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魔法使いは銀河を駆ける  作者: 星キノ
一部序章~Still~
2/269

1. クラスメートとテロリスト

Still[形]

1.静止した、動かない

――[副]

2.まだ

「あー、マジで疲れたー」


 電車に揺られながら、僕は軽く欠伸をしてそう零した。

 今日は高校で入学式とオリエンテーションが行われたのだ。とても退屈な物だった。


「何かさ~、クラスの雰囲気固くなかったか」

「みんな緊張してるからじゃない?」


 そう聞いてきたのは、小学校時代からの親友、柳井巧(やなぎい たくみ)。小中学校が一緒で、 高校までもが何故か一緒になってしまった。いわゆる幼馴染だ。


 僕、星野(ほしの) (すい)がこの巧と今日付で入学した高校は、都立久慈真(クジマ)高校と言う、ちょっと変わった名前の高校だ。

 偏差値はそこそこで、偏差値の割にはいわゆる自称進学校の様な校則や雰囲気はないとの事。高校見学でも雰囲気が良く、僕たちは二人揃って入学することが出来た。


「ああでも俺クラスの左端の子めっちゃタイプだったわ。特に胸がヤバい。飯三杯イケる」


 校長先生の挨拶と、来賓の紹介に校歌斉唱と。在校生代表からの歓迎の言葉に、新入生代表の言葉。

 正直、特に記憶に残るようなものでは無かった。多分家に帰る頃には来賓の顔と在校生代表の顔なんて完全に忘れているだろう。


「ああ、うん。巧はそう言うの好きだよね……」

「まるでお前は好きじゃないみたいな言い方だな」

「いやそう言うわけじゃないけどさ」


 巧は顔のラインが柔らかく、人受けがいい。欠点としては少しだらしなく、今日の服装にもそれは出ていて、入学式の間は綺麗だったはずの制服が、いつの間にかもう着崩されていた。


「やっぱおっぱいはデカいに越したことはないって。分かるだろ?」


 クラスに案内されて周囲を見回したら、胸が高校生のそれとは思えない爆乳が確かに約一名いたし、巧は多分その人にしか目が行かなかったのだろう。

 確かにあれは印象に残らないはずがない。

 他には誰が居ただろうか。今日は担任の紹介も何も無く本当に入学式だけだったので、まだクラスの人の顔や名前も覚えてはいないけど、確かやけに印象が黒々しい、闇色に塗りつぶした男が1人いた気がするぐらいか。


「僕はね、胸の大きさが全てじゃないと思うんだ……」


 電車の中でこんな話をしていると、たまに人が怪訝な視線をこちらに寄せてくる。

 オープン過ぎるのもどうかと思うけど巧はそういうのを気にするタチでも無いから困ったものだ。


 そんな事を気にしていたら巧はふと話すのを止めて、辺りを見回した。その不自然な反応に、まるで一瞬時間が止まった様な錯覚を覚える。


「……気のせい、か? 今何か悲鳴が聞こえた気がしたんだが」

「そう言う妄想をしてたの?」


 巧ならやりかねない。


「いや違うって、マジで。俺そんな趣味無いし」

「そんな趣味って?」

「うるせーな」


 キョロキョロと辺りを見回す巧を半分呆れながら見つめていると、別の乗客の声が耳に入る。


「何だあれ?」


 その声がやけに耳に残り、彼の向いてる方向に視線を向けた。

 その瞬間、身体に強烈な圧が掛かり、巧が咄嗟に電車の手すりに手を伸ばした。


「うわっ!?」


 突然急ブレーキが踏まれ、人と車輪がほぼ同時に悲鳴を上げた。重力が掛かり、巧よりも初動が遅れた自分の身体が大きく投げ飛ばされるのを感じる。

 床に叩きつけられると、口の中で何かがブチっと切れ、鈍い音が僕の頭を揺さぶった。


「いつつ……何だよ今の」


 口の端から泡のような血が垂れていくのを無視して、ゆっくりと僕は起き上がった。


 頭がガンガンする。どうやら頭もそこそこに打ったらしい。


 ……いやそんな事よりも一体何が。巧の妄想かと思っていた叫び声は、今確かに僕にも聴こえた。


「……うおっ!?」


 口の中の切れた箇所を気にしながら見上げた直後、電車が大きく揺れて、また僕はバランスを崩した。

 再度起き上がると、爆発音が響く中で、僕の目に全身黒尽くめの怪しい集団が飛び込んできた。



「○×△□※!」

「%@£▽*」

「<>〒━!」


 全身隙間なく黒で身を包み、一切の素性を隠す彼らからは異様な空気が出ていた。


 何なんだこいつら。

 これは一体なんだ。

 

 急ブレーキが掛かって吹っ飛ばされて、爆発音があって見上げたら訳のわからない人物が居る。頭がついて行かない。


「○×△□※!」

「†★▽♭」


 外国語を喋っているのだろうか。兎に角、何を喋っているのか僕には全く判らない。乗客も何が起きてるのか分からないみたいだ。

 テロだろうか。だとしたら一刻も早くここを逃げないと。


「ΞΞ≪⊂%υ」

「Зе╋←∫】」


 ようやく電車が完全に停止し、改めて見回すと僕と同じ様に何人か怪我してる人が何人もいた。巧はどこに居るのだろうと見回して、そこで自分がだいぶ投げ出されたことに気づく。


「λ━゜ д」


「――さて、やりますか」


 巧の姿を探していると、判別可能な溜め息と日本語が聞こえた。


 謎の黒ずくめの奇声から聞き分け探すと、不自然なまでに体勢を崩していない一人の女性が読書をしていた。僕と同じぐらいの年だろうか。

 彼女は読んでいた本を閉じると、黒尽くめの集団を見上た。そして彼女はゆっくりと立ち上がると、そのまま彼らの前に立ちふさがった。


 黒装束の人間が、彼女のため息に反応し振り向く。

 それに合わせるかのように彼女は眼を不気味に細めると、腕を前にゆっくりと突き出した。すると黒ずくめの人達は、はっとした様子彼女に反応し、ナイフを持って彼女に特攻を仕掛ける。


 その瞬間、突然雷のような電撃の音が聴こえ、青白い玉のような物が彼女の手のひらから放たれた。

 青白い玉は目にもとまらぬ速度で黒尽くめへと飛んでいき、彼に接触するとけたたましいガラスの割れるような音が辺りに轟き、その身体が宙を舞う。


 黒装束の男が吹き飛ばされると同時に、何やら青い物質が一瞬黒装束の輪郭から現れると、本当にガラスが割れたみたいに、粉々になったそれが床に落ち、蒸発していく。


「゜`ω∀」


 僕には理解のできない何かを破壊された黒装束は明らかに動揺した様子を見せると、変な音を立ててその場から一瞬で姿を消した。

 文字通り瞬間移動だ。一体何が起きているのか、状況が僕には追えていない。


「……な、何今の」


 何が起きてるのかがまるで理解できない。


 何、これ。


(すい)、大丈夫か!? お前頭から血が出てるぞ!」


 気がつけば、巧が僕の名前を呼びそばに駆け寄って来ていた。幸い巧には目立った傷は見当たらない。


「だ、大丈夫だよ、これ位。それより早くここを出ないと」


 とりあえず、残りの黒尽くめが先ほどの彼女に気を取られてる内に何とかして逃げないといけない。


 この空間の何かが、今僕たちが猛烈にヤバい状況に置かれていると僕に伝えている。


「戦闘員にしては動きが悪いな。どうやら(エレガント)の報告通りの様だな.......」


 オロオロしている巧の傍に居た男性がそう呟くと、黒装束の男を謎の光で吹き飛ばした女性に目配せを送りながら立ち上がった。すると彼女はゆっくりと頷き、再び手のひらから謎の光を放ち別の黒装束を攻撃し始める。


「えっ、君は.......」

「【闇の魔装(エクイ・テネブラ)】」


 その男の人がまた聞きなれない言葉を発すると、真っ黒な、煙よりも重厚な何かが彼の右腕にまとわりついて鋭い槍のような形状に変化した。


 彼がその腕を前方に突き出すと、その槍が伸びていき黒ずくめの者の腹部を貫く。

 穿かれたその人からもガラスが砕ける音と共に黄色い何かが弾け飛び、床に散っていき空気に溶けていく。

 まるでその人を守る、バリアのようなものが破壊されたかのような様子だ。


「あれ?」


 黒ずくめがまた妙な音と共に蒸発するのを見て、ふと右腕が槍に変化した男の顔に既視感を覚えた。

 確か、ついさっき見たはずだ。


「君は……」


 そうだ。学校で見た顔だ。


 いやむしろ、クラスで見た。あの全部印象が黒い人。そこまで思考が進んで、クラスが同じになった人の顔と気付き声を上げると、ハッとした様子で彼が先に口を開く。


「声を抑えて!」

「〕◆∽◯Γ!?」

「Ё∞†¶††」


 次の瞬間、こちらに殺意のこもった視線が飛び、黒装束の1人が僕達に向かって一瞬で距離を詰めた。


「うわっ!」


 首を掴まれて、僕は再び宙を舞った。


 そして骨伝導で鈍い音が伝わり、遅れて痛みがやってきた。掴んできた腕からは奇妙な感触があった。まるで爬虫類の鱗のような、硬い感触。


「言わんこっちゃない。おい、お前がさっさと始末しないからだぞ」

「あ、負傷者出ちゃった? やらかしたわね」


 誰かの呑気な会話が聴こえた気がするが、頭痛で意識が混濁してうまく聞き取れない。


 投げ飛ばされて、手すりか何かに頭をぶつけたのだろうか。何かが額を伝っていくのを感じた。やがてその伝っていく何かは僕の視界をふさぎ、いよいよ何も見えなくなってきた。


「彗!」


 誰かが駆け寄ってきた気配がするが、その気配も徐々に遠くへと離れて行くような気がした。音が静かになっていき、目の前から光が消えていく。


「……マズいわね。ペンチドライブ、起動」


 僕が血でぼやけた視界で目視できたのは、何かを翳す女の子と、それを見て固まる黒の何か。後は、脳みそがやられたのか、地面が揺れているように感じる。


「....ここ.......画通...か...」

「―――界法第一条、非魔――拓地区法違―――」


 揺れている地面がなんだか心地よく感じてしまい、意識が遠のいていく。最後に聞こえたのは日本語だろうか。いずれにしてもどうでもよく、やがて僕はその心地よさに耐え切れず、眠ってしまった。

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