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第二章.28

あの後包囲された2人は流れる様に訓練所へと連行され、怨嗟の籠った指導を受けた。

その時僕は、ボディーガードを強制的・・・に引き受けてくれた邪な目の女性陣に確保される。

うん、ねっとりと絡みつく視線が怖くて頬がずっと引き攣ってます。

今1人でトイレに入ろうものなら間違いなく何かが終わるので割と洒落にならない。


英雄と堅は襲い来る馬鹿たち相手に背中合わせの共闘を選び、実力が高い者は堅が相手をし、数が多い場合とある程度自分で捌けるものは英雄が受け持った。

堅は空手歴15年の実力を遺憾無く発揮し、対人戦はお手の物である。

一応言っておくが武器は無く素手だ。

唯一装備している手甲と足甲はボロボロなので、新品をプレゼントした方が良いかな?

旅人の服だけで真剣を躱し、迫る刃に手甲を当てて往なす様は見ていて非常に怖い。

むしろなんで踏み込めるんだよあいつは・・・・

相手の人も滅茶苦茶苦い顔してるじゃねえか。いつ人間辞めたんだ?


槍の様な長物が相手になると、すかさず英雄と交代するコンビネーションも悪くない。

身長が自分より高い事と、武器によるリーチ差が少し気になっている様な動きだが、あいつは道場の方針で棒術とかも習っているからその辺は大丈夫だろう。

堅の身長や体格は英雄に劣るが、標準体型よりは大きくガッチリとしている。

何で英雄も堅も身体つきだけは僕の好みドストライクなのかと空しくなるが、それは後にしよう。


気になるのは、こちらへ来た当時の自分達と同じように『魔力』という新要素に慣れていない事だ。

基本の動きは良いのだが、攻・防どちらにも上手く魔力を込められていない。

お蔭で通常なら決定打となる当たりがあっても相手は沈まず、完璧なタイミングで受けや払いを行った後でも、殺し切れなかったダメージに顔が歪んでいる。

フロウも混ぜた3人の訓練よりも、こちらの方が最優先課題かもしれないので、後日イヴァンさんに相談しようと決めた。

それに気が付いている周りは、弱点を的確に突いて行く事で戦闘力を落とし、牽制によってカバーに入れない英雄が、徐々に焦って動きの精彩を欠く。

それを何度か繰り返した所で仕上げの袋叩きにあって終了となった。

回復を受けた2人は相手をしてくれた人達と共に反省点を洗い出し、遊びの為に魔力無しの素手勝負を始めたのだが、それが思いもよらない状況を作る。


『殺れぇ、ヒデオ! 傭兵なんかに負けんじゃねえぞ!!』

『ケン、てめえ、冒険者如きに後れを取ったら脛毛の濃い彼氏を紹介するからな!!』

冒険者ギルドの人と、堅をこの街へ連れて来てくれた傭兵ギルドの人が、賭け金の書かれた紙を握りしめながら応援する中で戦っているのだ。

訓練所の一角でボロボロになりながらも素手で殴りあう親友達に熱い激励が送られるのを僕は眺めている。良いなぁ、楽しそうで。

観客たちがだんだんと殺気を纏いだしているのだが、これは収拾がつくのだろうか?


技量で言えば圧倒的に堅が高いのだが、筋肉の鎧に身長と体重が揃った英雄はとにかく硬いのだ。しかも子供時代から何度も手合わせをしてきているので、防御が兎に角上手い。

結果、堅は果敢に攻めるが倒し切れず、防いだ英雄はカウンター気味に攻撃を重ねる事でお互いにダメージを蓄積させていった。


ちなみにオッズは、ドロー、堅、英雄の順で高い。

勿論僕はドローに賭けている。夢を買うのは大好きなので別にいいだろう。


掛けられる情熱・・の籠った温かな声援のお蔭か、2人の顔に悲壮感が浮かび上がっているのが印象的だが、残念ながら助けられそうになかった。

さきほど見に来ていたイヴァンさんとジナイーダさんに相談したら、イヴァンさんは笑って審判となり、ジナイーダさんは苦笑しながら僕の隣に立って言ったのだ、『危なくなったらイヴァンが止めるから大丈夫よ。趣味に走った男の子は好きにやらせるのが一番ね。』と。

その男だった僕なので完全に言い返せなくなったのだが、副産物として隣にこの人が来てくれた事で情欲に溺れたボディーガードが撤退してくれたのは非常に助かった。たぶん分かっていて助けてくれたのだろう。本当に有り難う御座います。

尻タッチを回避できない様に3人がかりで挟もうと動き出していたので怖かった。


「時間がある時にこの国の結婚に付いてはちゃんと調べておきなさい。知っていると思うけど、ここは同性婚が出来るから、あの手の子達に連れて行かれても知らないわよ。」

追い打ちをかける様にジナイーダさんが少しだけ心配そうに言うのだが、もう手遅れかもしれない。

多種多様の種族が入り乱れるこの国は宗教観もごった煮なので、多くは無いが同性で結婚している人もいる。僕は魅了体質の為男女問わずのセクハラ程度で済んでいるが、英雄は何度か迫られていると聞いた。堅にも気を付ける様に言わなきゃな。


「さて、アスマ、そろそろ終わらせるから上手くやるのよ? 3人で積もる話があるんでしょ?」

腕時計をチラリと見たジナイーダさんが僕の目を見て言う。

「そりゃあ嬉しいですけど、どうするんですか?」

僕が困惑しながら聞くと彼女は面白そうに笑い、背中を嫌な感覚が走る。

「ジナイーダさん、ストッ――」

「2人とも、勝った方は今夜アスマが添い寝してくれるそうよ。」

静止は空しく空を切り、いつもより少しだけ楽しそうな彼女の言葉は辺りに沁み込むように響いた。

戦う男達も確かに受け取ったのだろう、その顔は先ほどまでと違い戦士の顔付きをしている。

2人は示し合せた様に距離を取り、お互いに決着をつけるための準備をする。

「オオオオオォッ!!」

「すぅ・・・・せいっ!!」

英雄が雄叫びを上げ、堅は深く呼吸し型の一部を取って気合を入れる。

「やめて、僕の為に争わないで・・・・」

小声で力なく呟いた僕の声を拾ってジナイーダさんが口に手を当てて苦笑する。

「本命はどっちなの?」

笑いながら聞いてくる彼女を恨みがましく睨むが、どこ吹く風と言った感じだ。

「ノーコメントで。と言うか2人とも友人です。」

「そう。まあ、宿屋で襲われない様に気を付けなさい。いくら飼い馴らしたと思っても男は分からない生き物よ。」

『知っています。』とは言えないので、疲れた様に返事をするとまた苦笑される。

どう頑張っても敵わないので、逃げる様に視線を2人に向けると、丁度睨み合いが終わり、英雄が駈け出した所だった。

それに合わせて堅も踏み込む。

リーチが長く、勢いを付けた英雄が右腕を振り抜き、堅の胴体を狙う。

彼は間合いと速さを重要視する堅の流派に、速度で劣る自分では躱されると考えたのだ。

顔に対する攻撃をされ慣れている堅に『素手で顔を狙うのは悪手だ。』と彼自身が話していたのを思い出したのかもしれない。


それに対して堅はふっと息を吐いて、向かって来る英雄の攻撃に左前腕を当てて弾き、予測していた英雄も弾かれた腕を一気に引き戻そうとする。

その瞬間、堅が左手で英雄の手首を取り離脱を妨害した。

「ッ!?」

「フッ!!」

堅は腕を取ったまま、流れる様に右足で英雄の顔を狙い、回し蹴りを放つ。

一連の動きを予想していた英雄は左腕を上げて受け、すかさずその腕を下げる事で続けざまに放たれたボディへの蹴りを防ぐ。

蹴り足を下ろした堅に止めを入れようと英雄が踏み込む。

だが、彼の動きはまだ終わっていなかった。

降ろした足を地へ着けずにもう一度膝を上げ、最初とは違い内側に振り、先程とは逆から踵で顔を狙ったのだ。

英雄は絶妙なタイミングで放たれた裏回し蹴りを止める事が出来ずに受けるが、まだ膝は折れずに進む。

止められなかった堅と、近接戦で最も怖い、予想外のダメージを受けた英雄の顔が歪んだ。

それでも2人は止まらずに次の行動に映る

英雄は自由に動く左手で殴り付けようと踏み込むのだが、それが決めてとなった。

堅が握ったままの左腕を軽く引いて、相手ひでおの重心を踏み込んできた側の足に強く掛けさせると同時に、一連の流れでまだ浮いていた右足を膝の裏に振り下ろす事で足を払ったのだ。

バランスを崩して倒れた英雄と、両足を地に着いた堅という決着の構図が出来上がる。

堅はそのまま英雄の顎に正拳を突き込み、倒れる際に体を支えた英雄の両腕は防御が間に合わず、吸い込まれるように顔の前でピタリと止まった。


「そこまで! 勝者ケン!!」

動きの止まった二人を見て、イヴァンさんが堅の勝利を宣言し、辺りに歓声が響き渡る。

「俺の勝ちだな。」

「クソッタレが、魔力込なら負けねえっつうの。」

2人が肩で息をして悪態を吐き合う。

その光景が懐かしくて目頭を熱くしていると、軽く肩を叩かれる。

「ほら、早く行きなさい。回復が必要でしょ?」

ジナイーダさんが微笑みながらそう言うと、僕は慌てて辺りを見回し、待機していた治療師の人を探す。

見つけた彼はニヤリと笑いながらこちらを見て手を振る。

それを見て頭を下げると僕は2人の下へと駆け出す。辺りは既にお祭りムードなので茶化されることは無かった。

「2人ともお疲れ様。」

「おう、負けちまったよ。」

「勝つには勝ったが、自分の土俵だから何とも言えねえな。」

苦笑している彼らに回復魔法をかけて僕も笑う。

「ふーん? なら僕との添い寝は要らないか。」

「それはないな。安心しろ、優しくしてやるぜ。」

冗談めかして言うと、堅から非常にいい笑顔で返された。

やっぱり忘れてないよね。言う前から目がギラついていたから分かってたよ。

「別にいいしー、俺は月単位で堪能したから気にしてねえしー。」

地面に転がる英雄が面白くなさそうに言う。

「そうだろうな、一線こそ越えなかったが何回も添い寝したからもう飽きただろ? そろそろ新しい出会いを――」

「お前を愛するのに、理由がいるのか?」

英雄の言葉はノリと勢いだと言うのは分かっていても、流石に恥ずかしいので目を逸らす。少し頬が赤くなってるだろうな。

「真顔で言うな。」

そう絞り出すような声で言うと、英雄はとても満足そうな顔で見上げてくる。そんな目で見るなと内心で悶えていると、後ろから抱きしめられ、右耳に良い声で堅が囁く。

「安心しろ遊馬、俺はこんなヘタレと違ってちゃんとお前を幸せにするから。」

完全に赤くなった僕は逃げようとジタバタするが拘束は強くなって一向に離れない。

「離せ! はーなーせー!! ってお前もそんな面白くなさそうな目で見んな!!」

寝ている英雄が起き上がり、堅を睨みつけ、こいつはそれを鼻で笑う。

「どうでもいいから離せ。」

僕がジト目で堅を見ると彼は何故か満足そうに微笑む。何でだよ・・・・

その時偶然ジナイーダさんが目に入ったのだが、顔を逸らして笑うのを堪えていた。死にたい。

「頼むから放して・・・・」

蚊の鳴くような声でそれだけ言うと、顔を真っ赤にして俯く。

堅はその姿に納得いったのか耳の裏にリップ音が響くようにキスをして離してくれた。


耳を押さえながら慌てて振り返ると親友が満足そうな笑みを浮かべていて本気で怒りたくなるのだが、色々と疲れ切っていた僕は溜息を吐く。

「ばか。」

なんだかんだ言っても、やはりまた再会できたことが嬉しいのだ。短くそれだけ言うと深呼吸をして、微笑みながら2人に言う。

「さあ、帰ろう。」

彼らも頷き、イヴァンさん達に挨拶をして3人で訓練所を後にする。


宿屋へと向かう夕日に染まった帰り道で、僕は両隣を歩く英雄と堅をチラリと盗み見た。

何も言わずにまた3人でこうしてゆっくりと歩いている。それだけで胸が一杯なって自然と笑みが漏れる。

僕の様子に気が付いた2人が首を傾げながら聞く。

「どうした?」

「やけに上機嫌だな?」

「ふふ、またこうして歩けるのが嬉しくて。」

正直に話すと彼らは恥ずかしそうにそっぽを向く。こんな仕草1つ1つが大切な思い出を蘇らせて胸を熱くさせる。

その反応が嬉しくて、両手を彼らと繋ぐ。

あの懐かしい夢の所為か、何となく童心に帰って行動してしまったのだが、その手は優しく握り返される。

まあ、今の姿ならセーフだろう。

「こういう時は『おかえり』じゃなくて、何て言えばいいんだろうね?」

僕がそう聞くと英雄が答える。

「『いらっしゃい』で良いのか?」

「なら俺は『お邪魔します』だな。」

「なんだか今1つ締まらないね。」

堅の言葉に僕が苦笑すると2人も笑う。

「俺達らしくて良いじゃねえか。」

英雄がそう言うと僕達は頷き合った。

そうだ。こういうキッチリとし過ぎず、だからと言ってだらけ過ぎないこの空気が僕は大好きなのだ。

「ねえ、堅、こっちに来たのって理由があると思うんだけどさ、理由の一部に僕達が居たからって言うのはあるの?」

僕がそう聞くと彼はすぐに答えてくれた。

「ああ。俺にも事情があったんだが、マレフィさんから今回の事を聞いて、迷わず選んだよ。」

ここは人を殺める世界であり殺められる世界だ。よく一緒に集まる堅なら人間性や道徳的にそう言う事をしっかりと考えない筈はない。それならこれがしっくりくる。

「堅、来てくれて『ありがとう』歓迎するよ。」

笑って見上げると、彼は一瞬だけ驚いた顔をし、優しく笑う。

「ああ、こっちこそ改めてよろしく頼む。」

そう言った彼に、僕らは頷き返す。

「さて、親友思いの俺としては、少しぐらいご褒美が欲しいと思うんだ。」

堅は言い終わった後に、流れる様な動きで手の握りを一瞬だけ甘くして、繋ぎ方を変える。

恋人繋ぎと言う奴だ。

それに動揺した瞬間に英雄も繋ぎ方を変えやがった。

僕は溜息を吐き、握り方を戻そうとしたらガッチリと指で止められる。

「おい。」

「偶には良いじゃねえか。」

「俺なんて冷たい誰かさん達の所為で半年も仲間外れだったから、これぐらいの役得はあっても良いと思うけどなー。」

英雄はともかく、堅の言葉には良心が傷んだのでもう2人とも好きにさせる事にした。

確かにあの時、堅を呼ぼうと思えば時間はあったのだ。慌てていたし半分ぐらい混乱していたので黙っていたが、確かに今思えば悪い事をしたと思う。

「ごめん・・・・」

「また会えたし、これからその分も楽しむからいいさ。覚悟しておけよ?」

少しだけ沈んだ僕に、堅が気にするなと明るく返してくれる。

「覚悟するのはお前だ、堅。現実は俺の予定よりハードになったから、予想を2段階ぐらい修正しておけ。」

苦笑する英雄と頬を引き攣らせる堅を見て僕は苦笑する。


お前ら、ご要望通り全力で振り回してやるから覚悟しておけよ?

そう考えて、これから来るであろう騒がしい未来に僕は心を震わせるのだった。


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