焼き加減と肉
「にっくにっくにっっく〜、おいしい肉たちは何処かな〜、前かなっ、後ろかなっ、横かな〜」
歩きながら、ご機嫌そうに歌うニニナハ。
「にっくにっくにっっく〜、
ローは加熱してない生の肉〜、
ブルーは数秒炙った肉〜、
ブルーレアは数十秒焼いた外側かりっと肉〜、
レアは強火で軽く焼いた3割火が通った肉〜、
ミディアムレアはジューシーで人気のソートミーさんが好きな肉〜、
ミディアムは中心がほんのりピンクの綺麗でアツアツの肉〜、
ミディアムウェルは俺が好きな焼き加減の肉〜、
ウェルは赤みがない女子が好きな肉〜、ウェルダンは茶色の1番良くなる肉〜、
ベリーウェルダンは肉汁が出なくなるまで締めた肉ーっ」
この感じで、森に入ってからずっと歌っている。
「ウミさんは何が好き〜。…ウミさ〜ん?」
歌を止めたかと思えば、ウミに話しかけてきた。
ランプを持っているが、今は夕方で少し森の中は暗い。
ニニナハの笑顔が見えた。
「私、ですか?」
「うん、ウミさんは何が好き〜」
肉、か。
自己紹介の時に言っていたやつは肉の焼き加減だったのかと此処でわかった。
だが、ウミもちゃんと聞いていた訳ではない。
だから………1番印象に残ったところを言った。
「ウェル、ですかね」
いつも焼いて食べている肉の焼き加減はどれぐらいなのかは正確には分からないが、赤みはなかったはずだ。
多分、嘘は言っていない筈だろう。
「おおー、俺の偏見当たってたんだー!」
偏見だったんだと思ったものの、特に言わなかった。
「なんの生き物の肉が1番好き〜?」
次の質問が来た。
「………豚、ですかね」
「豚も良いよねー。俺も好きだよー。肉ならなんでも好きだけど、俺はやっぱ鹿肉かな!!」
聞いてもいない事を喋っている間に、ナイフをバックから取り出して一直線に投げた。
グサッと遠くで何かに刺さった男と、何かが倒れる音がした。
ニニナハは急いでその音がした方に走っていった。
ウミはニニナハに付いて行った。
走ってはいないが、少し早歩きで。
ついた頃には、血抜きが始まっていた。
血が噴き出ていた。
大量の血が、地面にあった。
少し体の大きな小鹿の体を木の根っこの上にぐったりと、頭は地面に………。
瞳は、だんだんと光を失っていっていた。
だが、か細い鳴き声で鳴きながら血を流してでも抗う小鹿は輝いて見えた。
「んー、これで良いかな。」
鳴き声も聞こえなくなり、動かなくなった小鹿をニニナハは担いだ。
開けているところに運んでニニナハは小鹿を下ろした。
「此処らへんなら良いかな!」
ニニナハは、小鹿を置いている場所から数歩離れる。
ウミは、開けている場所を開けている場所との境で見ていた。
ボッ、一瞬にして小鹿に火がついた。
これがニニナハの能力なのだろう。
肉だけを焼くのか、それとも色々なモノを焼けるのか。
いや、肉だけを焼けても人も焼ける…焼けてしまう。
数十分程焼いた後、火が消えた。
「これぐらいで良いかな?」
垂らしかけたよだれを少し拭って、焼けた小鹿の肉を血のついていないさっきと違うナイフで捌く。
そして、ウエストバックから何故かフォークが出て来た。
ナイフで捌いてフォークで肉を思いっきり刺して食べた。
「美味し〜」
もう一口食べた。
「ちょっと焼きすぎちゃたな〜」と言いながら美味しそうにデカい一口を頬張る。
また頬張る。
「ウミさんも食べる〜?」
此方の視線にでも気付いたか、いることを思い出したのか、話し掛けてくる。
「私はいりません。」
「んーそっか…。好きなのは人それぞれだからな〜。今日はベリーウェルダンにしちゃったしね〜。今度はウミさんの好きなウェルにしてあげるよー!」
笑顔を向けてきて、ニニナハはまた肉にありついた。
何かを勘違いしているニニナハに何も言わず、返事もしなかった。
「美味しかった〜」
満足そうな顔をしながら歩き、お腹をさすっている。
小鹿は、殆ど骨しか残っていなかった。
頭だけは食べなかったらしく、焼けたまま残っている。
小鹿1頭分を1人で食べるなんて………ニニナハの胃袋はどうなっているのやら。
「今日は付き合ってくれてありがとう〜」
狩りが終わって森から出ると、ニニナハがいきなりお礼を言ってきた。
それにウミは少し困惑する。
「…大丈夫ですよ」
「そう?今度、この借りを変えるべく生き物を狩ってウミさんの好きな焼き加減にしてあげるよ。借りを狩りで返すってね!また明日」
手を振りながらニニナハは何処かへ行った。
そしてウミは思った。
せめて生き物じゃなくて動物って言って欲しかったと…………。
それ以外は、特に何も思わなかった。
仲良くなったとしても、所詮は別世界の人間。
どこまでいっても、他人事なのだから――――。
今日からは不定期になる予定です。




