7. ドレスデン侯爵家の暗躍
2026/2/28 一部修正済み
◇ ◇ ◇ ◇
母が亡くなった時、義父の家族から嫌な予感がしたので、私はすぐさま隣国へ留学していた婚約者のユーフォルブことユーフォに、事の顛末を手紙に書いて送った。
その後も母の喪が明けた途端、私が義父たちから理不尽な仕打ちを受けている事、彼等の賭博の借金で伯爵家の財産が火の車になってしまった事も、その都度ユーフォに手紙で知らせていた。
ユーフォは私の手紙を読んで、直ちにドレスデン侯爵夫妻に相談した。
父親のドレスデン侯爵が、手紙を読んで怒り狂ったのはいうまでもない。
◇
元々、ドレスデン侯爵家とメンデル伯爵家は昔から懇意の仲だった。
私が幼い頃、メンデル伯爵邸の隣がドレスデン家の別邸だったせいで、私とユーフォはとても仲が良かった。
特にユーフォは幼い頃から私を溺愛していた。
彼は少年の頃から『絶世の貴公子』と令嬢たちから崇拝されてはいたが、彼の生真面目な性質なのか、ちやほやする令嬢たちを嫌悪していた。
そんな私とユーフォの仲睦まじい姿を見て、両家はふたりが大人になったら、婚約させようと口頭で約束していた。
ユーフォにとって既に私は唯一の婚約者だったのだ。
◇ ◇
だがその後、私の実父は死亡、寡婦となった母も動揺して再婚してしまう。
母は私とユーフォの婚約などすっかり忘れていた。
またドレスデン侯爵家も外交官の仕事で諸国を何年も廻り、数年前に家族単位で隣国へ旅立ったので母国に戻ってきたのは、ようやく今春であった。
それでも私とユーフォは遠く離れた場所でも、お互い文通で愛を育んでいた。
ユーフォも私の母が亡くなった後、私が使用人扱いされて、酷い仕打ちを受けてると知っても留学中の身であり、直ぐには帰国できなかった。
その間、婚約者の私が不当な扱いを受けていることに、身悶えしながらもジッと耐えていたのだ。
ただ、だからといってドレスデン侯爵は異国にいても、決して手をこまねいていたわけではない。
密かに配下の者に義父と義理兄を見張らせていた。
もともと、元貧乏男爵の義父は社交界でも成りあがりとして悪い評判を把握していた。
義父が私の母と再婚して高位貴族の仲間入りをしても下劣さは変わらなかった。
再婚し多くの財を得た事で、さらに金遣いもエスカレートしていく。
終いには借金の形に、伯爵家の領地を担保に次々と高利貸しから金を借りていた事を知り、ドレスデン侯爵は彼等の調査を部下に水面下で見張らせていたのだった。
実はこの時からドレスデン侯爵は、個人の莫大な資産で義父が手放した伯爵家の領地を密かに高利貸しから買い戻してくれていたのだ。本当に頭が下がる思いだ。
それだけドレスデン侯爵と私の亡き父は戦友のような間柄だった。
本来、私はメンデル家の1人娘なので、婿を貰い家督を継がなければならないが、生前父は私とユーフォの睦まじさを見て、ドレスデン家へ嫁に出してもいい、とまでいってくれたという。
また『メンデル家の家督は、親戚の弟たちの子供を養子にすれば問題ない』とまでドレスデン侯爵に話していたというのだ。
ドレスデン侯爵は、旧友の伯爵の土地を死守する事はできたが、問題は義父たちの私に対する悪質さであった。
私の母が亡くなった後は、義父は血のつながりはなくとも法律上は私の保護者である。
私を勝手に保護する事はドレスデン侯爵の地位でも勝手にはできない。
またこちらが下手に動けば、私に危害を与えるとも限らない。
『一番恐ろしいのは、このまま借金が膨らめば、あの男はアリスをただの金儲けの駒として、成金の高利貸にでも嫁に追いやるに違いない!』
とドレスデン侯爵やユーフォはそれを何より恐れていた。
ドレスデン侯爵は慎重に義父たちに監視を続けて好機を狙っていた。尚且つ、私の身を守りつつも義父たちを何とかして懲らしめたかった。
それで思いついたのが、この度の競馬レースだった。
ドレスデン侯爵は義父たちが『ギャンブル狂い』という噂を知り、そこに目をつけて執事のジョージを富豪の侯爵役を演じさせて、競馬場で賭け芝居を打ったのだ。
案の定、酒びたりの義父と義兄は競馬の賭けにまんまと引っ掛かってくれた。
ドレスデン侯爵家の無敗の馬を出走させて、彼等の所有馬を負けさせたのだった。
そして否応がでも『お前の娘を嫁に寄越せ』と促せば、実の娘のイサドラは若い男が好きだと、私の手紙で事前に知っていたので、義娘の私を老人に嫁がせるに違いないと目論んた。
まんまとその手に乗って、私を侯爵家の嫁に承知させたのだった。
これが一連のドレスデン侯爵の仕組んだ罠だった。
◇
だが、競馬レースの話は私の知る所ではなかったが、義父が『資産家の候爵に嫁げ!』と命じられた時、私はピンときた。
──ああ、やっとユーフォの叔父様が私を救出してくれる手筈を整えて下さったのだ!
とすぐに私は理解した。
そして今日に至ったのだった。




