第87話
それから一週間後、ジャックも通常任務に復帰して全員が揃ったノーヴル・ラークスに出撃命令が下った。
目的は、革命評議会の拠点と思われるヤーバリーズ郊外にある廃工場の制圧。廃工場は彼らのWPの生産拠点と推測されていて、機甲操兵軍が実施する予定である革命評議会の根拠地の制圧を側面から支援するための作戦、ということだった。
現在、ヤーバリーズ基地には各地から部隊が増派されており、軍の上層部がその威信にかけて、革命評議会の勢力を壊滅させようとしていることを感じさせた。
そんな中で、実質的に討伐作戦の先陣を切ることになる僕らノーヴル・ラークスの役割は非常に重いものであると言える。失敗は許されない。
「……以上が作戦の概要だ。相手側の激しい抵抗が予想されるため、無線操縦によって作戦を遂行する。なお、今回は特別にケヴィン曹長にもスペクターを使っての陽動に参加してもらう関係上、運搬車両の運転手はサフィール准尉に、通信士はホリー軍曹に担当してもらうこととする」
「ようやく俺もWPで参加ですか。陽動とはいえ、腕が鳴りますね」
「油断するなよ、ケヴィン曹長。相手も本気だからな」
「当然ですよ。油断なんてすると思いますか?」
出撃前のブリーフィングルーム。
隊長の言葉に、自信たっぷりに答えるケヴィン曹長。常々口にしていたWP操縦手としての任務参加を前にして、高揚は隠せないようであった。
「あ、あの、私が通信士で大丈夫でしょうか、サフィール准尉?」
「何言っているの、ホリー軍曹。あなたなら大丈夫よ。私も隣にいるんだし、もっと気合をいれて!」
「は、はい! 頑張ります」
こちらは完全に初めて実戦に同行することになるホリー軍曹が不安そうな声を上げるのを、経験豊富なサフィール准尉が励ましていた。
「ナオキ、いよいよだな。アレク前隊長のためにもこの戦い、負けられねえな!」
「分かってるよジャック。こんな戦いで負けていられないしね」
「やる気じゃねぇかナオキ、そう来なくちゃな!」
いつにも増して燃えているジャックに僕も気合の入った返事を返す。ジャックにも話した通り、この戦いは戦いの入り口に過ぎないと僕は考えていた。この先に何があるかは分からないけれど、ここで負けるわけにはいかない。この戦いの先にいるはずの男のことを思い浮かべ、僕は心の中で気合を入れる。
「よし、各員準備は整っているようだな。では、ノーヴル・ラークス、出撃する!」
「了解!」
隊長の号令一下、僕たちは駆け足で格納庫に向かった。
格納庫では整備兵たちに混じりエレイアがエクリプスの最終調整を行っていた。
「エレイアさん、エクリプスの具合はどうですか?」
「あら、メトバ曹長。そんなの愚問でしょ。完璧に決まってるじゃない!」
「そういえばそうでしたね。失礼しました」
相も変わらず自信満々なエレイアに僕は苦笑する。エレイアは自分の仕事には完璧を求めるタイプらしく、この間の模擬戦の時もそうだったけれど、少しのエラーやバグも許さないようだった。勿論、操縦手としては非常にありがたい存在ではある。
「今回はいよいよ敵の拠点に殴り込みだと聞いているしね。こちらも全力で調整せざるを得ないワケよ」
「エレイアさんにそう言ってもらえると心強いですね」
「相変わらずお堅いわねぇ、メトバ曹長は? そろそろエレイアって呼び捨てにしてくれても構わないのに」
僕の言葉を受けたエレイアは、ちょっと茶目っ気のある口調でそう言った。
「いえ、何というか呼び捨てにするのは失礼かなって考えがあって……」
「別にそんなに気を遣ってくれなくてもいいのにね。あの大男のジャックに対してみたいに、バンバン呼び捨てで呼んじゃってよ」
エレイアは随分積極的に押してくる。もっとも、僕の方も口で言うほどエレイアのことを呼び捨てにすることに抵抗があるわけがないのだけれど。心の中ではすでに呼び捨てではあるのだし。
「それじゃあ……エレイア、改めてよろしく頼むよ」
「そうこなくちゃね! それじゃあ、エクリプスを任せたわよ、ナオキ曹長!」
エレイアは嬉しそうに何度もうなずくと、エクリプスの調整を終えて僕にヘッドセットを僕に手渡した。
「ありがとう、エレイア。それじゃ、また後で」
「オッケー、ナオキ曹長。気を付けていってらっしゃい!」
僕はエレイアに見送られて、運搬車両に乗り込んだ。
一方でその光景を見ていた二人の女性がいた。
「いいのかしら、ホリー軍曹? エレイアは大分ナオキ君のことが気になっているみたいだけど……」
「……別に。エレイアさんが何をしようとエレイアさんの勝手ですから……」
サフィール准尉の問いかけに、ホリー軍曹はむすっとした表情を隠さずにそうつぶやいた。
「そんなに余裕そうにしていて大丈夫かしら? ナオキ君は奥手なタイプだから、ぐいぐい押してくるタイプには案外ころりといってしまいそうな気もするんだけどな」
「大丈夫です。ナオキ曹長はそんなに不真面目な人じゃありません!」
ホリーが強気にはっきりと言い切ったのを見て、サフィールは逆に表情を曇らせた。
「ホリー軍曹。ちょっと肩に力が入りすぎていないかしらね? 言い過ぎたのなら謝るけれど……」
「お気になさらず。さあ、行きましょう!」
サフィールの気遣いをはねのけたホリーは、スタスタと運搬車両の助手席へと歩いて行ってしまう。
「あちゃあ。こりゃ作戦が終わったら何かしらフォローしてあげないといけないわねえ……」
サフィールは小さくため息をつきながらそうぼやくと、自身も運搬車両の運転席へと向かった。




