王子様達はお姫様の騎士になる
スヤスヤと眠るセシルを抱きしめながら、父親レオンは息子達を集めて語り始めました。
「父上、先日の魔法はなんだったんですか?」
アランが聞くと、父親であるレオンは答えました。
「いいかい、セシルはほんの少しだけ他の人より神の子に近いだ。神の庭の事を人より多く覚えているだよ。」
「神様のお庭?」
「そう、こないだまでジョゼフも少しだけ神様のお庭の子だったんだよ。でも3歳になったから人の子になりましたよって披露しただろ?」
先日の誕生日会を思い出し、ジョゼフはうなづいた。
「でもね、セシルはね神様のお庭のことを覚えたまま生まれて来てしまったんだよ、だからそれをほんの少し封印して貰ったんだ。」
「神様の庭を知ってるのに封印しちゃうの?」
エドガーが不思議そうに聞き返しました。
「そう、それを知っているとパパ達の子供になれないかもしれないし、神様の元に帰ってしまうかもしれない、最悪なのが悪い人にさらわれちゃう事だね。」
「セシルが、悪い人にさらわれちゃうの?!」
ジョゼフが不安そうに聞けば、優しく頭を撫でて落ち着かせます。
「そう、悪い人に攫われないように、普通の子供のように見えるように封印して貰ったんだ。ただね、それでも全部封印したわけではないから、セシルは少しだけ皆んなと違う事をするかもしれないんだ。」
「違うこと?」
ウジューヌは首を傾げました。
「そう、知らない事を聞いてくるかもしれないし、突飛な事をするかもしれない、そういう時は、ここにはないんだよって優しく教えてあげて欲しいんだ。」
「「??」」
「それと、セシルが話す事は外で話しちゃいけないよ。知らない事だからと教師にも聞いちゃダメだ、もちろん仲のいい友達にもね。どこでセシルが神の子に近い存在だってバレるかわからないからね」
「・・・父上、セシルはいつになったら人の子になれるの?普通の子は3歳で人の子になるんでしょ?ウジューヌもエドガーもジョゼフもお祝いをしました。」
そうアランは父親に問いかけました。
「そうだよ、アラン。さすが私の息子だ。そう、普通はね3歳で神様の庭とのつながりが切れて人の子になる。ただ、結びつきが強い子は、10歳になるまで曖昧な存在なんだ。だから、お兄ちゃんであるお前達が守るんだよ。」
「結びつきが強いとどうなるの?」
エドガーが不安そうに聞きました。
「・・・神様の庭への道を思い出してしまうと、その子は神様の元に帰ってしまうんだよ。」
「そんな、セシルはいなくなっちゃうって事?やだ!」
「そう、だからセシルの記憶をあまり刺激しないで、不思議な事を言ったら、私かお母様にいうんだよ。そしてセシルには他に言ってはいけないと窘めなさい。分かったかな?」
「「はい」」
息子達に説明を終えると、レオンは自分を落ち着かせるように大きく息を吐き出した。まさか自身の子で前世持ちが生まれるとは、思いもしなかったのもある。神様の庭の記憶というのは前世持ちの事を指すのだが、それは子供達が大きくなってから、もう一度セシルと共に教えようとレオンは思った。今は愛娘のセシルが健やかに育つ事を祈るだけだ。セシルは眠りから目覚め、少しだけぐずってから起き上がると、兄達の存在に気づき、一生懸命しゃべっている。
「きゃー!やーあーぅーーあーー」
「セシル、おはよう」
「セシルーお兄ちゃんが守るからな」
「抱っこしていい?」
あっという間に息子達の腕の中に連れて行かれてしまった娘を見つめながら、ふと横に座る気配を感じ振り向けば、長男のアランが座っていた。
「父上、セシルは大丈夫なの?僕、調べました。」
その言葉で、レオンは息子が昨日施して貰った魔法について調べたことに気づいた。我が子ながら聡い子だと思う。
「そうか・・・調べたか。」
「神の庭の記憶は、善にも悪にもなるって。それを封印すると、体にも影響が出るって・・・」
「あぁ、あの子は普通の子より体が弱くなるだろう。だが、記憶を持っていると、私たちの世界に馴染めない可能性もある、そうなると心が病気になってしまうんだよ」
「・・・セシルは、マルディ家の義務を果たせないの?」
「わからん、10歳になるまで様子見だ。その間、アラン。守ってあげられるかい?」
「もちろん、僕は父上の子供だし、セシルのお兄様だよ!」
「ありがとう。」
そう言ってレオンは、息子を抱きしめた。
*
「じょーえー!おむらいす!たべたい」
「おむらいす?」
ジョゼフとウジューヌは首を傾げた。
「ケチャップ!!ハート!!」
「けちゃっぷ?」
ペチペチとウジューヌの腕の中で手を叩くセシルに二人は困惑しながらもセシルに聞きます。
「セシル、おむらいすってなに?」
ジョゼフが聞けば、不思議そうにセシルは首を傾げた。
「ふわほわ、黄色!おいちい」
「食べ物??」
「何言ってるの?」
「わかんないよー」
二人はますます困惑していると、ちょうどそこにアランが入って来ました。
「どうしたの二人とも」
「お兄様、セシルがおかしな事を言ってくるの」
ウジューヌの言葉に、セシルの頬がぷくっと膨らんで怒り始めました。バタバタと手足を動かして、ウジューヌから抜け出せば、アランに飛びつきました。
「おかしくないもん!!」
ちょっと涙目になっているセシルを抱き上げて、アランはよしよしと背中を撫でてあげます。
「そうだね、セシルはおかしくないね。神様のお庭を思い出しちゃったのかな?」
「おいちいの!!たべたいの!」
「そっかー。でもね、セシル。ここには神様のお庭にあった食べ物はないんだ。」
「ないの?」
「そう」
「にゃいにゃい・・・」
しょんぼりとした顔のまま、セシルはアランにしがみつきました。
「お兄様」
「ウジューヌ、セシルが言う言葉をおかしいって否定しちゃだめだよ。」
「だって、変な事いうんだよ」
「ウジューヌ、父上に言われただろ。セシルが僕たちの知らない事を言ったら、それは神様のお庭のことだって。ここにはないんだよって教えるだけでいいんだ」
「はーい」
納得いかないという顔をしながらもウジューヌは返事を返しました。
「ジョゼフも、わかった?」
「うん。」
「僕は、セシルを寝かしつけてくるね。」
ジョゼフがアランに近づくと、静かになったセシルの顔は真っ赤になっていた。
「セシルの顔が赤いよ!アランお兄様!」
「うん。神様のお庭のことを思い出して熱が出たんだよ。あんまり否定すると、余計思い出そうとするから否定しちゃだめだよ。」
アランはそう言いながら、弟のジョゼフの頭を撫でた。
「セシルは神様のお庭に戻っちゃうの?」
父親に言われた言葉を思い出し、ジョゼフは不安そうだった。
「そうならないためにも、優しくしてあげて」
「わかった。」
ウジューヌは相変わらずむすっとしている。入れ替わりにエドガーが入ってくると、二人の様子に首を傾げた。
「どうしたの?お兄様、ジョゼフ」
「エドガーお兄様。セシルがね、お熱でちゃったの、神様のお庭のこと思い出しちゃってね、えっとえっと。アランお兄様がね、ないんだよって教えてね」
ジョゼフが一生懸命説明する中、ウジューヌは背を向けて、兵隊のお人形を並べて一人で遊び始めていました。
「んーとりあえず、セシルはアランお兄様が見てるんだね」
「うん!」
「ウジューヌお兄様は、詳しく教えて」
「しらね」
「・・・」
拗ねている様子の兄にエドガーは、小さくため息をついてからジョゼフと遊び始めました。拗ねたウジューヌは、ほっとくのが一番だだからです。どうせエドガーお兄様に怒られて拗ねてるだろうことは予想がついていました。ウジューヌはアランお兄様が大好きなんです。
ジョゼフとセシルが生まれる前は、アランがエドガーに構うたびによくウジューヌがいじめられていたのです。アランがいなければ優しいのですが、一緒にいるとやはり一番下の子を可愛がるせいか、自分だけの兄が取られたと思ってしまうようです。
「エドガーお兄様、セシルは大丈夫かな?一緒に剣の稽古まだできないの?」
「んー、まだ難しいかもね。」
「いつになったらできるの?」
「神様のお庭のことを思い出さなくなったらかなー。本にはそう書いてあったし」
「本に書いてあるの?」
「うん。ジョゼフにはまだ読むのが難しいやつだけど、書いてあったよ。見る?」
「みる」
エドガーは持って来た本をペラペラとめくりながら見せました。ジョゼフにはさっぱり理解できない難しい言葉で書かれていましたが、挿絵では眠った女の子が神様のお庭に連れ戻されている絵があり、その女の子が可愛い妹のセシルに見えて、ますます怖くなってしまいました。セシルを連れていかせたくないと強く思いました。
エドガーは、読める場所を読んでいる中、神様の庭の事がなんとなく理解できていました。神様のお庭は転生前の世界の知識。同じ世界の場合もあれば、違う世界だったり古い時代のものだったりと様々ある事を知りました。そして、その知識を封じないと神様の庭との違いに慣れず、その世界に馴染めなくなり下手をすると心が病んでしまったり争いごとに発展したりとするそうです。記憶を封じても、その反動で体には様々な症状がでて10歳になるまでは体が弱くなってしまうとも書いてありました。
だから、お父様が10歳まで曖昧なままだって言ったのかっと納得したエドガーは、弟の頭を撫でながら自分もアランお兄様みたいにセシルを守れるかなっと不安にもなりました。
その本には、神様の庭の知識を持つ子供をさらう集団がいるとも書いてあったからです。
「お兄様?」
「セシルは僕たちで守ろうね。神様のお庭の知識を持ってる子供をさらう人たちがいるんだって、ここに書いてある。」
エドガーの言葉に、ウジューヌも振り返りました。
「ほら、お兄様みて」
その言葉に無言で覗き込めば、ウジューヌも眉を潜めました。
「お父様が言ってたけど、セシルのことは、僕たち家族だけの秘密だよ。」
「うん。ぼくも守る!」




