102. リーグと言う男
「が.......はっ.......!」
「当然だが、僕の組織に裏切り者は不要だ」
刃が一気に引き抜かれると、プライスの腹部から一気に血が噴き出し彼女は倒れた。腹部を抑えているが、血がとめどなく流れ水たまりのようになって行く。
「プライス!!」
近寄ろうとした瞬間、プライスが此方を強い眼力で制止する。
「だ、め.......」
「プライス!?」
彼女の口からも、タラりと一筋の紅が流れる。
しかし彼女はそれでも目と言葉で僕に近寄るなと語り掛けた。
「.......逃げな――」
彼女は言葉を言い終える事はなかった。何故なら直後、彼女の体に衝撃が走り、白目を向いて沈黙したからだ。
「プライ―ー!!」
彼女の胸から鉄の塊が新たに出現したのだ。
それがなにか、それが誰の仕業だったのか、何故そうなったのか、状況を理解するのに脳が追い付かない。
彼はそれを引き抜くと、新たな噴水が湧き出る
そして彼は徐にハンカチを取り出し剣を拭き始めた。
「実に勿体無いな」
剣を拭き取ったあと、彼は魔法を使いハンカチの血糊を消し去る。何事も無かったかの様にハンカチを仕舞うと、剣をそのまま納めた。
「良い人材だった。伊集院に洗脳されてなければだが」
「【ウインドブーマー】!!」
風の大砲を放つと、リーグと呼ばれた人はそれを詠唱もなしに容易く弾いて見せた。
この人、強い。
「遅かったか」
足音が聞こえると、後ろから見知った男の声が続いた。伊集院くんだ。
「遅かったよ」
茶化すように目の前の男が伊集院くんに声をかけた。
「これはこれは。ルナティック総帥のリーグ様じゃありませんか」
「えっ」
伊集院くんがいつもの薄い笑みを浮かべると、突然そんなことを言った。
「元気そうだな」
「おかげさまで」
「それで、二頭を追うものは二頭得ることは出来たのかな」
「もちろん。俺は失敗しないんだよ」
「ほう」
伊集院くんが僕の元まで歩み寄ると、そのまま僕の前に出てさりげなく僕をリーグの視界から守るように立った。
それほどに強い男なのだろうか。
「まあ、君がここに来るのはさすがに予想外ではあった。プライスを失ったのは痛手だ」
「君の人を人と思わない、消耗品のように扱う態度が俺は昔から大嫌いだった」
「我が社の大切な人材を容易く破壊する君にそんなこと言われたくないね」
「スパイを利用して我が社の大切な資産を破壊する奴がそれを言うか?」
「反社会的勢力がどの口でそれを言うんだか」
よくこなとやっている意味の無い会話。
それをこなしながら伊集院くんは自然な動作で腕を後ろに回すと、リーグの死角に入った途端にその手に魔法陣が幾つも浮かび上がっては消えて行く。
「さて彗、撤退の時間だ」
「え?」
まるで点滅しているようにも見える手のひらが急に発光しなくなると、彼は振り向いて僕に笑顔で語り掛けた。
「リーグに幾つかデバフ系の呪い掛けてこの部屋にも受動型の呪いをばらまいたが、長くは持たない」
「ああ、通りで身体が重いわけだ。だがそうは問屋が卸さないぞ」
リーグが言い終わるとほぼ同時に、紫色の炎がプライスの骸から燃え上がる。
「そうか。お前、契約してたな」
「そうだ。ファントム、補佐しろ」
「仕方ありませんね」
かつて火山で1度だけ対峙した、悪魔のような者が炎から現れる。
ファントムだ。
「伊集院!」
時を同じくして、もう1人が廊下を走ってくる音がした。イエローさんだ。
「ほう。AAAAの副長Yか。業務提携する計画は確かに潰したはずだが.......」
「誠意を見せたらZは許してくれたよ」
「誠意?」
イエローさんがリーグを睨み、すぐ様ガンソードを取り出した。彼は無言でリーグとファントムを交互に睨み、警戒しているようだった。
「袖の下も勿論渡したが.......やっぱり俺って人望が有るじゃん?」
「ほざけ。どの口が反社会的勢力なんて吐かす」
強い嫌悪感が彼の口をついて出ると、リーグが剣を構えた。戦う気だ。
彼から闘気の様な物が湧き上がり、僕達のいる部屋を瞬く間にそれが包み込んで行く。
「この宇宙を護り監視する上では必要な事だ。これにはAAAAも同意済みだ」
「どうかしている。お前らこそこの宇宙を崩壊に導く者だ!」
リーグは怒りに満ちた声でそう叫ぶと、僕達の周りにある空気が変化する。
空間の閉鎖もしていなければ逃げれるはずなのに、空気がまるで壁のように圧縮されていき僕達の逃げ場を塞いでいくような感覚が僕達をおそう。
「君がそう思っているヤツらを止めるために、僕達と同じような行動を取っている時点でそんな事を言われてもね」
イエローさんが体中に電撃を纏わせ、ガンソードを展開する。
「ファントム!」
リーグの怒号にも似た指示が飛ぶ。
「お前はそこの地球人を相手しろ。俺は.......この2人を始末する」
「承知しました」
その一言で、ファントムが僕と向き合った。
僕はこの亜人を相手に勝てるのだろうか。
悪魔の頭部の様な物が宙に浮いており、その左右には五本指の手が浮いている。
頭部からは細い糸のような尻尾が垂れ下がっており、その尻尾の先には巨大な曲刀がぶら下がっている。
火山でも見た風貌だ。
「行くぞ.......」
そして僕たち全員はそれぞれぶつかる。
僕はプライスのためにも、ここで勝たなくてはいけない。




