第1話 特定外来生物、はじめました☆
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――ねえ! ◼️◼️◼️ちゃん。◼️◼️て!
私の冷たい身体に触れていた彼女の温もりが、砂のように指先からゆっくりとすり抜けていく。
守れなかった。
あの子の名前も、琥珀色の笑顔も、思い出せない。
だけど――『今度こそ絶対に守り抜く』という
魂の渇望だけを抱え、私は光の届かない冷たい深淵へと、
真っ逆さまに堕ちて――。
***
「あらら〜、やっちゃいました〜♡」
気がつくと、そこは真っ白な空間だった。
目の前では、いかにも女神様といった風貌の美女が、温かいお茶をすすりながらおっとりと頬に手を当てている。
「本当はそちらの、【本命の勇者様】だけを異世界に転生させる予定だったんですけどぉ……」
「私、おっちょこちょいなので、近くにいた【あなた】も一緒に巻き込んで送っちゃうことになりましたぁ。うっかりです〜♡ てへぺろっ♡」
このイラッとする女神様がのほほんと指し示した先には、神々しい後光を背負った金髪の超絶イケメンが、『俺こそが主人公だ』と言わんばかりのドヤ顔で立っていた。
対する私は、不運な事故で死んだばかりの一般女子高生……だったと思う。
いや、だって、ダーウィン先生を『唯一無二の推し』と崇め奉った、筋金入りの生物オタクとしての記憶しか残っていないのだもの!
ちなみに、最推し生物は『アノマロカリス』!
え? 推しポイント? 聞いてくれます?
そりゃあ、三葉虫の硬い殻をバリバリに噛み砕く、あの前部付属肢と放射状の口がガチで尊くて〜! カンブリア紀の頂点に君臨する捕食者としての、完成されたフォルムと生態系が――って。
そうじゃなくって!
うっかりで巻き込んでいいレベルじゃないんですけど!? 人の命なんだと思ってんの!?
猛然と突っ込もうとした、その瞬間だった。
ピピピピッ! とけたたましい警告音が鳴り響き、女神様の背後に巨大な半透明のボードが浮かび上がる。それは不吉な赤色に点滅し、空間全体を不穏に染め上げていた。
女神様は、困ったように眉を八の字に下げる。
「あ、でも困りましたねぇ……。この異世界のシステムって、とっても厳しくってぇ~」
あざとく首を傾げる女神様の口から、とんでもない言葉が飛び出した。
「事前に登録のない異物――いわゆる『特定外来生物』は、自動的に【排除すべきシステムエラー】として検知されちゃうんです」
……ん?
特定外来生物って、在来種の生態系を脅かすからって、問答無用で駆除対象になるアレだよね?
「ですから、【あなた】は『特定外来生物』扱いで〜す♡」
は? 私が!?
「それからぁ~、『システムによる初期保護』……いわゆるレベルとか、スキルボードとか、チート魔法なんかは、ぜ~んぶエラーで適用されませ~ん」
え? 待って待って。
「転生先も自動的に、システムの管理が及ばない最底辺の掃き溜め――『カンブリア・ダンジョン最下層の水たまり』になっちゃいます」
ちょっと、話聞いて!
「そこでの生存確率は……うふふ♡ システム計算だと『0%』ですねぇ」
0%って、ガチで詰んでるじゃん!
「システムの保護は及びませんが、そのぶん速やかに自然淘汰されちゃいますから安心してくださいね〜。本当にごめんなさい〜♡」
おっとりした声のまま、笑顔で死刑宣告をぶちかましてくるポンコツ女神。
直後、システムエラーと判定された私の魂の目の前に、見覚えのあるゴツいライドマシン――絶叫ジェットコースターが突如として出現した。
「ええじゃないか♪ ええじゃないか♪」
陽気なリズムを口ずさみながら、ポンコツ女神が私の魂を「ぐわしっ!」と鷲掴みにすると、強引に座席へと押し込んだ。安全バーがガチャンと無慈悲に降りる。
ちょっと! 嘘、待って! 私、体育の成績ずっと『2』だし、絶叫系とかホント無理ゲーで……っ!
抗議する間もなく、ジェットコースターが急発進した。
レールは垂直に切り立ち、そのまま床にぽっかりと空いた漆黒の大穴へと繋がっている。
その加速度は……体感10G。地球の重力の10倍である。
魂だけの状態だというのに、真っ暗な冥き深淵へと猛スピードで急落下していく。
あ、これ内臓ふわってなるやつ!
無理無理むりむりむりいィィィィィ!!!!
猛烈な風圧と落下の恐怖で意識が吹き飛びそうになる暗闇の中――私の中の『ダーウィン先生』が、カッと目を見開いて覚醒した。
レベル? スキル? そんな異世界システムなんざ知らんし! 限界生物オタクなめんな!
『自然淘汰』って言葉、私の前で軽々しく使ったな!?
奈落の底に向けて、私は魂の咆哮を叩きつける。
自然淘汰、上等!!
私は私の『進化論』で、あんたらの作った甘ったれた生態系ごと、バッキバキに喰らい尽くして上書き(アップデート)してやるんだからァァァ!!
第1話を最後までお読みいただき、ありがとうございました!
ポンコツ女神から生存確率0%の死刑宣告を受けた彼女。
チートもシステム保護もない水たまりから、地球46億年の「ガチ生物学」を武器にした、前代未聞の下剋上グルメ?サバイバルが今、幕を開けました!
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