第2話 消えた子供の怪
門をくぐると、外で聞いていた時よりもはるかに賑わっているのがわかった。
きゃっきゃっとはしゃぐ声に、遠くから、ジェットコースターの走る音とともに叫び声も聞こえる。そして、元気に駆け回る子供たち。
私は、ふと七不思議のひとつを思い出した。
-消えた子供の怪…。
あれは、新聞記事やインターネットの情報によると実際にあった話だという。
消えた子供たちは、おそらく誘拐されたのだろう。当時、警察もその見方を強めて捜査していたらしい。しかし、犯人がまったく浮かび上がらず、誘拐事件と断定できなかったようだ。
ただ確かなことは、事故もそうそう起きそうにない遊園地という空間で、3人の子供たちが相次いで忽然と姿を消したということだけである。
園内のベンチに腰を下ろしてひと息つく。バス酔いもだいぶ落ち着いてきた。
なんともなしに周りに目を向ける。さまざまなアトラクションに目を輝かせている子供たちと、それを微笑ましく見つめる大人たちが行きかって行く。そんな中、ふと視界をよぎったものに、なぜか心がざわめいた。
男の子だ。
背丈は私の太股くらいだろうか。半袖に半ズボン、巨人の野球帽をかぶっている。周りに保護者らしき人は見あたらない。彼は、ひとりでそこにいたのだ。そして、なにをするでもなくただこちらを見つめている。
「きみ…」
私が声をかけようと立ち上がると、ふいに男の子は私から目をそらし、背を向けた。そのまま園の奥へ歩いて行こうとする。
「待って」
私は追いかけた。誘拐事件があったと噂されている遊園地で、子供がひとりでいるのは危険だと思ったからだ。それに、見た目では彼は10歳ぐらいだ。そして、この遊園地でいなくなった子供たちも10歳ぐらいだという。
男の子が歩き出してすぐに、私は彼を追った。間もなく追いつき、彼を保護できる…そう思っていた。だが、どういうわけか追いつけない。
走って走って、手を伸ばせば届くという距離まで追いついたのだが、いざ手を伸ばすと男の子の体はするすると遠ざかり、また私との間に距離を持った。だが、彼が走っている様子はない。ゆったりと歩く男の子に、私は全力で走っているにも関わらず一向に追いつくことができずにいた。
追いつく寸前で離されるという不思議な追いかけっこを3度繰り返した時、私は完全に男の子の姿を見失ってしまった。
私の脳裏に「誘拐」の文字が浮かぶ。
しかし、私は男の子をずっと目で追っていた。片時も目を離してはいなかった。それが、どういうわけか、忽然と私の視界から姿を消したのである。
そう…忽然と…。
私は、得体の知れない寒気に襲われながら、ただ呆然と男の子の消えた方を見つめていた。