8.この森には主がいるようです
私とカイは森のさらに奥へと向かっていた。
先ほどクロミが言っていたことを思い出す。
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「私たちが今いる場所はこの森の中でも街寄りにあることは知っていますよね。ここよりもっと奥へ進むと、木が生えていない広い空間に出るそうです。そこに咲いている霊草はどんな病でも治すと言われています」
「じゃあ……それを取ってくれば!」
「はい。もしかしたらカナは治るかもしれません。ですが……」
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とその時、目の前に何かが落ちてきた。いや、降り立ったという方が正しいのかもしれない。
『ここに何用だ。人間の娘と獣人の小僧よ。理由によってはここから先へ通させんぞ』
現れたのは大鷲の頭部と翼を持った巨大な獅子、グリフォンと呼ばれる獣が翼を広げ、私たちの行く手を阻んだ。
すべてを射抜くような鋭い眼差しに一瞬怯むも、ここで引くわけにはいかず、ジッと相手を見つめる。
カナが治るかもと言った後に、クロミはこの森に山の主が存在すると言っていた。その主は霊草を悪用しようとするものから守っているのだと。
その情報が本当だとすると、おそらく目の前にいるグリフォンがこの山の主ということだろう。
「私たちはこの奥にある場所で咲いていると言われている霊草を取りに来ました」
『……それはなぜだ』
「私たちにとって大切な存在が病で倒れました。治し方も分からず……。ですがここに咲いている霊草ならば治る可能性がある、と言われました」
『その目、気に入った。ついてこい』
どうやら道案内をしてくれるらしい。
私たちは後をついて行った。
『……病で倒れたのはフェンリルのカナだろう』
「なぜそれを!?」
カナにグリフォンの知り合いがいるなんて聞いたことがない。なのになぜカナのことを知っているのか。カイもそれがわかっていたのか、グリフォンに対して警戒心が増す。
『そう身構えるな、獣人の小僧。この山で儂の知らんことはない。魔法だよ。儂は風魔法が使える。それでこの山全体のことを知ることができる。だがカナのことは魔法を使わんでも自然と耳に入ってくる』
「魔法……」
風の魔法でそんなことができるとは思わなかった。というか、今までの生活が充実してて魔法が存在すること忘れてた。
それにしても自然と耳に入るって……いい意味なのか悪い意味なのか。
『……どうやら二人とも魔法の素質があるな。ほら、話している間に着いたぞ。ここが霊草の咲く場所だ』
「これが霊草……」
私の視界には一面紫色の花畑が映った。
霊草と言っても見た目は普通の花と変わらなかった。
『それを二、三本摘むといい。帰りは儂が送ろう』
そう言ってグリフォンは私たちが背中に乗りやすいように、姿勢を低くしてくれた。
霊草を積んだ後、背中に跨るとすぐに翼を広げて飛び立つ。
「えっ、ちょ、心の準備が……」
私の声は風の音でかき消えることになった。