トト
岩壁の海に面した方に、ぽっかりと口を空ける洞穴を見つけたとき、私はようやく救いを見いだした。あの中で夜が明けるまで眠り、目を覚ました時には、この月夜の悪夢をすっかり忘れ去るのだ。それで全てが元どおりになる。
洞穴の中は月の光も届かず、完全な闇に包まれていた。もはや悪夢に怯えることはないだろう。私は寝床となる乾いた場所を見つけるために四つん這いになり、地面を手で探りはじめた。指先に何かが触れ、からりと音を立てた。手に取ると、それは滑らかな感触で流木の枝のように軽かった。不意に怖気が立ち、私はそれを放り出した。
からからがらがらと言う何かの崩れる音が、洞穴の中に響き渡った。その滑らかな何かと同種のものが、そこかしこに積み重なっているようだった。
その時、傾いた月が水平線に近付き、青い光が洞穴の奥にまで差し込んだ。無慈悲な月光が暴いたそれは、白く乾いた無数の骨だった。
叫ぶ間もなく、洞穴の入り口に何かが立ち、奥の壁に黒々と影絵を描いた。私はついに振り返り、そこに包丁を手に立つトトの姿を認めたのだった。
トトは言った。怖がらせてごめんね、と。そして包丁を放り出し、笑顔を浮かべて両手を広げた。私は彼女の裸の胸にしがみつくと、激しく泣きじゃくっていた。彼女の身体は血と腐臭に覆われていたが、少女らしい甘やかな匂いは、まったく失われていなかった。トトは泣きじゃくる私の頭を抱き締め、よしよしとつぶやいた。そうして、私の悪夢はようやく終わりを迎えたのだった。
いつもと同じ朝が訪れ、私は今、この手紙を書いている。
やはり、あの恐怖は私の幻想であって、現実のトトは最初に出会った、あの優しい少女で、今も変わらずトトだった。しかし、あの悪夢を乗り越え、私は変わった。さらに彼女を愛しく思い、彼女の愛情を何よりもはっきりと感じることができるようになったからだ。
私は今、恐らく誰よりも幸せと言うものを実感している。そして、この幸せは、さらに大きなものになるだろう。今日、私はトトと一つになり、永遠に彼女のものとなるのだから。
そろそろ書くことも尽きたので、これで筆を置くことにしよう。それに、今日はとても忙しくなるのだ。昨夜、島の沖合で船が難破したのか、ずいぶんと色々な物が海岸に流れついているようなのだ。色々な物が。ひょっとすると、この手紙を詰めるのに適当なガラス瓶も見つかるかもしれない。
本当に、これで最後にしよう。トトが呼んでいる。あの白いワンピースを脱ぎ捨て、右手に包丁を持って、私が出てくるのをまっている。




