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魔法使いは銀河を駆ける  作者: 星キノ
一部序章~Still~
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0. 始まりの景色

 ふと見上げると、私の頭上を淡いピンク色の花弁が駆け抜けていた。地球で『サクラフブキ』と呼ばれるものだ。


「今年も日本はもう入学シーズンか」


 桜の花の散り際を眺めていると、私のそばに立つ男がそっと呟いた。


「この星でも進学シーズンって春先なのね? 今更だけど知らなかったわ」

「いや、西の方に行くと入学シーズンが秋のところもあるよ」


 私たちが見つめる先にある学校には、いくつかのプロジェクトのターゲットたちが、そろって入学を予定している。

 日本という地域における教育施設としては環境もそこそこ良く、優秀な魔法使いを輩出することで知られている。

 とはいえ、その事実を知っているのはごく一部の人間だけだ。

 具体的には、もともと魔法使いである者たち、各地域を治める国家の長とその傘下にある魔法省、魔法関連事案に対応する一部の省庁の限られた部署、そして――我々宇宙人である。


「そうなのね。ほら、私たちの星ってさ、ご存知人工惑星だから季節の概念がないじゃない? だからこういう風景って結構新鮮だわ」

「ああ、なるほど。確かにそれはあるかもな」


 私はこの星で独自の進化を遂げ、知能を獲得した、いわゆるホモ・サピエンスではない。


 そもそも地球では、魔法の存在は一般人から秘匿されている。なぜなら、魔法の源である魔素(スペリウム)は、魔法使いでない者にとって極めて有害だからだ。

 そのため、当然ながら魔法使いの存在自体を知る者もごくわずかしかいない。

 さらに、地球の文明は我々の文明と比べると大きく遅れている。そもそも『魔素』(元素記号Sp)という元素自体が、地球上ではまだ発見されていないのだ。

 それを、異星人という外部者である私たちが当然のように扱い、ただ当然の事実としてこの惑星にその存在と知識を流布することは、文明破壊や侵略行為に等しい。


 宇宙人が突然宇宙船に乗って現れ、魔法なるものを披露しようものなら、惑星全体が未曾有の大混乱に包まれるだろう。

 だからこそ、魔法と宇宙文明は、この星の非魔法使いたちが自力で魔素という物質にたどり着くまで、秘匿され続けるのだ。


「しっかし、学校か……正直、この歳で今さら学校なんかに通うことになるとはな……」

「でも、学齢っていうこの地域の制度とは一致しているんでしょう?」

「まあ、そうなんだけどさ……なんせ俺、博士号まで持ってるからね……」


 時折、彼――名を伊集院英高という――と同じくらいの年齢に見える少年少女が、怪訝そうな顔を向けながら通り過ぎていく。


 それもそのはずだ。


 私は今、自分に透明化の魔法をかけて風景と同化している。つまり、傍から見れば彼はひたすらぶつぶつ独り言を喋っているようにしか見えないわけで。

 おかげで、行き交う人々の視線が心なしか冷たい。


「学校とか、楽しそうよね〜」

「あのな、こっちは仕事で来てるんだぞ」


 大きくため息をつくと、彼は続けた。


「本当はこんなことに時間を使ってる暇なんてないんだけどな……」


 彼は年齢こそ、今この校門をくぐっていく少年少女たちと変わらない。


「いいじゃない。息抜きだと思えば。私なんて、もう百年単位で学校なんて行ってないわよ?」


 この男はまだ十五歳だが、本当はすでに大学どころか大学院まで卒業している。というより、むしろ大学で授業を持っている側だ。

 それなのに彼がわざわざ高校課程、それも魔法の存在しない一般課程を再履修しに行くのには理由があった。


「ルナティックやD.E.A.T.H.(デス)みたいな指定組織を追っているはずなのに、こんなところに潜入なんて、なんだか後ろめたくてね」

「まあ、その組織の幹部が潜入してるかもしれないんだから仕方ないでしょ」

「いやまあ、それはそうなんだけどさ……」


 この学校は優秀な魔法使いを多く輩出する。それゆえ、この大宇宙に名を轟かせる指定テロ支援組織からも目をつけられている。


 例年、地球で魔法使いに進化(・・)した者は、一定の割合で宇宙社会の闇に呑まれ命を落としてしまう。

 その原因を宇宙警察の協力のもと調査した結果、教育機関にテロ組織の手が伸びている可能性が高い、という報告が上がった。


 特にこの学校――都立久慈真高校――の卒業生は、宇宙の暗黒面に堕ちてしまう割合が高い。

 ここへの潜入依頼が宇宙警察長から直々にギルドへもたらされたのは、記憶に新しい。


「見つかれば、文字どおり大当たり……か」


 彼の視線が私から外れたのを感じ、追ってみると、二組の少年と一人の少女に目が留まった。

 一人はどこにでもいそうな普通の地球人。しかし残る二人は、重要ターゲットとしてマークされている。


 片方は、テロリストとして。

 もう片方は――


「あ、ところで本部にはいつ戻れそう?」


 ふと、私が本来気になっていたことを口にすると、彼は思い出したようにこちらへ視線を戻した。


「一時間後に分身を送っておく」

「わかった。じゃあ先に魔法省に連絡を取っておくわね」

「了解。こっちが済んだら分身から合図を送るから、駅で集合だ。たぶん、どっちのターゲットもやって来るはずだ」

「分かったわ。作戦の成功を祈るわ」

「ああ。『アトモス逮捕計画』と『ドーラー計画』は、必ず成功させる」


 そう言い残すと、彼はちらりと周囲に目を配り、誰も見ていないことを確認してから、私の前からふっと蒸発した。

 彼の空間転移術(ワープ)は、常人のそれと違って音がほとんど発生しないのが特徴だ。なかなか真似できることではない。


「さてさて、早いところ済ませちゃおっと……」


 今日から色々と忙しくなる。

 そっと独り言を呟きながら、私もくるりと回って、その場から蒸発した。

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