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裏野ドリームランドの怪  作者: 高山 由宇
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第8話 鏡の間のいれかわり

 私は、目の前の光景に驚いた。なぜなら、ジェットコースターが走っていたからである。

 それは、先ほど乗ったものとは明らかに違っていた。大きくて、急降下、急旋回もできるらしい。まさに、絶叫系アトラクションだ。名物と言われるに相応しい佇まいであった。


「そうか。この遊園地には、ジェットコースターがふたつ存在したのか」


 閉園は近そうだが、雨が強まる中、ここにはまだ何人かの客がいる。1回ぐらいなら乗れるだろうかと思い、そのジェットコースターへと近づいたところで呼び止められた。


「それには乗らないで」


 ここまでくれば振り向かなくともわかる。


「どうしてだい、蓮君?」


 私は振り向きざまにそう尋ねた。


「どうしてもだよ」

「君は、どうしてこうも私の前に現れるのかな。これは、本当に偶然なのかい?」

「……」

「それに、やってはいけないと言って私の行動を制限しようとするけれど、それがなぜなのかは1度も言ってくれないんだね」

「でも、やらない方がよかったでしょ?」


 ドリームキャッスルでの出来事が、私の脳裏をよぎった。


「あなたが僕の言うことを聞いて地下へ下りなければ、そしてあの扉を開かなければ、あの人が目覚めることもなかったんだ」

「あの女の人は、一体誰なんだ? 君は、あの人を知っているのかい? 彼女は、なぜ私を襲うんだ」

「…あの人は、とても悲しい人なんだよ」

「悲しい…?」

「さあ、行こう」


 蓮が私の腕を引いた。


「行くってどこへ?」

「とにかく、僕についてきて」

「待ってくれ、蓮君。私は…」

「もう、待てないんだ!」


 それは、私が聞いた中でもっとも大きな連の声だった。

 その時、風向きが変わった。突然強まった風雨に吹かれ、手にした傘が上空に舞い上げられてしまった。


「あっ…!」


 傘を目で追う。


「ダメ! 振り向かないで!」


 蓮が叫ぶが、もう遅かった。私は、見てしまったのだ。

 傘を追って振り返った先には、あの女が立っていた。抜き身の短刀を手にした黒ずくめの女。そして、先ほどまでジェットコースターに夢中になっていた子供たちも、いつの間にか動きを止めてこちらを凝視している。そしてみな、その目には憎悪の炎を滾らせているのだった。

 ぞくっと、ただならぬ悪寒を感じた。

 逃げなければいけない…そう思うのだが、彼らの目に射止められてしまったようで、私の足は思ったように動いてはくれなかった。そうこうしていると、短刀を携えた女が私の方へとにじり寄ってくる。

 私は呼吸をすることすらも忘れ、まるで陸に打ち上げられた魚のように口をただぱくぱくとするだけであった。


「走って!」


 そんな私を見かねたのだろうか、蓮が私の腕を力強く引いてくれた。そのおかげか、金縛りが解けたように私の足も自由になる。その後、私は蓮に引かれていた腕で逆に蓮の腕をつかむと、ただがむしゃらに走った。

 走って、走って、走って…その先にあった扉に飛びつく勢いで開ける。そして、中に入って扉を固く閉ざした。


「…蓮君、大丈夫かい?」


 息を切らせながら隣の蓮に尋ねるが、返答はない。蓮は周りの風景に目を奪われているようだった。

 そう言えば、何も見ずにこの部屋へと入ってしまったが、ここは一体どこなのだろうか。少しばかり落ち着きを取り戻した頭で思うと、私は顔を上げて周りを観察した。


「ここは…」


 思わず声が漏れる。周囲一面に鏡が張り巡らされていて、とても幻想的な雰囲気を醸し出していたのである。


「ミラーハウスか…」


 私はつぶやき、視線を目の前へと戻した。そこで、はっとした。鏡の中に映っていたのは、なんと私ひとりだけであったのだ。


「なんで…」


 私の隣には蓮がいる。そして、彼の手を今もしっかりと握っている。それなのに、彼の姿は四方八方に張り巡らせれたどの鏡にも映り込まないのであった。


「蓮君、君は一体…?」


 そう言いながら、私は隣にいる蓮に向き直った。激しい風雨の中を走ったせいか、蓮は被っていた巨人の野球帽をどこかへとやってしまったらしい。そこで、私は初めて蓮の顔をまじまじと見た。


「ああ…蓮…そうか」


 唐突に私は理解した。そして、鏡の中の自分を再度見直す。


「違う。これは、俺じゃない…!」


 そう言い放った時、男の高笑いが部屋中に轟いた。それとほぼ同時に、よく知った男の姿が鏡の中に映し出されたのである。それは、中肉中背のどこにでもいるような平凡な顔立ちの青年であった。そう…私の夢に1ヶ月もの間出てきた男だ。だが、私は、この男をそれよりもずっと以前から知っていた。


「ようやく戻ってきたか!」


 鏡の中の男が言った。


「お前は、仁木…。仁木直人だな?」


 確信を持って尋ねる。すると、鏡の中の男はそれに答えるでもなく、ただただ下卑た笑い声を上げ続けていた。

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