発表
主演 妃帝露美亜
桃園学園 3年
私はいつからか悪者を演じるようになった。一度演じれば最後。その後はずっと悪者だ。悪者が悪者じゃなくなるためには正義の味方によって打ちのめされる必要がある。上等だ。そいつが目の前に現れるまでずっと悪者を演じてやろうじゃないか。
妃帝露美亜。神奈川県最強と謳われる桃園学園高校3年生。出身中学は女子中学剣道界最強の妃姫学園。強者揃いの妃姫でもレギュラーとして活躍していた人物で桃園学園に入学して間もなく、1年生にしてレギュラーの資格を手に入れた程の実力者。桃色がかった髪の毛と濃いまつ毛が特徴的。
なにがキッカケだっただろう。私が悪者になったのは。いつの間にか、仲間達も私から逃げていった。怖いのか。恐ろしいのか。何故逃げるの。追ってやる。どこまでも、追いかけて、見つけて、追いつめて、聞き出して、連れ去ってやるから。見えないものが追ってくる恐怖にひれ伏せ。
「ろーみあ!どうしたのまた考え事?」
「…」
あーそうだ。コイツだけは逃げなかった。私と真逆の人種。正義の味方だ。一切私を打ちのめそうとしない使えない正義の味方。
「今日部活終わったらサイゼ行こうよサイゼ!あのね昨日のテレビでさー…」
巨悪と勇者が一緒にいる事に、逃げた奴らはどう思うかな。勇者を身限るか。勇者を応援するか。それとも…
「ねー行くの?行かないの?」
「考えておく。」
「露美亜のそれは絶対行かないやつじゃん!」
桜向日葵。桃園学園3年。中学生の頃は無名だったが高校で開花したタイプの選手。金髪のポニーテールでいつもニコニコしたパワフル女子。誰とでも仲良くなれる社交性を持ち合わせている。基本うるさい。
向日葵は高校に入学して初めて出会った人間で、特別仲が良いと言うわけではないが互いに意識して学生生活を送っている。見つけたら何かしらは話すし、雰囲気がいつもと違うように感じたらそっと側に居てあげる、そういう関係である。
今日も何も無い普通の毎日の中の1日だ。そんな毎日の中にも生きている実感を得られる瞬間はある。それは、向日葵と一緒にいる時では無い。剣道をやっている時でも無い。
「アンタそんなんで練習してるつもりなのかしら?もしそんなんで全力なら一生試合なんて出れないわよ?」
「す、すいません。しっかりやりますから許してください…」
これだ。私が悪者を演じている時が1番「生」を実感する。私に怯えた顔で、小動物のように震えながら退いていく彼女達を見るのが。
今日も気持ちがよかった。誰に何と言われようと変えるつもりはない。私を変えて良いのは正義の味方だけなのだから。
「IH予選のトーナメント表が決まった。出場選手にはマークを引いておいたので、各自見ておくように。」
ああそうか。もうそんな時期だった。この大会が終わったらいよいよ引退か。私はこの大会で4シードと言われるシードの中でも有利な位置からスタートする事は決まっている。その権利を得るにはこれまでの1年を通して開催された、「シード権の得られる大会」で結果を残す事が必要とされる。シード権を得る事によって戦う回数を減らすことができる他に、シード権を持った人間と一切剣を交える事なくコマを進める事ができるのだ。インターハイに進める人間は8人。ベスト8に残る事が必須条件だ。つまり私が見るべきなのはベスト8戦で戦う事になる16シードの人間。16シードの人間は前にも戦ったことのある奴だった。あの時と同じようにもう一度恐怖を味合わせてやる。その後に戦う人間は…
「アッハハハッ!何よ!まだ続けてるんじゃない!アッハハハ!笑いが止まらないわ!いいねいいね!楽しくなってきたじゃない!!」
「どーしたの、ろみあ。ご機嫌だね!サイゼ行く気になった!?」
「行きましょう、向日葵!今日は沢山食べられそうだわ!アッハハハハ!」
そこには「麻倉御鈴」。私の相手にふさわしい女の名前。正義を貫く女の名前があった。
ー妃帝露美亜
次回は御鈴が主人公?長編になるかも?