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第二章.27

スタッフルームに非難してから20分ほどで迎えが来て、ようやく僕は外に出る。

「遅いよ。お腹空いた。」

「悪い、最後に模擬戦をしたブロンズ上がりたての奴が参考になる動きをしててな。相手の体力ギリギリまで受けてたら遅くなった。」

対戦相手の子に少し同情しながらテーブルに掛けて料理を決めると、凄く嬉しそうに注文を取って行った子を2人で見送る。

「なあ遊馬、少し前から思ったんだけど――」

「うん、言いたい事は分かるよ。だから言わなくても――」

「お前に安全な場所ってもう残ってないんじゃないか?」

「・・・・・・・・」

そうなのだ。実はスタッフルームでも何度か襲われかけている。

「年下の子はストレートに襲い掛ってきて、年上は妖しい目付きと吐息で後ろから迫ってくるよ。」

「・・・・よく無事だったな。」

英雄の痛ましいものを見る目がとても心に突き刺さる。やめてくれ。

「見る事は出来ないんだけどさ、アドリアーナの精霊ちゃんがガードに付いてくれててね、何かが切れて一線を越えようとした相手は自動迎撃してくれるんだ。」

「お前召喚士だろ。自分の仲間たちはどうした?」

自慢げに答えると少しだけ呆れた英雄がそう言ってくるのだがこれには理由があるのだ。

「ルルもチチリも動物型だから手加減が難しいんだよ。そうでなくてもモフモフ枠だから他の子に確保されて動けなくなるし、フロウは男の子だから目のイってる女の魔境に放り込むのは可哀想じゃないか。」

僕が溜息を吐くと理解してくれたのか頷く。

「最後の砦にして、ある意味最高戦力のプラフィは?」

「プラフィは女もいけるハイブリットサキュバスだから駄目。襲ってきたスタッフが完全に堕ちる。最悪の場合はそこから二次災害でパンデミックを起こすよ。」

鼻で笑って答えると、ようやく状況の重さに理解したのか、こいつは軽く冷や汗を流してくれた。

「俺の所に来ると最悪、争奪戦になるしな。」

「精霊の集客効果で参加者も増加しているだろうから、騒ぎは前回の比では無いね。」

僕らは少し前に悪乗りで行われた血で血を洗う『第1回アスマちゃん争奪戦』の内容を思い出す。

事の発端は僕が英雄を迎えに訓練場へと入ったことが原因だった。


いつも通り悪乗りした愛すべき馬鹿共が、見学していた僕へ好みのタイプを聞いて来た時に、何も考えず『強い年上の人が大好きです。』と答えてしまったのだ。

それを機に強い奴を決める戦いが勃発。場内はお祭り好きな馬鹿共と本気で僕を狙いに来た救い様の無い馬鹿共で大騒ぎとなる。

20~30代の連中は経験故に実力が相当なのは当たり前であり、年下だが若さゆえに諦めきれない10代は暴走し、割と本気で流血沙汰になった。

回復魔法のお蔭で致命的な傷以外は全く問題無かったりするのだが、何分数が多かったので常駐する治療師だけでは追い付かない事態に発達する。

(何が悪いって一部の武闘派・・・治療師が騒ぎに参加していたのが何より悪い。)

適正持ちの僕は勿論の事、騒ぎを聞きつけた他の者達が治療へと周り、治療師見習いの子達は先生方からいい経験になると駆り出され、騒ぎが終わった後はみんなで飲めや歌えやの大騒ぎとなり、悔恨の残らない素敵なお祭りとなった。

その1日だけでかなり回復魔法の腕が上がった事は喜んで良いのか悪いのか。


余談だがこの大会中に英雄は何度か片腕や片足になっている。

趣味ではないが重要性は理解していたのでしっかりと訓練していた回復魔法だったが、親友のそんな姿を見てそれまで以上に熱を入れたのは内緒だ。

まだ簡単な傷しか治せない無力感は本気で涙を流すには十分の出来事となり、泣かせた(?)英雄は僕を心配した先輩方の優しさによって刃物から鉄拳制裁に切り替えられた。

ボロボロになった親友のこぼした『さすがに理不尽過ぎるだろ・・・・』と言う言葉を僕は忘れない。ごめん。


騒ぎが完全に収まった次の日、片付けが殆ど終わった頃に僕はアズレトさんから呼ばれたのだが『怒られるのかな?』と内心落ち込みながら向かった先で滅茶苦茶上機嫌な彼から『良くやったアスマ。お前のお蔭で予想外の収益が出た。』とのお言葉を頂く。

何でも、見習い治療師など飛び入りの裏方を含む参加者全員の質の向上と、どんちゃん騒ぎによって落とされたお金が高く評価されたそうだ。

会場はギルド内の上、片付けは参加者全員で行った為、早いし経費は掛からないしで完全に黒字収支だと言われた。

火種になった事で特別ボーナスが出たのだが素直に喜べない事件となり、アズレトさんから『また起こしても良いぞ?』と温かな笑顔で送り出される内心非常に複雑な結果となる。


英雄と『普通は厄介事起こすなって怒られるんじゃないのか?』と話したのだが、ジナイーダさんから『見習いの子達へ経験を積ませる為に大規模な仕事を作成していたから丁度良かったのよ。』と言われ、納得した。

今回の治療師たちは冒険者ギルドの人間だったので、訓練にしても経費が掛かり、関係各所と日程を合わせる等、色々しなくてはけない所を、たった1日で全て解決してしまったのだ。そりゃあお礼が出るわと心の底から納得する事になる。


ちなみに大会を優勝したのはフワフワ尻尾が魅力的な獣人リスのお姉さんだった。

彼女は酒場で働いていた時に知り合いとなった方で、僕の淹れる珈琲を楽しみにしてくれる好きなお客さんの1人である。

優勝賞品として持ち帰られるのかと少し焦ったが『専属のバリスタにするのも良いんだけど、最っ高の珈琲を飲ませてくれるのなら特別に見逃してあげよう。』

と冗談交じりに自由を保障してくれたので、貰ったボーナスで必要な器具や豆を仕入れ、今の僕が作れる最高のブレンドを御馳走した。

以前働いていた時にずっと考えていたのだが、元々ここは酒場なのでバリスタとして実力を生かし切る事が出来なかったのだ。

後日酒場の一角を貸してもらう事で要望通りに淹れてみたのだが、枷の外れた僕の力作は大変気に入ってくれたようで、粉にした物をパックで渡すと本気で喜ばれた。凄く嬉しい。

去り際に『どうしよう、本気で捕まえて行こうかしら?』

と小声で呟いたのが聞こえてしまったのだが、踏み止まってくれると信じている。

リス姉さんはBランクの冒険者なので僕なんて片手間で捕まってしまう。

英雄と2人掛かりで何度か手合わせをしているが未だに残像しか見えない人なのだ。


その後香りに釣られて来たイヴァンさんとジナイーダさんや、仕事上がりのアドリアーナとお姉さんズに、場所を提供してくれた酒場のマスターへも振舞った。

他の人達も羨ましそうに見ていたのだが、豆が残っていないのでそこは諦めてもらう事になる。

目付きが超怖かったのは言うまでもない。



「次リス姉さんが優勝したら本気で攫われそうだから勘弁してよ。」

「前の豆もとっくに切れているだろうからな、それの補充もかねて優勝を狙ってくる可能性は高いぞ。」

2人で目の血走った彼女を想像して背中を寒いものが走り、思いっきり溜息を吐くと、到着した料理に舌鼓を打ちとりあえずこの話は終わる事にした。


食事を終えてから1時間ほど休憩した所でまた訓練を始めようと移動をしていた時に、僕らは後ろ髪を引かれるような感覚を感じて、ギルドの入り口を振り返る。

丁度僕達がロビーの中央にいた事もあり相手の顔がはっきりと見え、向こうも真っ先にこちらを見つける事が出来たのだろう。

入り口で僕らを呆然と見る黒髪・・の男性を見て、僕は息を呑む。

「ねえ英雄、あれって・・・・」

「幻を見てる訳じゃねえよな?」

「うん、プラフィも間違いなく本物だって。」

僕らが確認しているのを見て、相手の男は苦笑しながらこちらへと歩いてくる。

色々な気持ちがぐちゃぐちゃに混ざり、隣にいる英雄の顔をそっと見ると、苦虫を噛潰した様な顔をしていた。待て、その顔はおかしいだろ。

こちらへと向かう男は英雄へ視線を向け、嘲る様に笑う。

となりからギリッと歯軋りの音が聞こえて僕は溜息を吐く。

まだ距離はあるのだが、男は僕達に声を掛ける。


「遊馬、英雄、久しぶりだな。随分と探したぞ。」


懐かしい声に僕の目頭が熱くなった。

もう二度と会えない筈の親友が目の前に現れたのだ、偽物ではないかと何度も何度もプラフィに確認するのだが、彼女はその度に大丈夫だと優しく諭してくれる。

「おいおい、まだ半年も経ってないのに、もう顔を忘れたのか?」

少し寂しそうに苦笑した彼を見て、堰を切った様に涙が溢れ、僕は駆け出す。

「堅!!」

親友の名前を呼ぶと、彼は嬉しそうに両手を広げて僕を迎えようとする。

夢で会っていたからなのか、本物の親友と再会した事で嬉しさが振り切り、何も迷わず飛び込もうとした所で――

「うわ!?」

僕は後ろから腰に回されて腕で止められた。

「何しに来やがったこの糞野郎。俺達の幸せなセカンドライフを邪魔しないでくれるか?」

頭上から怨嗟に満ち満ちた声が響く。

「抜け駆けしたクズ野郎を潰す為、代表してやって来たに決まってるだろ? まったく、愛する女との再会を邪魔するなんて救い様の無い奴だな。」

鼻で笑って英雄を非難する堅だが、こちらから言わせてもらえば、お前らと恋愛関係になった事なんて1度もねえよ!!

そもそも、なんで女になって初めて会うのに僕だって一発でわかるんだよ!? 確かに顔は変わってないけど、落ち着いて受け止めすぎだろ!! もう少し迷えよ!!

「迷う訳ないだろ?」

「俺達がその姿をどれほど熱望していたと思ってんだ?」

2人の『何言ってんだお前?』といった心の底から困惑した声と表情に内心ブチ切れかかっていたのだが、そこは理性の力で押しこめる。

殴るのは後でも出来るのだ。

今はそれよりも聞かねばならない事があったので、深呼吸をして英雄とにらみ合いを続ける堅に聞く。

「ねえ、どうしてこっちにいるの?」

僕の言葉で二人はじゃれ合うのを止めて僕を見る。

「んー・・・話としては簡単なんだけど、場所が悪い。」

堅は少し悩んだ後にそう言うと、後でしっかりと話すことを約束してくれた。

「で、遊馬、英雄、俺も聞きたい事があるんだけどさ、周りの視線がすっごい怖いんだ。お前らいったい何したんだ?」

堅が冷や汗を流しながら辺りを見回すと、そこには負の感情を込めた大量の目がこちらを射抜いていた。何の感情も映さない目もあるが、そちらはもっと怖いので放置だ。


『なんだあいつ?』

『黒髪って事はアスマちゃんと同郷って事か? 幼馴染死すべし。』

『あの野郎、良いケツてるじぇねか。楽しみだぜ。』

『あはは、またお姉ちゃんに五月蠅い羽虫が寄って来ちゃった。・・・・殺さなきゃ。』

『問題はヒデオの良い人なのかアスマちゃんの良い人なのかだな。』

『さっき愛するとか言ってなかったか?』

『よし。私刑リンチだ、とにかく私刑リンチにかけよう。』

『みんな、抱き付いて止めたヒデオの料理準備は整ったらしい。派手に行こう。』

『アスマちゃんに抱き付かれそうになった新顔は?』

『地獄に叩き落とせ。当然だ。』


僕を挟む2人の顔に汗がにじむ。

「なあ、お前ら本当に何した。」

「何もしてねえよ。昔と同じで遊馬が無自覚に魅力・・を振りまいているだけだ。」

「してないよ!!」

3人でギャーギャー騒いでいると、僕達を囲む包囲網がいつの間にか完成し、少しずつ狭まって行く。


凄まじい殺気に堅の頬がかなり引き攣っているが、さすがに3人とも余裕がなくなってくる。

彼も皆と仲良く出来ればいいな。


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