第4話 事故を呼ぶジェットコースター
ドリームキャッスルを出てから間もなく、楽し気な悲鳴が聞こえてきた。声を頼りに歩く。ほどなくして、眼前にジェットコースターがその姿を現した。
「そういえば、ここの名物はジェットコースターだったな」
-事故を呼ぶジェットコースター…。
裏野ドリームランドのジェットコースターに乗った人々の多くが、何かしらの事故に見回れたらしい。
私は、ジェットコースターを見上げる。だが、正直なところ、このジェットコースターの名物たる所以が私にはわからなかった。
大きさは一般的なものか、もしくはやや小さくも見える。動いているところを見ても、急降下するわけでもなく、急旋回するわけでもない。幼い子供でも楽しんで乗れるようなもので、絶叫系アトラクションとしては物足りないのではないかと思えたのだ。
「乗ってみれば、なにかわかるのかもしれないな」
私は列に並び、それに乗り込んだ。
がたがたがたと音を立てて動き出す。上っている途中、背後できゃっきゃという子供の声が上がった。私は冷めた頭で辺りを見回す。ジェットコースターに乗っているのも、下で並んでいるのも、10歳かそれ以下ぐらいの幼い子供が中心であった。
—ジェットコースターが名物というのは、なにかの間違いだったのかな。
そう思いながら前に視線を戻すと、最前列にあの男の子が座っていた。巨人の野球帽を被るその姿は、あの男の子に違いなかった。
背後から大きな悲鳴が上がった。男の子に気をとられている間に、ジェットコースターが下りはじめたのだ。
汗ばんだ肌に心地の良い風を受けて下って行く。その動きは、実に緩やかなものだった。それでも、背後からは幼い子供たちの悲鳴が耳をついた。
-あれは…?
幼い子供たちと同じような感動を得ることができなかった私は、何気なく下の方に目を向けた。私が先ほどまでいたドリームキャッスルが見える。その扉が、わずかに開かれたのだ。
中に人がいたのだろうか? 私が出てきた時には誰もいなかったはずだ。
その扉から、髪の長い人影が出てくるのが見えた。遠目で顔まではわからないが、細身の体形からおそらく女だろうと思われた。その女が、こちらを見た。
いや、そんなはずはない。ただの勘違いだ。だが、なんとなく、見られたような気がしたのだ。
女に気をとられているうちに、ジェットコースターは何事もなく無事に終点に辿り着いた。2分の所要時間中、山もなければ谷もない。本当に何事も起こらなかった。
少しばかり拍子抜けしながら最前列に目を向ける。
そこに男の子の姿はすでになかった。