第96話
先日のTVジャックの時に放送に出ていた、あの男。確かベゼルグ・ディザーグとナオキ曹長が語っていた男に間違いはない。
(まさか、奴が自ら攻撃の指揮を執っているとでもいうのか……?)
ジェノが内心で驚いている間もなく、ジャック曹長が大声を張り上げるのが耳に入ってくる。
「てめえ、また性懲りもなく攻撃をかけてきやがったのか?」
「その台詞、そっくりそのままお前に返してやるよ。ノーヴル・ラークス」
ジャックの敵意をむき出しにした言葉を、ベゼルグは鼻で笑い飛ばした。
「ジャック曹長、もしかして……?」
「馬鹿野郎。お前もTVを見ただろうが! あいつがベゼルグ・ディザーグだ!」
「ほう、俺も少しは有名人になったかい」
ケヴィン曹長の疑問に答えるジャック曹長を見たベゼルグがニヤリと笑う。
「ナオキ・メトバには礼の一つでも言わねえとな」
「おい、お前、ナオキがどこにいるか知っているのかよ?」
「ん? 奴なら今頃基地の内部で孤立無援のまま戦い続けているんじゃねえのか。……限界すれすれでな」
「貴様……まさか、エクリプスのことを知っているのか? どこまで聞いている?」
「さて、どこまで知っているかな? ククク……」
「てめえ……!」
ベゼルグがのらりくらりと話をはぐらかしているところに、今度はジェノが会話に加わる。
「ベゼルグ・ディザーグ! 私はノーヴル・ラークス隊長のジェノ・トラバル大尉だ。貴様が基地攻撃の指揮を執っているのか?」
「おっと、新しい隊長さんかい。確かに攻撃の指揮を執っていたのは俺だが、もうほとんどケリはついたようなものだがな」
「何? まさか司令部を落としたのか」
「司令部? あんなもの攻撃開始から一時間も経たずに落としてやったよ。というより、司令部首脳陣とやらは攻撃が始まると同時にどこかに逃亡したみたいだがな」
ジェノの言葉にベゼルグは見下げ果てたといったように肩をすくめた。
「何だと……でたらめを言うな!」
「なら、何で国内でも屈指の規模を誇るはずのヤーバリーズ基地がこんなに簡単に落ちそうになってるんだよ」
「……」
「WPも数だけはいたが、指揮統制がなっていないせいか、ろくに抵抗できずに次々落とされていったよ。俺が言えた義理じゃないが、あれには流石に同情したくもなるぜ」
「くっ……貴様……!」
ジェノは歯噛みしたが、今のところ彼にはベゼルグの語った言葉を否定する材料がない。
「ナオキ・メトバを含めて、まだ諦めきれない連中が多少抵抗しているようだが、それもじき終わりだ。俺たちリヴェルナ革命評議会が国内第二の都市ヤーバリーズを基地ごと手中に収めるわけだ」
「まだだ……まだ全てが決まったわけではない!」
「諦めるんだな、ノーヴル・ラークス。お前たちがどうあがこうがもう手遅れなんだよ!」
「ふざけんじゃねえ! 誰がてめえの思い通りにさせるかよ!」
「ジャック曹長の言う通りだ。俺たちはテロリストなぞに屈しない!」
ベゼルグの勝利宣言にも闘志を絶やさないジャック曹長とケヴィン曹長が息を合わせて啖呵を切った。
「よく言うじゃねえか。なら、お望み通りここでお前らを血祭りに上げて、ヤーバリーズ基地陥落の最後の手土産にしてやるよ!」
「来やがれ!」
「隊長、指示をお願いします」
ジェノは決断を迫られていた。ここでこのままベゼルグと戦い、仮に勝ったと仮定しても、まだ残っている敵の数は多い。基地内の敵の他にヤーバリーズの街全体に散っている陽動の敵をノーヴル・ラークスだけで撃破していくのはあまりにも現実的ではない選択肢だった。
司令部がどこに「機能を移した」のかは分からないが、すぐに援軍を寄こしてくれるという見込みもない。
更に言うならば、ベゼルグの口振りをうかがう限り、敵はまだ増援を要請する余裕を残しているらしい。どこにそんな数を隠していたのか分からないが、ともあれ、いざとなれば数でこちらを押しつぶすことも考えに入っているのだろう。
ジェノ・トラバル大尉という男は基本的に玉砕という考え方を嫌っていた。華々しく戦って死ぬよりも、どんなにみじめに見えても泥臭く懸命に生き延びることこそが軍人の使命に適うのだと頑なに信じている男であった。
となれば、ここで二人が主張するように徹底抗戦をするというのはジェノの考え方には当てはまらない。二人には悪いが尻尾を巻いて逃げ出すのがこの場合は最良の選択肢だろう。
ただ、その場合であっても先行していたナオキ曹長を見捨てるというのはベストな選択肢ではない。これからの厳しい戦局を考えた時、ナオキ曹長の力は絶対に必要になってくる。それに、彼の操るエクリプスを敵の手中に収まってしまうのも避けなければならない。
そこまで考えた時、ジェノの腹は固まった。
「サフィール准尉、運搬車両を通用口方面に回して、どうにかナオキ曹長と合流してくれ。ジャック曹長はサフィール准尉たちの護衛に回るように。ケヴィン曹長はここで私とともにベゼルグ・ディザーグを迎え撃ってくれ」
「た、隊長! どうして俺じゃないんですか」
「君は依然リヴェルナの時にナオキ曹長の危地を救ってくれたことがある。その経験を買ってのことだ。それに単機での火力は君の02FAが一番高い。仮に複数の敵機と戦うことになっても遅れは取るまい」
「しかし、こんな時に……」
なおも命令を渋るジャックに今度はケヴィン曹長が声をかける。
「ジャック曹長、ここは俺に出番を譲ってもらいますよ。それに、ジャック曹長にはサフィール准尉に何か返さないといけない借りがあるんじゃないですか?」
「ケヴィン……お前……」
「ま、任せてくださいよ。敵だって02FAよりスペクターとやりあう方が精神的にきついと思いますからね」
そう言って屈託なく笑って見せたケヴィン曹長を見たジャック曹長は、両手で顔を一回たたくと表情を引き締めた。
「了解です、隊長……ジャック・オーヴィル曹長は運搬車両の直掩に回ります。……ケヴィン、俺の分までベゼルグにガツンとやってやれ!」
「任せてくださいよ、ジャック曹長。そちらこそ、サフィール准尉やホリー軍曹のこと、しっかりお願いしますよ」
「分かってるぜ。大船に乗った気持ちでいろよ」
「この際ではそんな安っぽい言葉でも安心できますね」
「せいぜいほざいてやがれ」
ジャック曹長とケヴィン曹長は言葉でお互いを小突きあいながらも拳を突き合わせてお互いの武運を祈っている。
それを見たジェノは満足そうにうなずいた。この一か月と少しの間に自分のやってきたことは無駄ではなかったことを今二人が証明して見せたからである。
「話はまとまったか? じゃあ、はじめるとしようじゃねえか!」
「ベゼルグ・ディザーグ、貴様の思い通りにはさせんぞ!」
運搬車両とそれを護衛するジャック曹長が通用口方面へと急ぐ中、ジェノとケヴィン曹長はベゼルグ・ディザーグ操る尻尾付きの新型機を迎え撃った。




