21(最終話) 旅立ち
SIDE ミラ
魔導王との決戦から一年が経った。
暗黒竜王──ガルダの活躍により、魔導王とその軍団は壊滅。
エレノア王国に平和が戻り、現在ではかなり復興が進んでいる。
魔導王の侵攻で死んだ者たちは戻ってこない。
だが、生き残った者にできることがある。
前へ向かい、進んでいくこと。
生きていくこと。
そして、また新たな脅威が現れたときに、今度こそ大切な者たちを守るために立ち向かうこと。
だから、今日もミラは騎士として剣の修業に励んでいる。
「精が出るねー、ミラ……じゃなかった、騎士隊長」
「ミラでいいですよ、コレット」
声をかけてきたコレットに苦笑するミラ。
「だいたい、コレットだって魔法戦団の指揮官クラスじゃないですか」
「お互い出世したよね。やっぱ、あの戦いで暗黒竜王と一緒に戦った、ってのが効いてんのかねー」
「英雄扱いですからね……」
「実際、英雄って呼ばれるだけの活躍はしたんじゃねーのかな。魔導王と直接戦ったメンバーは勇者たちをのぞけば、あたしとミラ、リーリアだけだし……あと、ドラゴン」
コレットの表情が少しだけ沈む。
「リーリアは冒険者として元気にやってるらしいけど、ドラゴンはねー……」
そう、暗黒竜王は魔導王との決戦後、戻ってこなかった。
天空の彼方で魔導王が消滅したことは、何人もの上級魔法使いや高位僧侶が確認し、事実として認定されている。
ただ、暗黒竜王については不明だ。
同じように消滅したのか、行方不明なのか──。
一年経った今も、まったくの謎である。
「ドラゴンさんは──きっと、どこかで生きています」
ミラがため息をついた。
「あたしは、今も信じています」
「ま、そう簡単にくたばる輩じゃねーよね」
コレットが慰めるように彼女の肩に手を置く。
「……ありがとう、コレット」
「ま、勇者パーティあたりは、もしドラゴンが生きてたら討伐しに来るだろうけど」
「うっ、確かに……」
ちなみに、アーバインたちは今も『世界の敵』と認定された巨悪と戦う日々を送っているようだ。
先日は魔導王と並んで、世界各国に侵攻している巨悪『幻獣皇帝』を討つために旅立ったと聞いている。
と、
『あ、いたいた。久しぶりねー。ミラ、コレット』
彼女たちの元に一人の女が駆け寄ってきた。
銀色の長い髪に褐色の肌。
踊り子を思わせる露出度の高い衣装をまとった美女だ。
「あなたは──」
ミラはハッとなった。
見覚えがある。
そう、暗黒竜王の精神世界──『内なる境界』で出会った女だ。
『ガルダ……いえ、「ドラゴンさん」から聞いてない? 私は暗黒竜王の鑑定スキルが擬人化した姿。ナビって呼んでくれればいいわ』
「ナビさん……その呼び名は知っています。そっか、あなたが──」
『そっちのお嬢さんとは初対面ね。初めまして』
「どーも……で、あたしたちに何か用があって来たの?」
コレットがナビを見つめる。
「もしかして、ドラゴンのことで?」
『話が早いわね。そ、暗黒竜王のことで、あなたたちに頼みがあるの』
ナビが言った。
『実は──』
ナビの話によると──一年前の戦いで、暗黒竜王は魔導王を空の彼方で打ち倒したのだという。
だが直後に限界が訪れ、地表に落下。
ギリギリのところで助かったものの、大ダメージを受けてしまった。
その直前に『真の暗黒竜王』のスキルで『休眠フィールド』という特殊空間を作り出し、その中で体を癒しているという話だった。
『最近になって、やっと体を動かせるようになってきたんだけど、まだ戦闘能力がほとんど残ってなくて。休眠フィールドの外は危険なモンスターがうようよいる区域だから、脱出するには助けが必要なのよ。悪いけど、手を貸してもらえる?』
微笑むナビ。
『ちょっとした冒険の旅になりそうだけど、ね』
「──もちろんです!」
ミラは表情を輝かせた。
「さっそく、騎士団にしばらく団を離れる許可を取ってきます! もし駄目だったら、騎士団をやめてでもドラゴンさんのもとへ行きます!」
「ひええ、思い切ったこと考えるねー。ま、そうなったときは、あたしも付き合うか……」
コレットが苦笑する。
「待っててくださいね、ドラゴンさん」
やっぱりガルダは死んでなどいなかった。
もうすぐ、彼にまた会えるのだ。
いや、絶対に会いに行く。
ミラは浮き立つ心のままに走り出した──。
【完】
これにて本作は完結となります。ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
また別の作品でお会いできましたら幸いです。ほな~!(´・ω・`)ノ
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