文化祭どころじゃない 10
私の顔を覗き込むタダ。「それで?」
「なに?」
「ラインとしてんのかってオオガキと」
「してないって言ったじゃん。ていうかさ…」
「なに?」と今度はタダが聞く。
「ていうかあんただってハタナカさんとかとしてるでしょ?」
「ハタナカと?…あ~~、でも別にこっちからは送った事ないけど」
「でも返信してんでしょ?」
「どうしてもしなきゃいけない時はな」
なんだその言い方は。
イラっとしたのでまだ続けてしまう私だ。「他の女子とだってしてるでしょ?」
…ってなんでこんな突っ込みしちゃうんだろ…
あ、見るなタダ。じっと私を見るな!
そしてなんでちょっと笑ってんの!?
「必要だったら普通に返すけど、」とタダが答える。「女子って普通に返してそれで終わりなはずなのにまたすぐ送ってくんじゃん。いつまでもくだらねえ話、無意味に続けようとすんじゃん。ひどいやつになったら用事もないのに電話かけて来たりすんじゃん」
「それは!タダと話したいんだよ。くだらないやり取りをだらだら続けたいの!それが嬉しいの!」
「大島も…そういう事したいと思ったりすんの?例えばヒロトとか」
「ヒロちゃんも続けてくんないでしょ。スタンプばっかだよ。変なスタンプばっか。それにヒロちゃんとだってそこまでラインしてなかったし。私だって話そんなに続かないし。…だから私友達少ないんだと思う。ユマちゃんとかだったらさ…」
「まあいいや。とりあえず回るのか回らないかだけど」
文化祭の話に戻った!!
『まあいいや』ってなんだそれは!
「嫌なん?」とタダが聞く。
「タダと二人でって事?」
「二人でって事」
わ~~…何きっぱり答えてんのこの人。
嫌じゃないよ。嫌じゃないけど結構困る。
「やっぱすごく見られると思う。まあ見られるのはタダなんだけどさ、私も一緒にいるな~~って、なんで一緒にいるんだろう、って見られるのはちょっと」
ヒロちゃんのとこの文化祭でタダと歩いた時だって結構見られた。それがうちの学校だったらどれだけ見られるんだって話だよね。
「見られるのが嫌って事な?」とタダが聞く。
「うん。まあ」
「ハタナカとかとのラインの話だけど」
「うん」
うん、て言ったのにその後を言わない。
ていうか誕生日の事決めなきゃ!もう家に帰り着いちゃうよ。だからユマちゃんに相談した後やっぱり自分で考えた案を言ってみる。
「あのね、タダが嫌じゃなかったらマフラーか手袋あげようかと思ったんだけど、これから寒くなるから使うかなって思って。他に良さげなもの思い浮かばなかったし。でも中学の時も女子がタダの誕生日にあげたいとか結構そういうの話してんの聞いたんだよね。でもタダもそういうのもらうの困るような感じだったの知ってるし、だからどうかなって考え直した。やっぱ身に着けるものってビミョーだよね」
「ビミョーじゃねえよ」と少し食い気味な感じで否定するタダ。「考え直すのかよ」
「え、でも趣味とかあるじゃん。だからそういうの言ってくれたら。それか別のちゃんと欲しいもの」
「くれるの?マフラーとか」
「季節的にっていうか。マフラーでいいの?」
「あ~~~…」とタダが唸る。
やっぱり嫌か?マフラーとかもらうのって重いとかって聞くもんねえ…でもそれって自分で編んだやつとかの話だよね。けど気に入ったやつじゃないとしたくないだろうし…
「マフラー欲しいわ」とタダが言う。
「欲しいの!?」大きな声で聞き返してしまった。
「いやそんな驚いたみたいな聞き返し。大島が自分からくれるつったじゃん」
「言ったけど…」
あれ?もしかして中学の時もそういうの受け取ったりした事もあったのかな…
「あ~~~…でもな…」とまた唸るタダ。
なに?なにを悩む。私の選ぶ色とかが不安か?一応タダに似合うようにキャメルっぽい色にしようと思って、タダさえそれでいいって言ってくれたら、この後買いに行く気なんだけど。
タダが言った。「明日の事なんだけど」
また文化祭に話戻った!!
「あのね…」迷ったが私は言っておく事にした。「私はそっと暮らしたいんだよね。だってあんたが目立つから。あんたを好きな女子たちに別に好かれないくていいんだけど嫌われたくはないんだよ。女子は大変なの!」
「でも今日も一緒に帰ってんじゃん」
「…そうだけど」そうだよね。「でも!文化祭は特別だと思う。しかもあんた誕生日だし。…ハタナカさんも誕生日プレゼントあげたいって言ってたよ」
「へ~~~」
なに『へ~~~』って。
『もらうつもりないけど』とか言わないんだ?
「あさってヒロちゃんたち来るじゃん」と私は言う。「その時に、ユキちゃんも一緒に4人で回ればいいんじゃないかな。ねえ、それでマフラーの柄なんだけど…」
「あ~~~…どうすっかな…」
タダが眉間にしわを寄せているので言った。「じゃあさ、1週間待ってくんない?タダが欲しいっていう感じに近いやつ探すから」
「マフラーもなぁ、捨てがたいよな。でもやっぱ、明日一緒に回るのを誕生日プレゼントって事で」
「は?」
「文化祭一緒に回んのが大島からの誕生日プレゼントって事でいい。最低でも30分な」
「…ねえそれ本気で言ってんの?」まじまじと聞いてしまう。「あのさ…なんかこんな事言うのもアレなんだけど…あんたはその…」
本気で言いにくいがタダが「なに?」と続きを催促する。
「あんたは私と二人で回って、私と付き合ってるって思われても嫌じゃないの?」
「は?逆になんでオレがそれを嫌だと思う」
「…だって…」
「だって?」
「いや…なんでもないけど…」
「なんだそりゃ」
嫌なんじゃないの?
「それで」とタダが言う。「もらえるわけ?もらえないわけ?」
「なにが?」
「誕生日の!明日一緒に回れるのかって。何すっとぼけてんだよ」
「…」
頑張れ私!と思う。もやもやするから頑張って聞け私。
「でもタダ、ハタナカさんたちに『付き合うつもりはない』みたいな事言ったじゃん」
「ふん?」
「なのにみんなに付き合ってるって思われてもいいの?」
「オレがいつそんな事言った?」
「今日ゴミ捨てで会った時」
「言ってねえわ」
「言ったよ!」
「言ってない。絶対言ってない」
言ったよ。オオガキ君に聞かれた時だって私より先に、付き合ってないって答えてた。
「そんな事言うわけねえし」とタダがぼそっと言うのでドキッとする。
そして私を睨むタダ。「大島がオオガキにオレと付き合う事になったのか聞かれてぶんぶん首振ってんのは見たけどな」
え?
「マジでゴミ持って家庭科室に帰ろうかと思ったわ。やっぱちょっとオオガキの事いいなって思ってるよな?ヒロトにほんのちょっとだけだけど似てるし。ヒロトの方が断然勝ってるけどな!」
「…」
「何、『え?』みたいな顔してんだよムカつくわ。ゴミ出し行ってた時!あの後オオガキが付き合う事になったのかってまた聞いてきた時、大島がオレの前で付き合ってないってきっぱり答えそうだったからオレが先に答えたし。そういうオレの気持ちも組んで、やっぱ明日は最低でも1時間な。1時間は一緒に回る。付き合うつもりはないとかひとっ言も言ってねえわ」
そうだっけ!?そうだっけそうだっけ…あの時の会話を思い出そうとしてみる。タダは本当はなんて言ってたっけ!?
タダが今言っている事が本当なら、こんな、『タダが付き合うつもりはないって言ったし』みたいな事でぐじぐじ思ってた自分が最高に恥ずかしい。
「いやもうなんかちょっと腹立って来たからこの際ぶっちゃけるど、なんだったらオレは軽く付き合ってるみたいな気でいたからな」
「へ!?」
「だって海行ったし花火大会行ったし、うちで2回もメシ食ったしヒロトんとこの文化祭も二人で行ったし、もうニシモトたちはオレらが付き合ってる体でオレにいろんな事聞いてくるからな」
「…いろんな事聞いてくるの?何聞いてくるの?」
「それは言わない」
もううちが見えて来た。しゃべりながらタダがうちの方へ回ってくれたのだ。ちょっと遠回りになるのに。
「大島だって」とタダが言う。「気にしてたじゃん。オレがハタナカとか他の女子とラインしてるって」
指摘されてババババっと頬が熱くなる。そんな事ないよって言いたいけど、そんな事あるから言えない。
「じゃあな」とタダが言う。私の家の前だ。
そして私を見て嬉しそうに笑った。「すげえ赤くなってる」
私の頬を指さしながらそう言うので、慌ててカバンを持っていない左手だけで顔を抑えるが、まだタダはニコニコ笑いながら言った。
「可愛いな」
ふえ~~~~~!
顔を抑えたまま心の中で叫ぶ。そして『じゃあね』も返せないまま慌てて身を翻し家の中へ入ろうとする私の背中にタダの優しい声が聞こえた。
「また明日な」