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魔法使いは銀河を駆ける  作者: 星キノ
第一章~Start~
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10. 巨大蜘蛛と魔法の銃

「な、何だコイツ!?」


 そう口にしたそばから、巨大な怪物の口から真っ赤な糸の束が放たれた。


「う、うわっ!」


 反射的に避けたものの、僕がほんの数秒前に立っていた場所は爛れ、焼けたゴムの様な異臭を放っていた。


「これは……マズいでしょ……」


 どう言う訳か僕はどんどん冷めていく。

 危険だと本能的に感じると、僕はひとまずそこら辺に在った像の影に隠れた。

 その間にも赤い糸は飛来し、ジュージューと物を焦がすような音が広間の中でこだました。


「……」


 あの糸に当たると死ぬ、それは分かった。

 でも何でこんな化け物がこんな屋敷に?


 今までの取り壊し計画で、誰も気付かなかったのだろうか。そんな筈はないだろう。あんなに目立つのに。


 とりあえず手に取った銃を調べ、弾丸がどれだけ入っているかを確認しようとした。


 しかし、直ぐにこの銃がおかしいことに気付く。


 この銃にはマガジンを入れられるところがない。

 だからと言ってこれはリボルバーとかを持っている訳でもない。安全装置らしきものがついている気配も無い。

 要するに、パッと見ではただの玩具の銃みたいな物なのだ。


「くそっ……何なんだよこれ……!」


 いっそ引き金を引いてみて試し撃ちでもすべきか。


 いや、でももしこの銃が本当にただのおもちゃなら、その時点で僕は終わりだ。

 ……その場合は適当に銃を蜘蛛目掛けて投げつけて、今入ってきた扉まで逃げよう。逃げられるかは分からないが。


 あるいは、実は弾丸が込められていて、でも1発しかなかったら?

 そう考えると試し撃ちなんてする暇は無い。そもそも中に弾丸が込められている保証はないのだ。

 試し撃ちしてそれで弾切れになったら? それでは意味が無い。むしろ魔物を怒らせて逃げられる可能性をさらに下げてしまうだろう。


 だがもしこれが魔法の銃(・・・・)で、弾が無限に出るようなものであれば?

 そもそも僕は今から魔法世界に行こうとしているのだ。

 この銃が魔法の力を持っていて、火を噴いたりレーザーを出したりする可能性だってある。


 だが、この武器でやはり試し撃ちする暇なんてないだろう。

 それを有るものという前提で動いていたら、それが無かった時の行動がどうしようもない。無理だ。

 保険として考える事すら、しない方がいいだろう。


 そう考えていると歯をカチカチと鳴らす音が聴こえ、慌てて僕は振り返り頭上を見上げた。


「なっ!」


 どうするか思いを駆け巡らせてる内に、怪物が天井へと回り込み、張り付いていた。


 その巨大な図体が視界に入る。


「うわっ!」


 すると怪物がまた赤い糸を吐き出し、僕は今度は石像から離れるように逃げてそれを躱す。

 すると今度はその怪物が尻から糸を出しながら地面に降り、すぐさま白い束を吐き出して、僕の足に巻き付けた。


「しまった、うわっ!」



 その蜘蛛は足に絡みついた意図を確認するや否や、前足2本を使って器用に糸を手繰り寄せ始めた。

 突然足を引っ張られ、僕は転びそのまま引きずられ始めた。

 マズイ。このままでは喰われる。


「や、やめろ!」


 もうやるしかない。

 銃を信じるなら、今しかない。


「どうだ!」


 縋るような思いでトリガーを引くと、見慣れない青白い光が銃口より放たれ、そのまま蜘蛛の頭に吸い込まれるように命中する。

 その瞬間その化け物は大きくのけぞりながら甲高い鳴き声を上げ、もだえ苦しみ始めた。


 いける。

 これは魔法の銃だ。


「いっけぇーッ!」


 ひるんだ隙に再び狙いを澄ませ、一際強く念じると、次はそれに比例し大きな弾丸が放たれる。


「ギギッ……!」


 見るからに威力のありそうなその弾は、化け物の目と目の間に深々と命中すると小さな爆発を起こした。

 更に高い鳴き声で巨大な蜘蛛は叫ぶと、激しくのたうちはじめ、やがて白い光に包まれた。


「ギ、ギ……ギィーーッ!」

「うわっ!」


 次の瞬間。凄まじい爆風があたりを薙ぎ払った。糸の絡みついていた僕の足が浮かされて、壁に叩き付けられる。


「うっ!」


 叩きつけられた瞬間、自分の腕から、嫌な音が聞こえ、ブランと力が入らなくなってしまった。しかしそれを気にする間もなく、その化け物は爆ぜ散り、辺りに肉片をアチコチに飛ばした。


 暫く茫然自失で立ち尽くして、今起こったことを改めて考えた。

 巨大なクモが廃墟の地下に居て、どうやら僕はそれと交戦したらしい。どういうことだ。

 こんな事をするとは全くもって初耳だ。話に聞いていないぞ。


「わんわんーわーんーわっんー!」

「あ、犬!」


 怒りみたいなものが込み上げて来たその時、あの胡散臭い鳴き声が扉の奥から発された。

 そこで僕はそもそもここまでやってきた本来の目的を思い出す。


 ……あの犬、いままでどこにいた。



「行かなきゃ」


 依頼の最中だ。あの犬を追いかけないと。

 重い足をあげて、進む僕だった。

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