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大人になったら結婚してと約束した娘が美少女になって5人現れた

 俺、冴島朔(さえじまさく)が私立(さきがけ)高校の教師になって今日で二年目。

 今までバイトで塾講師をやったり家庭教師をやったり、幼稚園のボランティアに参加したりしたがやはり公務員として教鞭(きょうべん)をとるのは違う感覚がある。

 塾講師や家庭教師、幼稚園で俺を(した)ってくれた子たちが今何をしているのか気になるところだが、今はしっかりと課された仕事をこなさなければいけない。

 二年目なのにもかかわらず1年の学年主任に任命された俺は担当する1-Aの教室の教卓前に立つ。

 高校1年生はまだ高校生になりたてで、中学生の感覚が抜けていないだろう。

 それに小学校と中学校は同じようなメンバーでも、高校ではガラッと変わる。

 勉強だけでなく友達作りのことも考えると不安なこともあるのだろう。

 俺も当時はかなり緊張していた記憶がある。まぁ、幼馴染がいてくれたからそこから派生するように友達はできたのだが。

 ただそうもいかない生徒もいることだろう。中学までの友達が一人もいない生徒だっているはずだ。

 スタートダッシュが全てだというつもりは毛頭ないが、大切なものは大切だ。

 緊張した面持ちの彼らに、俺は簡単に自己紹介する。


「今日から1-Aの担任を務めさせてもらう冴島朔だ。一応学年主任も任せられてるからクラスだけじゃなく学校生活で問題が生じたら遠慮なく頼ってくれ。担当科目は数学と物理だ」


「先輩に聞いたんだけど、冴島先生は当たりだってさ。生徒間でも人気が高いらしい」


「え~ラッキー、さえさく先生って呼ぼうっと」


 とりあえず名乗りはしたが、こんなおっさんの趣味嗜好(しゅみしこう)など若者は興味ないだろう。

 大学を出てすぐに教員になった俺の年齢は今年で24だが、高校1年生の彼らはまだ15歳だ。

 彼らから見れば俺も十分おじさんだろう、悲しきものだ。

 それでも生徒から慕われるのは嬉しいし、フランクに絡んでくれるのはこちらとしても助かる。


 「副担任は今は諸事情でいないが、2か月後に着任する予定だ。その時は温かく迎えるように。ということで浅野から順に自己紹介を——」


 俺が勧めることでクラスは順に自己紹介をしていく。

 順調に進んでいると感じられた自己紹介だったが、一人女子の番になって男子を主に騒ぎ出した。


桜庭澪(さくらばみお)です。趣味はショッピングと勉強で好きな科目は数学と物理です。あと、私には将来を誓った相手がいるので彼氏は募集してないです♪」


 桜庭が口にすることにより、女子からは黄色い声が男子からは絶望の声が挙がる。

 それにしても数学と物理が好きとは。それは担当教師として腕が鳴る。


(ただ、なんかどっかで会ったことがある気がするんだよなぁ……)


 そこで澪が俺に向かって微笑んだ気がするが、普通に考えてクラス全体に微笑んだのだろう。こんな勘違いをするなんて恥ずかしい。

 そこから暫くしてクラス全員の自己紹介が終わる。俺たち教師はなるべく早く顔と名前を一致させないといけないので大変だ。

 次の工程に移ろうとしたその時、チャイムが鳴ったので休憩時間に入る。


「それじゃ、休み時間はスマホいじってもいいから連絡先交換とかしとけよ~」


 クラスに言い残して、俺は廊下に出る。とりあえず職員室で他の先生方と雰囲気を話し合う必要があるのだ。

 A組の印象をどのように伝えるか考えていると、背後から呼ばれた気がした。


「「「「「冴島先生!」」」」」


 声が5重くらいに聞こえて思わず耳を疑ったが、振り返ってみるとそこにはしっかりと美少女が5人立っていた。

 一人は先ほども注目を浴びていた桜庭澪だ。

 綺麗な亜麻色の長髪が少し崩れているので急いでここまで来たのだろう。

 顔立ちは整っており綺麗というよりも可愛らしい。瞳はたれ目気味で庇護欲を掻き立てられるような可愛さがある。

 他4人は別のクラスの生徒のようだが、みな澪に負けず劣らずの美少女だ。

 しかし澪以外の4人が何故俺の名前を知ってるのか。入学式で挨拶はしたが、それで覚えていられるほど俺には特徴がない。

 もしかすると、学年主任ということで他のクラスの先生が俺のことを話したのかもしれない。

 となると、この子たちは学校生活でさっそく困ったことでもあったのだろうか。

(でも、なんか全員微妙に見覚えがあるんだよなぁ……俺に女子高校生なりたての知り合いなんていないはずなんだけど)

 この状況に困惑していると、目の前の美少女は5人とも同じことを口にした。


「「「「「私と結婚してください‼」」」」」


「……へ?」


 なぜか俺は美少女5人から求婚される羽目にあってしまった。一体なにがあったんだ……⁉


「ちょっと!何よあんたら!あたしたちの邪魔でもするつもり⁉」


「そっちこそ。私たちは運命の赤い糸で結ばれてるの。出しゃばってこられても困るのよ」


「そもそも私は先生と婚約してる立場なんですけどー」


「わ、私も先生とは将来を誓い合った仲、なんだけど」


「えへへ、流石先生。モテモテだね。でも結婚するのは僕って約束なんだけどな~」


 ……これは、一体何が起きているというのだろうか。

 美少女5人が俺を取り合う構図ははっきり言って幸福だ。……教師と生徒という関係を除けば。


「ま、待て!お前らは何を言ってるんだ⁉俺は婚約なんて……」


「え、でも先生言ってくれましたよね?大きくなったらあたしをお嫁さんにしてくれるって」


「私にも言ってくれた」


「私も」


「私も」


「僕もだね」


 その言葉を言われて、俺は思い出す。かつて塾講師でバイトしていた時のことを……。


「先生……その、あたしが大きくなったら、先生のお嫁さんにしてください!」

「ははは、〇〇が大きくなったらな」


 ……そういえば、そんな約束をした気がする。

 桜庭澪という名前を聞き顔に見覚えがあったのは塾で教えていた相手だからなのだろう。

 10年ほど前の事だったのでパッと思い出せなかった。塾講師で相手にしていた生徒はたくさんいたわけだし。


「ってことは……お前らは」


 澪以外の4人に目を向けて昔同じような約束をした少女たちを思い出す。


「神木に上条に藍沢に白石……か?」


「はい!」


「ぴんぽ~ん、流石先生あったまいい~」


 俺が正解を言い当てるとみんなは嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。

 しかしすぐに表情が消えると己の隣にいる少女たちと喧騒を繰り広げる。


「なんなんですかこいつらは!私が先生と約束したのに!」


「先生と結婚するのはあたしなの!」


「先生、あんな人たち放っといて2人でこの後サボっちゃおうよ」


「そんなことは許さないっしょ」


 俺を置いて言い合いを始める5人を眺めながら、俺は当時の事を思い出していた。

 あの時は可愛い子供の戯言と思って適当に返事してたなぁ~……妹がいたらの気持ちで。

 まさか全員が私立魁高校に入学してくるとは。どんな確立か調べてみるのも一興かもしれない。

 それにしても……。


「ねっ!先生、あたしと結婚したいですよね!」


「いや、先生は私を望んでいるはずだよ」


「ぼ、僕だって負けてません……!」


「私も、先生を思う気持ちは一番だから……」


「先生は私みたいな子が一番好きって言ってたし?」


 言い合いをしている美少女は絵になるなぁ、と半ば現実逃避に近い感覚を覚えながら、共に教師になろうと約束した幼馴染に助けを求めるのだった……。

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