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雨の音が、白く無機質な診察室に不気味なほど静かに響いていた。
「……残り、およそ三年半です」
医師の淡々とした声が耳を通り抜ける。手渡された診断書と、もう片方の手に握りしめられた豪華な羊皮紙の封筒。そこには金色の箔押しで、こう刻まれていた。
『スピネル様 魔法学院エレキトリーネ 入学許可証』
世界最高峰と謳われる魔法の頂。そこを無事に卒業した者は「魔法に選ばれし者」として、栄光と絶対的な権力を手に入れることができる。
僕、スピネルは魔法が使えた。
学院の入学式は半年後。そして、卒業までに必要な期間は通常、4年。
計算は、残酷なまでに簡単だった。普通に通えば、卒業を迎える前に命は尽きる。
だが、この世界は徹底した実力主義だ。飛び抜けた才能と実力さえ示せば、最速で3年での早期卒業が可能となる。
(3年で卒業すればいい。僕ならできる。だって僕は――)
その時の僕は、自分が特別だと信じて疑わなかった。平民の身でありながら卓越した魔法を操る自分を、まるで物語の「ヒーロー」であり、誰もが羨む天才なのだと本気で錯覚していた。魔法に魅入られたこの世界の「主人公」は、自分なのだと。
だから、諦めるという選択肢を捨て、茨の道へ飛び込んだのだ。
だが、現実はあまりにも冷酷だった。
エレキトリーネの門をくぐった僕を待っていたのは、真の天才たちが蠢く魔境だった。平民の「ちょっとした才能」など、名門貴族の血統や途方もない努力の前には、塵ほどにも役に立たない。
身を削り、夜を明かして魔導書を読み込み、血を吐く思いで魔法を練り上げても、トップとの差は開く一方。焦りと恐怖で擦り減っていく心身。残り少なくなっていく寿命のタイムリミットだけが、確実に僕の首を絞めていく。
「あの時、諦めるべきだった……」
震える自分の手を見つめながら、僕は何度も後悔を噛み締める。
あの時、自分を平民でも魔法が使えるすごいヤツだと思わなければ。
あの時、自分をヒーローだと思わなければ。
あの時、自分を才能溢れた天才だと思わなければ。
あの時、自分は魔法に魅入られた存在だと錯覚しなければ。
あの時――自分をこの世界の「主人公」だと思わなければ、良かったんだ。
そうすれば、こんな思いをしなくてよかったのかもしれない。
どうして僕は、もっと早く諦めることができなかったのだろう。
僕は嘲笑うかのように輝くエレキトリーネの校章を見上げていた。




