12. はじめの一歩
「これ、か」
白い煙を上げながら蒸発していく怪物の残骸がようやく完全に消滅する。
あれだけ大きかった蜘蛛が死骸を残さずに消えていくのを見ていると、まるでゲームの世界に突然引き込まれてしまったような錯覚を覚える。
まあ、身体の軋みや痛み、完全に上がっている自分の息がこれを現実だと知らせている訳だが。
途中、何かアイテムや牙や眼みたいなグロテスクな素材アイテム的な物を落とすか期待してみたが、残念ながらそんな事はなく、完全に蜘蛛が消滅すると辺りに静寂が戻って見せた。
膝に手を付きながら息を整え顔を上げると、部屋の奥にあった扉がいつの間にやら僅かに開いているのが見えた。
どうやら戦闘中に開いてしまったみたいだ。
「……わんわん!」
足を進めようとすると鳴き声が聞こえ、あの犬が扉の向こうから顔を出した。やはりあそこに居たのか。
そう言えば戦闘中はあの犬の鳴き声を一切聞かなかったような気がしてきた。
気がしてきたと言うか、それが確信になりつつあった。いや、確信になった。
何だあの犬。
「ま、まって!」
あの犬には、絶対に何か秘密がある。
多分、今まで通り普通の生活をしていたら全く気が付かなかったかも知れない。
でも魔法で人の家のテレビを吹っ飛ばす宇宙人やトラックのサイズの蜘蛛などが出てきてしまったような環境で、たまにやる気のないような鳴き声で吠える様な犬なんて疑えと言っているような物では。
「わーんわん!」
非難の目を向けると、その犬は何と言うかめんどくさそうな、通常の犬なら間違いなく浮かべる事の無い表情を浮かべて走り去っていく。
こいつ絶対何か裏があるだろ。人が変身しているとか。
疑いの目をかけつつも、慌てて僕が痛い腕を抱えつつ扉を抜けるとすぐに小さな部屋に出て、そこにあった見慣れない装置が目に飛び込んできた。
「……これは何?」
白い装置だ。
床には金属で出来た円形の台みたいな物があり、その真上の天井にも同じような形をした物がくっついている。
「わーんーわん!」
僕が犬にそう問い掛けると、その犬は怪しい装置に乗り、こちらをチラリと伺った。
「わっ!」
次の瞬間、その犬は一瞬白く染まると、バシュッ!と大きな音を立てながら忽然とその姿を消した。
その様子に戸惑っていると、その白い装置と繋がっている機械を見つけ、それに付属されていた小さな液晶画面を僕はのぞき込んだ。
その液晶画面には『リンク先:X-CATHEDRA 本部 1F』と書かれていた。
「えくす……きゃっとへっどら……? なんだこれ」
もしかしてこれは映画とかゲームに出てくる、いわゆる転送装置って奴だろうか。
もしそうだとしたら凄い。SFチックだ。魔法どこ行った。
銃が置いてあった時点で、ん? とはなっていたが、どうも魔法世界は僕の考えているよりも科学的な何かが発展している世界らしい。
剣と魔法の中世ヨーロッパ的な物を想像していたのだが、翌々考えてみたらその魔法を僕に教えてきた奴宇宙人だった。
大前提から色々と間違っているなこれは。
「……おーい」
呼びかけてみたが、あの気の抜けた声を出す犬は帰ってくる気配がしない。どうやら僕も乗らないといけないみたいだ。
「……」
意を決して乗り込むと、一瞬にして目の前の風景がドロリと溶けて行き、黄緑色の世界に変わっていく。
世界がサイケデリックな黄色と緑の世界になり切ると、次にその色が薄まり新たな世界へと変化していった。
この転送装置は一体どういう構造なんだろう。
「……ここは」
転送装置みたいな物こそ色やサイズは変わらない。
しかし僕の目の前に広がる風景は、たった今まで居たはずの薄暗い廃墟の地下室などではなく、まるで東京ビックサイトや幕張メッセみたいな広大で開けた空間であった。




