第26話
その翌日、謹慎の解けた僕がジャックと共に作戦指揮所へ顔を出すとアレク隊長とサフィール准尉が何事かを話していた。
「おはようございます、隊長、准尉」
「ん、ああ、おはよう。……ナオキ軍曹。五日間の謹慎、ご苦労だった」
「いえ、良い休養をさせていただきました。それより、何事ですか?」
僕は労いの言葉に謝意を述べた後、隊長に質問した。
「大したことじゃないわ。私たちの部隊の正式名称が決まったのよ」
「お、いよいよ決まったんすね。どういう名前なんです?」
サフィール准尉の言葉にジャックが軽い調子でたずねた。
「全領域即応型機甲操兵軍、第一中央特務部隊……だ」
「第一中央特務部隊……中央というのは?」
「うむ、我々は拠点こそヤーバリーズに置いているが、その活動領域は国土全体を想定している。特定の地域に限定されることなく、必要とされる場所に派遣可能な部隊としての性格をはっきりさせたいのだろう」
僕の質問にアレク隊長はそう解説してくれた。
「相変わらず長ったらしいっすね。愛称とかコードネームとかはないんですか?」
ジャックが面倒くさそうにいうと、サフィール准尉はニヤリと笑ってこう言った。
「……ないこともないわよ。上層部のお仕着せだけどね」
「え、あるんですか? ……どんな名前なんです?」
「我々のコードネームはNoble Larksということになった」
「ノーヴル・ラークス……?」
「ノーヴルは気高さ、ラークはヒバリを意味する言葉よ」
僕の発した疑問を准尉が解説すると、ジャックはやや不満そうな顔になった。
「気高きヒバリ……なんかこう、派手さに欠けませんかね?」
「はは、確かにもう少し迫力のある生き物なら印象もまた変わったろうが、私は悪くない名前だと思うがな」
「どういうことですか?」
「ヒバリは春を告げる鳥、自由の象徴として古来より詩歌に歌われてきた鳥だ。戦いという厳しい冬の時代を乗り越え、平和という春を告げる気高き自由の象徴……そういう意味合いが込められたネーミングなのだからな」
「はぁ……学のあるお偉いさんの考えることは一味違いますね」
隊長の語る解釈にいまいち付いていくことが出来なかったのか、ジャックはぼんやりとそうつぶやいた。
「軍曹はどうだ? 何かこの名前について感想はあるか?」
「そうですね……」
僕はちょっとだけ考え込んでから、ゆっくり口を開いた。
「正直なところ、この名前の持つ深い意味は自分にもよく理解はできません。しかし、ノーヴル・ラークスという名前に恥じぬ働きを今後しなければならないと思うと、武者震いがしてきます」
「いつものとおり真面目な回答ね。でも、そうでなくちゃナオキ軍曹じゃないものね」
呆れ半分、感心半分といった感じでサフィール准尉が言った。
「しかし、軍曹の言う通りだ。気の抜けた働きをして、名前負けしている特殊部隊などと言われないように、各員ともしっかり任務に当たってほしい」
少し緩んだ雰囲気を引き締めるようにアレク隊長は言った。
と、そこへ通信室に詰めていたらしいホリー軍曹が部屋に駆け込んでくる。
「アレク隊長、参謀本部より入電が入っております」
「内容は?」
「はい。「リヴェルナ革命評議会」を名乗る謎の人物より、明日一二〇〇にルドリア市の国境付近でWPによるテロを行うとの犯行予告があったそうです」
「何!?」
「リヴァルナ革命評議会なる勢力の詳細は不明ながら、犯行予告の内容や発表のタイミングなどから、先日のヤーバリーズ中央駅における無差別テロとも何らかの関連があると疑われる。第一中央特務部隊は直ちにルドリアへ急行し、テロ行為を未然に防ぎ、市民の安全を確保せよ……とのことです」
「今度は予告つきとか、随分となめられたもんじゃないですかね?」
ジャックはそう言って早くも闘志を燃やしている。
「いきり立つのは早いわよジャック曹長。まだ相手が同一犯かどうか定かじゃないんだからね」
「確かに、前回の相手は何にも名乗っていませんでしたからね。同一犯だと思い込むのは危険だと思いますよ、曹長」
冷静なサフィール曹長の意見に僕も同意した。だが、それは同一犯であってほしくないという僕の内心の怯えの表れでもあったかも知れない。僕はいつの間にか掌にじっとりと汗をかいていた。
「皆、犯人にまつわる議論はひとまず後回しにしろ。今は出撃命令に従ってルドリアに赴くのが先だ」
隊長は一通り僕らの意見が出揃ったのを見定めて、場をまとめるように言った。
「ホリー軍曹、機体の整備状況は?」
「ナオキ軍曹の02FはD型装備の損傷が激しく使用できないため、通常装備での出撃となりますが、アレク隊長の02FCA及びジャック曹長の02FAは問題なく使用可能です」
「ナオキ軍曹、聞いての通りだ。今回は無理をせず我々の後衛に回ってくれればいい」
「了解しました、隊長」
アレク隊長の言葉に僕は内心でほっとした。今の心理状態で前衛に立つのはいろいろと危険だったからだ。
「無線操縦システムの状態は?」
「万全です。現地の電波状況にもよりますが、運搬車両からの遠隔操作は問題なく行えるはずです」
「隊長、今回は無線操縦で行くんですか?」
「ああ、前回の戦闘を解析した結果、相手は操縦手を狙って攻撃を仕掛けてくる危険な敵だと判定されている。同じ相手が来るかは不明だが、必要以上に敵に利するような選択をする必要もあるまい」
ジャックの言葉に答える隊長の言葉から考えると、僕の心理状態は隊長にはお見通しであったらしい。僕からの視線に気づいた隊長は、心配するなと言わんばかりに小さく笑みを浮かべた。
「他に諸君から何か質問はあるか?」
「無いぜ、隊長」
「大丈夫です」
「問題ありません。隊長、ご指示を」
僕たちからの返事を聞いた隊長は大きくうなずいて号令を発した。
「よし、第一中央特務部隊『ノーヴル・ラークス』、出撃する」
「「「了解!!」」」
号令一下、僕たちは急いで出撃準備に入った。
皆が部屋を出て格納庫へ向かう中、僕も格納庫へ向かおうとしたが、それを呼び止める声があった。
「あ、ナオキ軍曹……!」
ホリー軍曹だった。何かを言いたそうな眼をしている彼女を見て、僕は約束を思い出す。
「おっと、そうだったねホリー軍曹」
僕は肩にかけていたショルダーバッグから本を取り出して彼女に手渡した。
「はい、この本だったよね?」
「す、すみません。出撃命令中にこんなこと……」
「気にしないでいいよ。これくらい隊長も大目に見てくれるさ」
すまなそうに話すホリー軍曹に、僕はあえて気楽な口調で答えた。
「ナオキ軍曹、本当に気を付けてくださいね……」
「ありがとう、ホリー軍曹。それじゃ、行ってくるよ」
「ご武運をお祈りしています」
僕はホリー軍曹に手を振ると格納庫へ急いだ。
ホリー軍曹は、借りた本を両手に抱きながらそんな僕を見送っていた。




