第29話 拠点DIYで極楽スローライフ開通! うちの子の大天使ムーブがてぇてぇすぎて無理尊い♡
ふふふ……!
自家発電計画、まーじで大・成・功なんですけどォォォッ!!!
ドタバタ逃走劇の末、入り口の岩盤をぶち抜いてリフォームした二人だけの秘密基地。
その床に、戦利品である『銅イオン粘土』と、私が分泌した『疎水性のシリコーン絶縁ゲル』を敷き詰め、体内で発電した微弱な電気を直接流し込むことで完成した『超回復マッサージベッド』。
人間のスポーツ医療やエステでも使われる、生体電流に近い一・五ボルトの極微弱なマイクロカレント仕様。
これがね。
まーじで、冗談抜きで気持ちよすぎるの。
じわぁぁぁん、と背中から伝わってくる、極微弱な低周波。
ゲルの絶妙な浮力と、お互いの体温が逃げずに留まる最高のプールの中で、私(三十センチのウミサソリ)とピカちゃん(三十センチの兜魚)はぴったりと並んで、だらしなく溶け合っていた。
あぁ〜〜〜〜〜〜、しゅきぃ……。
二十センチのシドネイアだった頃は、十センチのピカちゃんをおんぶする形だった。
けれど!
今はなんと〜!
横にぴったりと並べる『等身大・添い寝』!
これ、控えめに言って、ただの極楽新婚バカンスなんですけど!
テンションが成層圏を突破した私は、ふかふかのゲルベッドの上で一人でバインバインと跳ね回り、前世の深夜ドラマでよく見る「あれ」を無性にやりたくなってしまった。
私は大バサミをそっと伸ばし、隣に寝そべるピカちゃんの丸い顎(カチカチの皮骨兜)をスッ……と持ち上げる。
いわゆる『顎クイ』である。
「フッ……お前をもうどこにも逃がさないぜ、マイ・スイート・ハニー。……愛してるぜ、ピカちゃん☆」
無駄にイケボ(脳内)を作り、一人でキザな主人公ぶってみる。
完全に深夜テンションの悪ノリだ。
すると。
顎をクイッとされたピカちゃんは、きょとんと小首を傾げたあと。
「きゅいきゅーっ♪」
パァァァッ! と、兜の奥のつぶらな瞳をキラキラ輝かせて、私のハサミにすりすりと全力で甘えてきたのだ。
……ッ!!
あかん、純度一万パーセントのピュアなカウンター!!
悪ノリしたこっちの精神(HP)が逆に削られるッ!!
「ぐふぁっ……! ピ、ピカちゃんマジ大天使……っ」
私はハサミを押さえたままゲルベッドの上にバタッと倒れ込み、尊さのあまり天を仰いだ。
もう、このまま明日もお昼過ぎまでゴロゴロしてたい。
そう願いつつも、先の放電ミミズ戦で泥の中を転げ回ったせいやら、ピュアなカウンターを食らってのたうち回ったせいやらで、私のユーリプテルス装甲の節々(セグメント)はひどく凝り固まっていた。
動きたくない。
ていうか、体が重い。
すると。
ピカちゃんが、ぷにぷにのパステルブルーの体をくねらせて、私のダークブルーの甲羅の隙間にそっと顔を寄せてきた。
ピカちゃん自慢の『カチカチの皮骨兜』と『最古の硬い顎』。
その硬い顎を、ピカちゃんは獲物を噛み砕くためではなく、まるでお姉さまのコリをほぐすマッサージガンのように、私の装甲の継ぎ目にそっと当ててきたのだ。
コト、コト、コト……カチ、カチ、カチ……。
ひゃ、ひゃんっ……!?
なにこれ、まーじで脳髄にダイレクトに響くんですけどォォォッ!!!
アゴを持たなかった無顎類の頃には絶対にできなかった、硬い顎と皮骨兜による、正確で優しい「打鍵(リズム拍動)マッサージ」!
ピカちゃんのカチカチの顎が、私のキチン質関節をウッドブロックやキャスト(木魚)のように小気味いいテンポで『トントン』と優しく叩きほぐしていく。
その乾いた心地よいタッピング音と微細な骨振動が、『極上の立体音響ASMR』として直接ストリーミングされてくるのだ。
くぅぅ、尊い。
尊すぎて私のシナプスがアミノ酸になってゲルの海へメルトダウンしそう。
マッサージガン並みの超高頻度タッピングにより、パンパンだった遊泳脚の疲労物質がみるみるうちに分解され、プロの整体を受けた後のように全身が軽くなっていくのだった。
最高のお掃除のお礼に、お姉さまからもQOL(生活の質)が爆上がりするラグジュアリー・ハックをプレゼントしちゃおう。
私は、おうちの壁に塗ったバイオセメントの多孔スリットに、泥底から絶えず流れてくる「発光微細藻類」をトラップろ過して培養するシステムを構築した。
床下の温泉の熱対流による気圧差を利用し、壁の隙間から、ろ過された藻類の甘くて濃厚なエキスを「じわぁぁっ……」と染み出させるのだ。
これぞ、私たちの新居に開通した、いつでも飲み放題の『生体アミノ酸ジュースのドリンクバー』!
セメントの隙間からエメラルドグリーンにキラキラと輝く甘いジュースが滴り落ち、ナイト・アクアリウムの青いネオンと混ざり合って、お部屋の中が最高におしゃれなオーガニック・バーの雰囲気に染まっていく。
だけど、ただ壁から滴るジュースをダイレクトに啜るだけじゃ、ラグジュアリーなバーの雰囲気としてちょっと片手落ちでしょ。
そう思っていたら、なんとピカちゃんが、おうちの隅の玄武岩を『カジ、カジ、バキッ☆』と小気味よく削りだしたのだ。
ピカちゃんは削りだした玄武岩の小さな破片の真ん中を、さらにカジカジと丸く窪ませて。
手のひらサイズのちっちゃくて可愛い『玄武岩のオーガニック石コップ』を、二つも手作りしてプレゼントしてくれたのだ!
なにその器用で健気な愛のアシスト! 尊すぎて私のフロント額甲が粉々にハートブレイクしちゃうんですけどォォッ!
私たちは、壁から滴るジュースをその出来立ての石コップで贅沢に受け止め、カポカポと乾杯して半分こして啜り始めた。
う、ウマい……!
これ、控えめに言って、やっぱり地球四億年レベルで、ハッピーエンドじゃあないでしょうか?
もうこのまま、ここに永住しても良いのでは?
ダーウィン先生ごめんなさい。わたくし、今世に未練はないようです☆
おやすみ、ピカちゃん。
明日からも、このおうちを拠点にして、この這行エリアを二人でサステナブルに美味しくレベリングしちゃおっか☆
私は静かに複眼を閉じた。
……閉じられないし!!




