第1話
斬馬刀、ツヴァイハンダー、クレイモア、エストック、ハルバード、デスサイズ、和弓、長巻、対物ライフル、ミニガン……やっぱり、でっかい武器というのはカッコいい。
そして、自分の身長よりも大きな武器を振り回すキャラは、めちゃくちゃカッコいい。
しかも、そのキャラが女の子で、小柄で、でか武器なんてとてもじゃないが振り回せそうにない見た目だったとしたら?
最オブ高だ。
ロマンだ!
そう、『でか武器幼女』こそが、この世で最もカッコいい存在なのだ。
でっかい武器にちっこい幼女って、やっぱ最高だよな!
「ぐへへへへ……」
モンエナをストローで飲みながら夜な夜なモニターにかじりつく俺は、限界社畜のアラサー独身男性。
乾ききった人生に辟易している俺の唯一の楽しみは、でか武器幼女をキャラクリして鍛えることだ。
でか武器幼女だけが俺の人生における潤いであり、すべてなのだ。
そんな俺は今日も今日とて、人気MMORPGでちっこい幼女にでっかい武器を持たせて遊んでいる。
『バトル・アーツ・オンライン』。
プレイヤー人口数万人とも言われる、大人気ゲームだ。
剣と魔法の中世ヨーロッパ風世界で、
冒険者として名を馳せてもいいし、
商人として儲けてもいいし、
騎士として成り上がった領土を手に入れてもいいし、
暗殺ギルドに入ってPKに明け暮れてもいい。
バトル・アーツ・オンラインは自由度の高さが売りのゲームだ。
中でも王道プレイは、冒険者として様々なクエスト――主にモンスター討伐――に勤しむというものだろう。
画面の中を歩いているのは、金髪赤眼の斬馬刀幼女。
そう、斬馬刀だ。
中国や日本にあった、戦場で馬ごと敵を屠るために用いられたどでかい武器。
まぁ実際には歩兵が馬上の敵を突き刺したり、馬の足や尻をチクチクするための武器であって、『馬ごと敵を斬る』というのは伝説とかフィクションのお話なのだが。
そして、そんな斬馬刀を持つのは幼女だ。
俺が作ったでか武器幼女は、名をアリス・アリソンという。
身長120センチばかりの小さな体と、美少女顔と、腰まで届くサラサラの金髪を持つ、俺の『癖』の粋を集めた見た目をしている。
貴族顔負けの可憐な顔立ちのくせに、装備は使い込まれた革鎧なところも渋くてよき。
そんなアリスが引きずっているのが、でか武器の代表格・斬馬刀。
刀身150センチ、柄も合わせると200センチにもなる超巨大武器だ。
「ぐへへ、カッコいい」
ちっこい幼女が、身長よりも長い武器を扱うというシチュエーションは、やっぱり最高にカッコいい。
「でか武器幼女、やっぱいいなぁ。こうして愛でてるだけじゃ我慢できない。俺自身がでか武器幼女になりたい! 早くフルダイブ型のバトル・アーツ・オンラインが発売されんかな。発売されたらアリス・アリソンの中に入って、こう、斬馬刀をずばっずびゃびゃっと」
勢いよく立ち上がったそのとき、俺は強いめまいに襲われた。
いかん、日頃のハードワークが祟ったか!
姿勢を正そうとしたが、床に落ちているビニール袋を踏んづけてしまい、致命的に足を滑らせてしまった。
机の上に置いていた、おつまみの冷奴が視界いっぱいに広がる。
やばいっ、豆腐の角で頭をぶつける――……
◆ ◇ ◆ ◇
……。
…………。
……………………?
気がつけば俺は、見知らぬ往来のど真ん中で突っ立っていた。
あれ? 俺、どうなった?
さっきまで自室にいたはずじゃ?
「邪魔だよ、嬢ちゃん」
「うおっ!?」
見知らぬ相手に話しかけられて、俺は思わず飛び上がってしまった。
その相手というのが、トカゲ人間だったからだ。
トカゲ人間が顔をしかめた。
「なんでぃ、リザードマンなんざ、この街じゃ珍しくもないだろうに」
軽い悪態とともに、トカゲ人間が去っていく。
「な、なんだ今の……って、えええええっ!?」
俺は仰天する。
路行く人々の姿が、ことごとく異様だったからだ。
犬耳、猫耳、エルフ耳、普通の耳の人々。
白人、黒人、褐色肌、緑色の肌、モフモフ毛皮肌の人々。
洋風の顔、和風の顔、トカゲや犬や猫や豚など様々な人外の顔の人々。
まるで異世界ファンタジー世界に迷い込んだみたいだ。
ここは渋谷のハロウィンか?
いや、ここは関西某市で、今は真夏のはずだ。
なのに、肌を撫でる風は少し肌寒い。
そもそもこんなヘンテコな街、見たことがない。
そう、何もかもが変なのだ。
ファンタジーみたいな様々な人種、ファンタジーみたいな武器を携えた人たち。
道を通るのは自動車ではなく馬車で、空では小型のドラゴンや箒にまたがった人たちが飛び交っている。
こんな街、見たことがない……いや、なんだか見覚えがあるぞ。
「まさか……ここ、バトル・アーツ・オンラインの中か!? いや、でもフルダイブ型の発売はまだ何年も先のはず。もしかして、実はあの晩から数年が経っていて、俺は記憶を失ってしまった、とか? いやいやいや、おかしいだろ。ラノベとか漫画みたいにゲーム世界に転生しちゃいました、ってほうがまだ信じられるわ」
……ん?
なんか、俺の声が可愛い。
声変わり前の声、いや、女性の声、もっと言うと『幼女の声』のような。
そんなことってある?
それに、なんだかずいぶん、視界が低いような……。
「えええええっ!?」
窓ガラスに写った『自分』の姿を見て、俺は愕然となった。
「俺じゃない!」
これ、俺がキャラクリしたでか武器幼女キャラのアリス・アリソンだ!
俺が、俺自身が金髪赤眼の美幼女になってる!
「いやいや、おかしいだろ」
何かがおかしい。致命的におかしい。
まさか本当に、ゲーム世界に転生したなんてことはないよな?
とにかく、この状況から脱しなければ。
「ログアウト! ゲーム終了! EXIT! 緊急脱出! ベイルアウト! メニュー表示! ウィンドウオープン!」
それらしい言葉を口にしてみるも、何もでてこないし状況は変わらない。
もしかして俺、一生ゲームの中から出られないのか?
どうしよう……どうすれば……
「……………………いや、どうもしなくていいのでは?」
現実世界に戻れたとしても、待っているのは残業まみれでギスギスしている職場と、ゲーム以外には楽しみのない寂しい人生だけだ。
俺には恋人も配偶者も、ましてや養うべき子供もいない。
両親にはまぁ、ちょっと申し訳ないなと思うが。
だが、「自分の面倒は自分で見るからね。その代わり、遺産はびた一文遺さないからそのつもりで」と笑顔で言い切るパワフルな母と、そんな母を苦笑しながら支える優しい父なので、俺がいなくても難なくやっていくことだろう。
一方のここは、俺の大好きなバトル・アーツ・オンラインの世界だ。
しかも、夢にまで見た『俺自身がでか武器幼女になる』という最っっっ高のシチュエーション!
アリスは冒険者キャラであり、モンスター討伐などのクエストで日銭を稼ぐことができる。
「そういえば、斬馬刀は?」
俺――冒険者アリスは今、愛刀の斬馬刀を装備していない。
あれはでかいだけでなく、攻撃力もカンストしているレジェンド武器なのだ。
あれがあるとないとでは、今後の冒険者人生の難易度がダンチである。
「携えていない。ってことは――【アイテムボックス】!」
試しに詠唱してみたところ、目の前に時空の裂け目のようなものが発生した。
「おおっ、やっぱり」
【アイテムボックス】はファンタジーゲームの定番、アイテムをプレイヤーの専用空間に収納しておく魔法だ。
プレイヤーが大量のアイテムを持ち運ぶことが可能であるという矛盾を解消するための、メタ的な解決方法とも言う。
ただ、バトル・アーツ・オンラインにおける【アイテムボックス】は設定がシビアで、容量無制限というわけではなく、プレイヤーのMPによって容量が決まる。
俺はレベルアップ時のステータスアップボーナスを『とあるステ』に全振りしているため、MPは必要最低限しか持っていない。
必要最低限――そう、斬馬刀一本分の容量だ。
必要なMPは、ぴったり100ポイント。
俺は時空の裂け目に手を突っ込み、斬馬刀の柄をつかんだ。
そうして、ぐいっと引っ張り出す。
ずるり、と刀身が出てきた。
「うおっ!?」
「嬢ちゃん、ゴツい武器持ってんなぁ」
「でかすぎだろ。振れるのかい?」
路行く人々の中でもガタイのいい人たち――冒険者たちが、驚きの声を上げた。
そりゃそうだろう。120センチの幼女が、200センチの武器を取り出そうとしているのだから。
ずるりずるりと刀身が現れていき、ついに完全に外に出た。
とたん、
「うおおおおっ!?」
――ズドーンッ!
俺の腕力では保持しきれず、斬馬刀が落下した。
刀身が地面にめり込む。
亜空間から完全に出たことで、【アイテムボックス】による重力軽減効果がなくなったからだ。
斬馬刀の重量は、実に20キログラム。
俺――アリス・アリソンの体重とほぼ同じである。
到底、振れるわけがない。
「ぐぎぎぎぎ……」
俺は斬馬刀を引きずって歩こうとする。
重さと一緒に、肌感覚が――現実感ってやつが襲いかかってきた。
俺、マジでゲーム世界に転生しちまったのか。
いやー、これはマジだわ。
この重さは、この負荷は、マジ。
だが、俺はいまいち深刻になりきれなかった。
「うははっ、実際に持ってみると死ぬほど重いなコレ!? 楽しくなってきた!」
なぜって、この世界で斬馬刀を振るい、身を立て、名を上げていくという圧倒的ワクワク感のほうに心を持っていかれていたからだ。
どうやって体重と同等の刀を振り回すつもりかって?
んっふっふっ、実は俺には秘策があるのさ。
だが、この重さじゃ引きずって歩くのも無理そうだ。
【アイテムボックス】に収納すれば持ち運べるが、斬馬刀を収納するためには取り出したときと同じ100ポイントのMPが必要になる。
そして、俺の最大MPはぴったり100。
MPは1秒で1ポイント自然回復するので、あと70秒ほど待機する必要がある。
「ふー……」
斬馬刀の柄に腰掛け、物思いにふける。
このゲームはレベリング制かつステ振り制で、レベルアップ時に好きなステータスをアップさせることができる。
MPにもっと振れば連続で斬馬刀を出し入れすることも可能になるだろうが、俺は『とあるステ』に全振りすることに決めているので、MPにレベルアップボーナスを振りたくない。
結果、アリス・アリソンという超ピーキーなキャラが出来上がったわけだ。
閑話休題。
「どうすっかなー、これから」
そう、これからのことを考えなければならない。
とりあえず、ダメ元で元の世界に戻る方法も探すだけ捜してみよう。
だが、目下の目標はこの世界で自活することだ。
つまり、金が必要になる。
懐やポケットをまさぐってみたが、数十ゴールドしか入っていなかった。
宿に一泊して豪華な食事をしたら、それだけでなくなってしまう程度の額だ。
すぐにも仕事を見つけなければならない。
「仕事、仕事ね」
アリスは冒険者キャラだ。
冒険者の仕事と言えば、モンスター討伐などのクエストだ。
クエストを受けることができる場所と言えば、
――ピコンッ
MP回復の通知音が脳内に響いた。
ゲーム時代にもあった機能だが、便利だな。
ん? ゲーム時代の機能が存在するってことは、もしかして、
「ステータスオープン!」
試しに唱えてみたところ、目の前にウィンドウが表示された。
俺――アリス・アリソンのステータスが表示されているウィンドウだ。
路行く人々には見えていないようだ。
ゲーム時代を知る俺専用の機能――いわゆる『転生特典』ってやつなのか?
何にせよ、アドバンテージがあるってのはありがたい。
ウィンドウを見てみると、MPが100/100になっていた。つまり全回復だ。
そして、全振りしている『例のステ』が相変わらずとんでもない数値になっている。
「こりゃ、お披露目が楽しみだな。よし、【アイテムボックス】!」
――シュンッ
詠唱すると、斬馬刀が消えた。亜空間に収納されたのだ。
俺はうーんっと伸びをして、高らかに宣言した。
「んじゃ、行きますか!」
どこへって?
それはもちろん――




