12話 日本政府との交渉
こちら、11話以降から書き直しました。
「今日はちょっと1回家に帰って荷物とか整理してきますね」
美嘉が家に帰ってしまったので、食料の買い溜めをしにコンビニに行くことにする。
……なんだか部屋が広く思えたのは気のせいだと思いたい。
ドアを開けると、ちょうどドアの前に人が立っていて、危うくぶつかりそうになった。
「す、すいません」
慌てて謝って、ぶつかりそうになった人の方を見る……めっちゃかわいい。
そんな月並みな言葉が喉から出かかるくらいには、その人は……端的に言ってアイドル級に可愛かった。
いかにもゆるふわという感じの髪型に整えられた茶色の髪、庇護欲をそそるようなぱっちりとした目。それでいてぴっちりとしたスーツから飛び出しそうなほどグラマラスな肢体。
まさに天使みたいだった。
そして天使は俺の目をうるうるとした目で見つめた。
「すいません、日本政府のものです!どうかご同行願えませんでしょうか」
驚きのセリフと90度のお辞儀に、一瞬思考が止まった。
とりあえず家にあげて事情を聞いてみる……一応の警戒は必要だが、相手が丁寧な対応をしてくれている以上、やぶをつついて蛇を出す必要はない。
「ダンジョンのことですよね。何でここにダンジョンがあるってわかったんですか?」
「はっ、はい。そのことについては私には何も知らされていません。私が知っているのは、新しく何らかの組織ができることと、その関係で、政府として話し合いをするためにあなたを呼び出す役に私が選ばれたことです」
これを聞いて俺は考えこむ。おそらくダンジョンのことは知られているのだろう。
となれば、ダンジョンを国のものとして接収するなり、俺の身柄を拘束するなりのアクションがあってしかるべきなのに、何故話し合いをしたいと考えるのか。
答えはおそらく、俺が制御不能なほど強くて、怒らせたら甚大な被害が出るというケースを想定しているとかそんなところだろう。
あとは、自衛隊の攻略が10層で止まっているから、ダンジョン探索の秘訣を聞きたいのもあるかもしれない。
さらには、自衛隊では潜れない危険度の高いダンジョンに潜って欲しいなんていうのも考えられる。
とりあえず、同行しないことには始まらないだろう。
「わかりました。もう1人の仲間が帰ってから、参りましょう」
しばらくして帰ってきた美嘉に、俺は事情を説明する。
珍しく美嘉が目を見開いていた。
俺たちを乗せた車は霞が関のビルの前に止まった。
車を降りると、案内に従ってビルに入って会議室ようなところでしばらく待った。
「JDOにようこそ」
会議室の奥の方のドアから落ち着いた雰囲気の初老の男性が出てきて、名刺を俺たちに渡してくれる。
名刺によれば、JDOとは、Japan Dungeon Organizationの略であるらしい。
そして目の前の男性はその会長であり、二階堂文也というらしい。
「俺たちを呼んだのは、何が目的ですか?」
二階堂さんは、俺の目をしばらく見つめたあと、こう言った。
「単刀直入に聞くと、君たちのレベルは幾つだ?」
「俺も美嘉も大体30です」
すこし少なめに申告する。
ここからすでに、交渉は始まっている。油断は禁物だ。
「ほう」
二階堂さんの目がスッと細められる。
俺は二階堂さんの眼差しを受けとめる。
「ふむ……こちらの要求としては、自衛隊のダンジョン攻略を手伝ってもらいたいのだが」
「対価は?」
俺は鋭く聞く。
いずれにせよ日本にいる以上、協力は欠かせない。それならどこまでいい条件を引き出せるかが勝負だ。
「ふむ。ダンジョンの不法所持を見逃すだけでは不足かね?」
「ランク1位と2位を動かそうっていうんだ。それだけで釣り合うわけないだろ」
ここはあえてふてぶてしく。
だが、内心ではビクビクだ。
「ほう、なら要求は?」
正念場だ。俺はつばを飲みこむ。
「俺たちの安全確保、具体的に言うと、自衛隊による確認の行われていないダンジョンの確認などは、任務として割り振らない、など。そして、金。毎回、ダンジョンに潜るたびに……そうだな、1個につき、100万でどうだ?あと、俺たちが秘匿していたダンジョンの占有」
「いいだろう」
まさかの即断。
もうちょいふっかけるべきだったか?
ともかく、俺たちは交渉を終えて、俺の部屋へと護送されることになった。
「良かったのですか?」
二階堂に問いかけるのは、副会長の花田である。
2人は昔同僚として働いたことがあり、そこそこ何でも言える間柄なのだ。
「ああ、あれは本物だ」
二階堂は身震いをする。
あの2人が放つ気配は、すでに常人のそれではなかった。それどころか、もはや人かどうかすら怪しい。
「ですが、あの条件、すこし高すぎやしませんか?」
「いや、本物ならダンジョン1つにつき1千万でも安いくらいだぞ」
二階堂はタバコに火をつける。
煙をくゆらせてこの話は終わりとばかりにこう結論づけた。
「まぁ、100歩譲って本物じゃなければ、途中で死ぬだけの話だ」
いかがでしょう。




