリストフが出てくるとは・・・ ロストラエルやネグリスナガンといい分岐点以降は怒涛の勢いですね 休載といえばハンターハンター…
本業の仕事優先なのは当然だと思うので、ひと段落つき更新されるのをのんびり楽しみ待たせて頂きます
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